第2話:「お姫様のパーティー?」
主人公「天城 旅立」は、アバターと全く同じ身体・戦闘能力を持って、ゲームの世界へ転移する。
そんな彼は転移して早々、巨大なクモと戦うことになり、何とか撃破する。
・彼はどうなってしまうのか。
・元の世界に戻れるのか。
現状を整理してみよう。
・オープンワールドRPG『アナザー・ユニバース(通称“アナバ”)』をプレイし、就寝した。
・だが目が覚めると、僕は主人公としてゲームの世界に転移していた。
・しかも全て全てを引き継いだ、「強くてニューゲーム」での転移だった。
・そして、これは間違いなく「現実」だ。
アイテム・コレクターとしての本能から、倒した巨大クモも解体し、素材を収穫した。容量拡張魔法で内容量を大幅に拡大した小型バックパックへ詰め込み、「スタート・エール村」へ向かった。それにしても中ボス・クラスのモンスターが、「スタート・エール村」の目と鼻の先に出現するなんて…。そんな仕様はあっただろうか…。
(ちなみに、後で聞いた話だが、“皮膚をはがれ、内臓を切り裂かれた巨大クモの死体”に遭遇し、恐怖のあまり引き返した冒険者達が続出したという)
巨大クモと戦闘した地点から、15分ほどで村へ着くことができた。
思ってもいなかったことだが、村に入り、僕は感動した。 『ゲームの世界が目の前に広がっている』という、まるでテーマパークに来たような気持ちだ。ゲームをプレイしている時とは違い、NPCだと思っていた人々が交流し、実際に生きているのだということを実感した。
感動を覚えつつ、とりあえず僕は「ギルド・ロッジ」へ向かった。というのも、僕は(ゲームの中では)冒険者なのでギルドに加入している。
ギルドは巨大な組織で、獲得した素材やアイテムを持ち込むと換金してくれたり、冒険者へ依頼=仕事を斡旋してくれたりする。冒険者とギルドの関係は、例えるなら“芸能人にとっての「芸能プロダクション」”といったところだ。
そして各地域におけるギルド支部を担う建物は「ギルド・ロッジ」と呼ばれている。会社・宿泊・商業施設を兼ねており、ギルド・メンバー=冒険者へ衣食住の提供も行っている。まさに、腰を落ち着けて現状を考えるには、うってつけの場所だ。
「うん?お前!タットじゃねぇか!」
ギルド・ロッジへ入ると、覚えのある声が聞こえた。声の方を向くと、食堂で酒を片手にこちらを見つめる男がいた。
「フォックス!」
僕も思わず、声を上げ駆け寄る。
「タット!お前まだこの村に根を張ってやがったのか!」
「フォックスこそ、どうしたんだよ。もう戻ってこないかと思ってたよ!」
(ちなみに、この世界の人には僕の名前である“タツト”という言葉が発音しづらいらしく、“タット”と呼ばれることが多い。)
ハット・ポンチョ・ブーツという、カウボーイ然とした風貌の、この男は“ハリー・フォックスフッド”。みな愛称を込め”フォックス“と呼んでいる。
フォックスは、この世界では非常に珍しい、リボルバーを扱う冒険者だ。無論この世界で銃はまだまだ普及しておらず、ギルドが試験的に少数生産しているのみだ。ギルドは優秀な遠隔戦闘能力を持つ者に銃を配布し、データ収集も兼ね、リボルバーを使った戦闘を義務付けているそうだ。
彼は端的に言えば「ゲーム開始時のチュートリアルで出てくるキャラクター」だ。序盤は僕の相棒として、冒険についてきてくれる。
何より、彼がついているうちは死なないのだ。オープンワールドRPGである、このゲームは”死に要素”にあふれている。ただ、彼が相棒としてついているうちは、あらゆる危機から救ってくれるのだ。
一番覚えているのは、トロールに捕まり食われる順番を待っていた時、フォックスが助け出してくれたことだ。そんな彼はチュートリアルが終わると、“ギルドの仕事”でこの村を去ってしまったのだ。
「タット。お前にあえてほんとに嬉しいよ。実はお前に用があってこの村に来たんだ。力を貸してくれないか」
「僕が?冒険者としては、君だって十分…」
「いやいや違うんだ。実はギルドの仕事で、お姫様のお守をさせられてて…。」
フォックスの話をまとめると、彼はギルドの指令で、ある国のお姫様の”仲間を集める旅”に、秘書兼ボディーガードとして同行させられているそうだ。しかもお姫様は、ただのパーティーではなく、“魔王軍に対抗できるパーティー”を集めているらしい。
「タット。やってくれるか?」
「僕は…」
「フォックスフッドさん。あなたが“腕利きの戦士”がいると言うから、こんなヘンピな村に寄ったというのに…。あら、もしかして、この方がその?」
僕とフォックスの話を遮ってお姫様が話を始めた。
随分よくしゃべるお姫様だ…。
圧倒される…。
「初めまして。わたくしはケイト・ネイベリーと申します。あなた、お名前は?」
「アマギ・タツトと言います。フォックスと同じく、タットと呼んでください。」
この“ネイベリー”というお姫様は、プリンセスというだけあり相当な美人だ。
ただイメージと違ったのは、ドレスではなく、ガチな装備を身に着けていることだ。胸・肩・肘・膝・脛 に部分的なアーマーを装備しており、僕と同じく機動力を重視したスタイルであることが伺える。しかも武装はマチェットスタイルの剣と、円形の盾という、かなり堅実な装備だ。冒険に憧れただけのお姫様では無いことがわかる。
「フォックスフッドさんが言うには、あなたは“腕利きの戦士”だそうだけど、ランクはどうなのかしら?」
「は、はい。一応、Sランクですけど…」
「Sランク…!本当に腕利きのようね…」
実はこのゲームは、ストーリーを進めていけば誰でもSランクに到達するようになっている。(ポケ○ンで、絶対にポケモンリーグのチャンピオンになるのと同じだ。)
しかも僕は「強いモンスターを討伐した」とか、「人々を救った」とか、戦闘の功績によってSランクに昇級した訳ではない。
「制覇不可能と思われていたダンジョンからアイテムを持ち帰ってきたり」、「非常に価値の高いアイテムをギルドにもたらしたり」など、あくまでもアイテム収集の功績が認められてのSランク昇級だ。
多分このネイベリーとかいうお姫様は僕のことを「Sランク冒険者=相当強い」と思っているのだろう。コレが中々なギャップな気がして、心配だ...。
「タットさん。わたくしケイト・ネイベリーからお願いがありますの。わたくしのパーティーに入ってくださらないかしら」
「ま、まぁ、お姫様の頼みなら良いですけど…」
「あなたなら、そう言ってくれると思っていましたわ!」
お姫様は僕の手を取り、ブンブンと何度も握手をしてくる。肩が外れるかと思った。
別に嫌でもないから承諾したけど、僕の今後はどうなるんだ…。