11
「…ださい…て下さい…起きて下さい。」
鈴の音のような声が聞こえる。誰かに起こされるなんていつぶりだろうか。
「あと五分だけ…」
「早く起きなさい。」
鈴の音とは違った、氷のように冷たく刺々しく、しかし澄んだ美しい声とともに、足蹴が飛んでくる。
「ぐえっ。」
「クロエ、乱暴しないであげて。」
曖昧としていた意識がはっきりしてくる。目を覚ますと、地面に寝そべっている俺を見下ろす形で、二人の少女がいた。一人は小麦のような金色の長い髪を持つ少女。優しそうな少女で、蹴られたところを痛がっている俺を心配してくれている。もう一人は先程俺を、蹴りつけた少女。短い黒髪を持つ少女で、刺々しい視線で、見下している。二人は街中であった時の、地味な外套姿とは違い、金髪の少女は、白を基調としたドレスのような甲冑姿、黒髪の少女は赤の装飾が施された甲胄を身にまとっていた。系統は違うが、二人共、整った顔立ちで、対称的な色調の二人が並んでいる姿は、まるで絵画のような美しさがあった。
コルトは立ち上がろうとするが、上手く行かない。そこで気づく。手足が縛られている。なぜ自分が拘束されているのか、覚醒したての、まだ少しぼやけた頭を必死に回す。そしてある一つの結論にたどり着く。
「俺に乱暴する気か!?いやらしいことをする気なのか!?体は屈しても!心までは屈さないぞ!」
この二人の美少女たちは、きっと俺の色香に惑わされてしまったに違いない。いつだって色男というのは罪なのだ。
また蹴りが飛んでくる。今度は、静止の声は飛んでこなかった。
「えっと…初めまして…で、いいのかな?一度、お兄さんとは街中で会いましたよね。私はジャンヌです。こっちの子はクロエ。お兄さんのお名前は?」
「俺はコルタリウスだが…ジャンヌちゃん、これ外してくれない?」
きつく縛られた、手足をぶらぶら動かして、解放を懇願する。
「クロエ、コルタリウスさん悪い人じゃなさそうだよ?外してあげてもいいんじゃない?」
「ダメです。この男は不審です。なぜここにいるのか。怪しすぎます。魔女の間者かもしれません。」
クロエという少女は、俺を魔女の手先かと訝しんでいるようだった。とんだ勘違いだ。むしろ逆。魔女を狙ってやってきたというのに。
「いやいや!違う!違う!俺は善良な一市民だよ!魔女の手先なんて、滅相もない!」
クロエは俺の弁明を聞くと、眉をピクリと動かす。
「善良?両腕を切り落として、もう二度と悪さをできないようにしてやりましょうか?」
バレていた。本当にスリがバレていたとは。腕には自身があったのだけれど…。旦那の言うことは、本当だったのか。...旦那...?そういえば旦那が魔女に攫われたままだった。