釣り1 そんなつもりじゃなかったのに
錆びついてきたこともあり、武器や道具を買いに様々な店を練り歩いていた。
ある店の前を通ると、店主が私を呼び止めた。
「あんた、漁師の才能があるね」
「……え?」
突然すぎる会話についていけず、ぽかーんとしていた。
「これやるよ」
店主は釣竿を私に渡してきた。
てっきりボロボロかと思ったが、意外にも立派な釣竿だ。
「どうしてこれを私に?」
「漁師の勘さ。俺は六十年以上漁師をしていたから分かる。あんた、漁師向いてるよ」
「私が漁師に?」
「嘘だと思うなら今日にでも釣りに行ってみな。自分の才能に度肝抜くぜ」
半信半疑だった。
しかしせっかく釣竿を貰ったのだし、川にでも行こう。
私は川まで二時間以上かけて歩いた。
道中、こんな噂を耳にした。
「この先の川にヌシが出たらしい。それを釣れば一生遊んで暮らせるだけのお金を得られるという」
そんな馬鹿なとは思いつつ、あの店主が漁師だけで生計を立てているということで、張り切って釣り針を川に投げる。
「これだけ時間をかけたんだ。大物釣れろ」
早速引っ掛かった。
投げてから一分も経っていない。
これは本当にセンスあるんじゃないか。
私は勢いよく釣竿を引く。
川から姿を現した釣り針についていたのは……
「長靴……」
私は長靴を手にし、
「くそっ。ゴミじゃねえか」
また川に捨てようとも思ったが、それは自分が川を汚しているみたいで嫌だったので、用意していた袋に長靴を入れた。
「今度こそ」
再び釣り針を川へ。
また一分も経たず釣り針が引っ掛かった。
「ヌシ来いヌシ来いヌシ来い」
勢いよく釣竿を引っ張る。
釣り針に引っ掛かってたのは……
「びしょ濡れの本……」
私はびしょ濡れの本を手にし、
「くそっ、ゴミじゃねえか」
袋に本を投げ捨てる。
二時間以上かけてここまで来たんだ。
ゴミだけ釣って終わりなんて悲しすぎる。
私は再び釣り針を川へ。
今度は布の切れ端が。
その次は猫耳のアクセサリーが。
そのまた次は釣竿が。
「全部ゴミじゃねえか」
結局三時間かけて釣れたのは袋いっぱいに詰まったゴミ。
店主さん、私は自分の才能に度肝を抜きそうだ。こんなにゴミを釣る才能に。
置いていくのもバチが当たりそうだったので、仕方なく持って帰る。
「ああ、このゴミだと有料かな。一食分のお金は失うか……」
結局ごみ処理場で一食分の食費を失い、一匹も魚を釣ることなく帰宅する。
「災難だ」
後日、煌星が私のもとに駆け寄る。
珍しいなと思いつつ話を聞き、私は耳を疑った。
「川のごみ拾ったことでギルドから表彰されてるよ。しかも褒賞金も出るって」
「マジッ!?」
なんだかんだ大物が釣れた。
まさか海老で鯛を釣れるとは。
私が満足感に浸っていると、煌星が耳元で囁く。
「ねえ、二人には内緒にするからさ、お金山分けしない」
こいつをリリースしようか。