ドロップアイテム 1
サポーターの苦悩。
ドロップアイテムの収集は、主に後衛で戦闘の少ないサポーターが務める。
だがこの時、私はそれを知らなかった。
相変わらず初心者歓迎遺跡でコボルトと死闘を繰り広げていた。
コボルトを二体倒しただけでパーティー全員が疲弊していた。
入り口近くの壁際で座り込み、他のパーティーがモンスターと戦う姿を観察していた。
剣使いの前衛二人に魔法使いの後衛二人の四人組。
彼らが対峙するモンスターは三体のスライム。
ドロドロとした粘液の塊の容姿をした生き物ーースライム。
心臓などの重要器官はなく、全身が液状で構成される不気味な生物。
個体によって粘り気が違い、壁に張りつけるほどの粘性を持つ個体もいる。
体を構成する液体は体内に取り込んだものを自身のエネルギーとして溶解する。だが自身で消化できる以上のエネルギーを取り込んだ場合、耐えきれずに体が魂のない脱け殻となる。残るのはゼリー状の体だけ。
四人組の内、前衛が二体のスライムをそれぞれ引き寄せ、その内に仲間外れになったスライム一体に後衛の魔法使いが火属性の魔法を浴びせる。
スライムの体は燃えていき、ゼリー状の体だけが残る。
残り二体も同様に倒される。
「ナイスコンブネーションだ」
彼らはそのまま他のモンスターの討伐へ向かう。
と、私は思っていたが違った。
彼らはスライムの残骸を小袋に詰め、持ち帰る。
「ん? まさか食べるのか? コンブじゃあるめえし」
「確かスライムって消化したものによって味も変わるけど、このダンジョンのスライムは土の味がするのよね」
氷雨が「げぇ」という表情を浮かべながら私の横まで移動した。
まるで経験者の台詞。
「食べたことあるの?」
「もちろん。でもすぐ吐いたけどね」
笑笑、と無邪気な笑みを浮かべる氷雨。
氷雨は大人しくて自分の趣味はあまり話さないけど、まさか……
「どうしたの?」
疑念の表情をしていた私を氷雨は不思議そうに見ていた。
氷雨に趣味を聞こうとしたが躊躇い、別の質問をすることにした。
「ねえ氷雨、何であのパーティーはスライムの残骸なんて持ち帰ってるの?」
「ドロップアイテム。冒険者は倒したモンスターの残骸を売って生計を立ててるんだよ」
「だからか」
ん? ちょっと待てよ。
私は今までモンスターのドロップアイテムを回収してこなかったし、パーティーの誰もそれを指摘しなかった。
ん? 氷雨も黙っていた。
あれ? え?
「氷雨、いつから知ってたの?」
「ずっと」
「ずっとっていつから?」
「異世界に来てからずっと」
「……大損してね」
「大損ってほどこのパーティーでモンスター倒せてないから大丈夫」
「やめて。心に響く。仲間だからこそ心に響くし皮肉だし」
「笑」
「笑うな」
「泣」
「泣くな」
「笑」
「戻るな」
氷雨のマイペースには私じゃ手に負えない。
相変わらずこのパーティーは、難しい。
ってかこれから、私の仕事が増えるわけか。
「……サポーターって、大変だ」