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バイト 2

 酒場での仕事も終わり、休憩室で一息ついていた。

 このバイトは十日給で、ようやく給料日。


 長い十日間だったと心底思う。

 なぜなら……


「式凪ちゃーん」


 と言いつつ、手に持っていた皿を何枚も割りながら登場したのはハロー先輩。

 太陽のような明るい髪を両脇でお団子にしている。

 陽気さに比例してドジではある。

 ただドジなだけなら良いのだが、彼女はこのバイト随一の問題児。


「あちゃちゃ、また皿割っちゃった」


 見ての通り、彼女はよく皿を割る。

 それも今のようなよく分からないタイミングで。


 皿を休憩室まで持ち歩くことがなければ今日割った皿の枚数は減っていたかもしれない。その分他の場所で皿を割るかもしれない。


 例えばこんな日があった。

 開店前、ハロー先輩は店長から入り口の看板を『閉店』から『開店』に変更するよう頼まれた。

 だがーー


 バリンッとガラスが砕ける音が響いた。


「いつだよっ!」

「ってかいつ皿持った」



 またある日。

 ハロー先輩は客の冒険者が持ってきたコボルトの肉を解体する作業をしていた。

 コボルトの肉は木製の大きな皿の上に乗せられており、割れることはないーーはずだった。

 だがゴゴゴゴ、と轟音が響いた。


「ごめん、キッチンごと割っちゃった」


「何でえええ!」





「ハロー先輩、今日は何枚皿を割ったのですか?」


「まだ九枚。すごいでしょ。初めて一桁台だよ」


 無邪気にはしゃぐハロー先輩。

 彼女の後ろをつけていたビスケット先輩がハロー先輩の頭を叩く。


「今割ったのも含めて十枚だろ。まず皿を無意味に持ち歩くな」


 正論である。

 しかしハロー先輩の心には響かなかったのか、軽い微笑で済ませてみせた。


「ハロー、お前は何度皿を割る」


「違うよ。皿が勝手に割れるんだよ」


「そんなわけあるか」


 もちろんハロー先輩の発言は詭弁だ。

 ここは異世界で魔法もあるが、わざわざ魔法を使ってまで皿を割る必要はない。


「呪いにかかってるの」


「そんな呪いがあるかっ」


「あるもん」


「でもお前はかかってない」


「…………手詰まり」


 ハロー先輩は諦め、犬が日陰で眠るような体勢で降伏した。


「正直に言ったハローにはビスケットを一つ」


 ビスケット先輩がポケットに手を入れると、ポケットの中からビスケットが一枚出てきた。


「正直に言ったハローにはビスケットを二つ」


 再びポケットに手を入れるとビスケットがもう一枚出てきた。

 ビスケットはそのまま三枚目、四枚目と、幾つものビスケットを出していき、しまいには休憩室の机一つ埋め尽くすほどのビスケットを出した。


「出しすぎじゃね……」


「ごめん、出しすぎた」


 ビスケット先輩はこの能力を使うと、つい調子にのって止まらなくなる。


 三人が机いっぱいのビスケットを眺める不思議な時間が流れた。

 五分後、膠着状態を崩すように扉が開いた。


「て、店長……」


 店長は周囲を見渡し状況を理解したのか、すぐに結論を出す。


「お菓子の家でも作ってろ」


 店長は激しく扉を閉め、帰っていった。

 扉が閉まる音だけが残る。


 私たちは顔を見合せる。


 そして、


「お菓子の家でも作ろっか」

「うん」

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