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第三王子の追及

第三王子の追及


魔法実技爆発事故から三日後、災難が俺のもとにやってきた。

「少し時間をもらえるか、ハリル」

なんちゃって王族の俺だが、敬語以外で話しかけてもOKなのは同じ王族だけだ。

学生同士といってもこういう見えない壁がそこここにあるのがいけすかないんだよ、この学院は。

今俺に偉そうに話しかけてきているのは現2年生の第三王子、オルトである。

「急ぎの用件でしょうか、兄上」

王子猫の皮を被りつつ、大した用じゃないなら話しかけんなオーラを出して答えてみる。

「ああ、どうしても確かめたいことがあってな。手間はとらせない、来てくれ」

ちっ、ダメか。今日は晴れたので久しぶりに外でランチをとりたかったのだが…。

クラスメイト達が食堂に庭園にと三々五々楽しそうに向かう姿を横目に見ながら、俺はオルトの後について行った。


2Fに降り、二年の教室が並んでいる一番手前の部屋に入ると、部屋の中にいたオルトの腹心らしい二人が立ち上がって俺に頭を下げた。出ていくのかなーと思ったらそのままドアの左右に立ち扉を閉める。何だよこれ、俺を監禁するつもりか?

この部屋はどうやら執務室らしい。この学院は1年が3階、2年が2F、3年が1Fを使用しており、学年ごとに代表を決め、それぞれに一部屋ずつ執務室をあてがっている。そうか、オルトは2年生の代表だからこの部屋を自由に使えるんだな。そう思って見回してみると、魔法オタクのオルトっぽく室内が飾られているのに気づく。しかし血っぽい色で描かれた魔法陣のタペストリーって普通飾るか?やっぱりコイツとは趣味が合わなそうだ。

「さあ、かけてくれ。昼休みにすまないな」

やっとそこに気づいたのかよ。ランチ食いっぱぐれる前に解放してくれよ?

無言で執務デスクの前に据えられた椅子に腰掛ける。オルトもデカいデスクをぐるっと回って俺の正面に着席した。何だよこれ、父兄面談かよ。


「5日前の魔法実技中の事故については聞いていると思うが、あれは要するに新種の複合魔法を愚かな生徒が展開しようとして失敗した結果だ。風、炎、力の三種を操って強大な爆発魔法にするつもりだったらしいが、当人の魔力コントロールが及ばず暴発した。とっさに方向だけ空に向けたものの、間に合わなかった余波が3Fの1年生教室を直撃したというわけだ」

オルトはなぜか微笑みながら俺を見た。イヤな予感がするな…。

「2年の生徒が起こした事故なので、2年生代表である私が1年代表と協力しつつ被害状況をとりまとめていたのだが、一番直撃したと思われる教室内でまったく被害がなかった生徒が一人いたという」

ヤな予感が当たったよ!今まで弱魔力王子と俺を侮っていたはずのコイツが、わざわざお出ましになった意味がやっとわかり、顔がひきつりそうになったが根性でこらえる。

「当時そなたの前後左右に座っていた生徒たちにも聞いたが、皆それぞれ防御魔法が展開された気配を大なり小なり感じたようだ。単刀直入に聞くが、そなたは魔法を使ってあの衝撃を防いだのか?」

ずいっとデスク越しに乗り出して俺の顔をじっと見るオルト。兄弟なのに俺と似たところ全然ないよなコイツ、まあ俺もオルトも母親似だから…と愚にもつかないことを考えつつ俺は答える。

「まさか。私が弱い魔力しか持たないのは兄上がよくご存じでしょう」

にっこり笑って見返す。負けるな俺の目力!

「私もそう思った。しかし自力で魔法を使わなくても同じ効果を得ることはできる」

全然目が笑っていない顔を更に俺に近づけながら、オルトは問い続ける。やっぱそう来たか。

「まさかと思うが、同様の効果を発動する魔道具を持ってはいないか?現在防御魔法で複数の効果を持つ携帯魔道具は、私の知る限り開発されていないので、ありえないとは思うのだが」


そう、オルト第三王子は魔道具オタクなのだ。魔法に秀でた第二王子と同母を持ち、だが第二王子と異なり自分が新種の魔法を編み出すのではなく、強力な魔道具を製作する方に心血を注いでいると聞く。原則一魔石に一魔法だが、コイツは複合魔法を一つの魔石に込めて展開しようと試作を繰り返しており、魔法の種類によっては成功したものもあると聞いた。ただコイツの興味のある分野が武器関係なのがいけ好かないんだよな。もっと日々の生活に役立つような魔道具作るようなヤツなら、俺もそんなに警戒せずにいられるんだけど。

「魔道具製作にも購入にも莫大な費用がかかることは兄上ならご存じのはず。ご承知の通り私の生家は地方の商家、領地からの税も潤沢とはいえない状況です。とても兄上のように身近にそのような強力な魔道具を置く余裕はございません」

これはホントのことだから目を合わせてはっきりと言える。問題なのは資金が豊富な一家が俺の近くにいるのに気づかれて、余計な勘繰りを受けることだ。俺はさらに目力をこめる。分かったら早く解放して俺にランチ食べさせろ!

「そのようだな。この執務室には私が特殊な魔法結界を施しているので、そなたが魔道具を所持していたら私だけには分かるようにしておいたのだ。今までのところ何の反応もないし」

おい学年代表だからってそんなことしていいのかよ、特定区域以外での魔法使用は原則禁止だろ、とオルトの陰険なやり口にムカっときたが強いてこらえる。

「ではご用はお済みですね、兄上。次の授業の準備もありますので失礼させていただきます」

椅子から腰をあげて、振り向きざま扉の前に陣取っている二人の腰ぎんちゃくをにらむ。早くそこどいて扉開けろっての。

「ああ、手間をとらせた。戻ってもかまわない」

一礼し、踵をかえす。早くこの部屋出ようと足早になった俺の後ろから、オルトが呼びかけた。


「そういえばお前の婚約者とは仲良くやっているのか。そなたの学院入学に際してミルスラ公爵家がかなりの心配りをしたとの噂を聞いたのでな」

思わずギクリとしてしまったのを、気づかれただろうか。深く息を吸ってから俺は振り返ってオルトの顔をじっと見つめながら言った。

「公爵家及び公爵令嬢は、王族に敬意を表して入学した私を後援されたので、婚約者として格別の待遇というほどではないと思います。ご令嬢が病弱故になかなか会うこともかないませんので、そういったことへの引け目もあるのかもしれません。もちろん私としては今後も交誼を結んでいきたいと思っております」

「そうか、病弱な令嬢というのは聞いていたが、今もって面会もままならないほどとは、そなたも気の毒なことだ。もしお見舞いがかなった際は私からもよろしく申し上げてくれ」

話は終わったとばかりに片手をあげるオルトに向かってもう一度礼をして、俺は執務室をやっと脱出した。


「ってことがあったんだけど、どう思う、ビンジー」

「オルト王子が気づいたかどうかは五分五分ですね、貴方の挙動不審がバレてなければですけど」

「そこは上手くやったと思うぜ我ながら。というかオルトと言葉交わすのなんて、入学してから初めてなんだぞ。俺の普段の姿や話し方とか知らないから、きっと大丈夫だろう」

と思うけど甘いかな。ちょっと不安になる。

「しかしオルト王子の魔道具傾倒ぶりなんて、よくご存じでしたね」

「逃げるにしろ守るにしろ、情報収集は必要だろ」


そう、俺は波風立てず生きていきたいのだ。王位継承権をめぐるバトルなんぞには関わりたくないし、誰の味方にもつきたくない。どの候補からも距離を置きたいから、各王子の情報はきっちり把握して、万一にも俺の行動・交友範囲と重ならないようにしておきたいのだ。

あのネクタイは破けてしまったから、公爵家からもらった他のネクタイをしめているが、オルトが張っていたという魔法結界にはこれは引っかからなかったようだ。

となると可能性としてはa)このネクタイは魔道具ではない、もしくは、b)魔道具だけどオルトの結界を上回る性能を持っている、の2点が考えられる。さあどっちだろう、ミルスラ公爵家が魔道具開発に力を入れているなんて聞いたことないけど、念のため調べておいた方がいいんだろうか。


「今月公爵家から届いたの何だっけ?」

「枕カバーですね。安眠効果のある香りつきだそうです」

ビンジーが箱から取り出したのを受け取って匂いを嗅いでみる。ラベンダーかな?確かに安眠効果はありそうだけど、何かプレゼントにしては微妙なんだよね。女の子の考えることはよく分からん。公爵令嬢はこういう日常使用する物を贈るのが好きな子なのだろうか。

「しかし今回は身に着けるものでなくてよかった、のかな。それともこれも何か別効果付のものなのか…。考えても仕方ないな、とりあえずお礼状を書くよ」

「今準備しますね」


女性が好きそうな便箋セットを取り出すビンジーを見ながら、俺はオルトの尋問を本当に躱せたかどうか、もう一度頭の中でリピートしてみる。大丈夫だとは思うが油断は禁物だ。何とか公爵家&令嬢とコンタクトをとって贈り物の真意を聞きださないと、万一オルトに何か気取られたときにまずいことになりそうな予感がする。便箋に向かって当たり障りのないお礼の言葉を並べながら、俺はどうやったらこの贈り物は特別性?何か裏があるの?という質問をマナー違反になることなく伝えられるか、うめきながら机に向かった。


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