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王子が味方になったよ!…多分だけど

やっちまったよ、母さん…というのが私の頭の中にまず浮かんだ言葉だった。

いつもこうだ。考えて考えて、ミスる可能性をつぶして治療に臨んでも、私自身がポンコツなせいで、突発的なことに対処できない。

まさか集中力が途切れたせいで認識阻害の魔法が消えるなんて思わなかったし。教本に繊細なコントロールが必要って書いてあったのって、もしかしてこのこと?もっと分かりやすく書いてもらえませんかね!


本の著者に腹を立てていても仕方ないが、現実逃避もしたくなるというものだ。

魔法が切れたところで、とりあえず一時撤収しようとしたのだが、さすが弱魔力でも王子は王子、有能だった。

あっという間に私の目の前に来て、おでこを覗き込む。

「交換中、だと?これは、まさかあの取り替えの禁術か?」

バレてるやーん!アル父上、ちょっとしたいたずらだと思ってもらえる、なんて軽く言ってたけど、王子はすぐ真相にたどりついちゃいましたよ!どーすんのこれ!

慌てた私は、とりあえず横に逃げようとしたのだが、王子の従者もまたスペックが高かった。さっきまで主人の背後で震えていたくせに、今はいい動きで私の右に先回りしている。この状態では後ろを向いて逃げ出そうとしてもすぐ捕まるだろう。


「あの、ちょっとこれには事情…」

「おまえはキリエラ嬢の体を乗っ取ったのか!」

怒りをダイレクトに王子がぶつけてきた!いやー、ちょっと待って、お願いだから説明させて!

焦ったが私だって無駄に小児科医としてちびっこたちのかんしゃくや、その親の理不尽な怒りに立ち向かってきたわけじゃない。

まずこういうときは、冷静になるのが大事!


腹をくくった私は、その場で正座した。肘を少し張り、膝に両手を置いて王子を見上げて言う。

「まず私の話を聞いてください。その上で、判断してください」

本当にこの治療方法で効果があるのかと疑う親には、まず冷静に聞いてもらうことが大事!その後でいくらでも文句や泣き言をきいてあげると、最終的には協力してもらえることを、私はよく知っていた。


表情を消し、真剣な顔で座る私に、王子も何か感じたのだろう。

「わかった。ただしビンジーはその位置にいさせてもらう」

私が何か王子にしようとしたら、すぐ対応するためだろう。

承知したと頷き、私は自分がミルスラ公爵家に来ることになった件を説明し始めた。


「信じられん、まさかそんなことが起こるとは…」

だよね、私もそう思う!

でも起っちゃったことは仕方ないんだよ。

「それで、おまえ、じゃなくて桐江嬢の目的は、本当にキリエラ嬢の体を丈夫にするだけだというのか?」

何となく、疑わし気な目で私を見る王子。

そう考えるのはもっともだ。この世界ではきっと公爵令嬢なんていうのは、結構いい思いができるポジションなのだろう。

そういう立場に偶然なってしまったら、なんとかしてしがみつこうと思うのが普通だと私も思う。

けど、私は普通じゃないことを自分自身でよく知っている。


「何が悲しくて、せっかく死ぬ気で取った国家医師免許を投げ捨てなきゃならないんですか!」

「えっ」

「それにこの世界は病気がほとんどないから、私の知識なんか全然役に立ちませんし!」

「ん?」

「そんな世界で役立たずのままずっと生きていくなんて、冗談じゃありませんよ!」

「おっとぉ…」

最後のは右から聞こえた。気配を消して私の話を聞いていた従者クンも、反応せずにはいられなかったらしい。


「ともかく、あと1年半しかないんです。なのに分かったのは魔力の使い切り方だけ…。そしてもしキリーちゃんの魔力が今より増えた場合、このやり方でもダメかもしれない。なのに、強化魔法はやばいとか言われちゃうと、もうどうしたらいいか…」

「そ、そうか」

がっかりする私に王子も何と言っていいか分からないようだ。


「だから王子から連絡が来たとき、チャンスかと思ったんです。ハリル王子が全素持ちということを伺ってましたので、同じ全素持ちのキリーちゃんに何かアドバイスしてもらえるんじゃないかと思って」

「その、何かとは?」

「具体的には、回復魔法や治癒魔法のかけ方とか。全素持ちの方はそろって魔法にかかりにくいと聞いています。キリーちゃんもそうなので、それを乗り越えるコツなんかが聞けたらなーと」

すると、横にいた従者クンがプッと吹き出した。


なに、何か私、面白いこと言った?

目の前の王子に視線を戻すと、苦虫を嚙み潰したような顔をしている。

ちょっと、何?異世界常識知らないんだから、ヤバイこと言ったのなら教えてください!


「残念ながら回復魔法系は私も使えないんだ。あれは膨大な魔力を必要とするので、弱魔力の私が詠唱したとしても発動できないのでな」

そう言えば以前、キリーちゃんに回復魔法をかけてたとき、1回ごとに魔法使いが一人倒れてたってウリエラママが言っていたっけ。

なら、どうやって王子は怪我や病気を治しているの?


私の疑問には従者クンが答えてくれた。

「王子にはそれぞれ治癒魔法と回復魔法を込めた特別な魔石が渡されているんですよ。その効果は強力なので、ウチの王子は自分の魔力で治す必要がないわけです。まあもともと魔力が弱い分、魔力抵抗も弱いから、ホントは普通の治癒魔石で大丈夫なんですけどね」

「うっさいな、ビンジー、黙れよ」


えっ、そんなのがあるなら、万一のときはキリーちゃんの魔力抵抗をクリアして小児喘息の発作を治してくれるんじゃ?

期待を込めて王子を見たが、彼はなんと首を振った。

「桐江嬢の考えていることは分かる。が、残念ながらあの魔石は王族だけに渡される特別仕様のものだ。悪用されないようにそれぞれの王子のマークが入っているしな。同じものを作るのも同程度の魔石がないとかなり難しいだろう」

「で、でも同じ魔石があれば、魔法を込められるってことですよね?」

私の希望を込めた問いに、王子はまた首を振る。

「そういう魔石は出た時点で国の物になる。そしてそれは例え公爵家であろうとも、自由に動かせないんだ」

「そもそも、大量の魔力を込められる魔石自体、採掘量が減ってますしね」

と、口添えするできる従者ビンジー君。


なんだよこのデッドロック状態…。キリーちゃんは魔力を放出すれば魔法をかけることができるから、発作を起こしても治すことができる。けど魔力の放出に強化魔法はヤバすぎて使えない。魔力放出なしで治療しようとすると王族なみの特別な魔石が必要になる。けどその魔石は国が管理していて手に入らない…。


やっぱり築山スカイツリーを何個か作る方向で魔力放出を頑張るしかないか。あっ、でもそれをやると魔法省に目を付けられるんだっけ。んもー、どうしたらいいんだ!


正座のままがっくりする私を見かねたのか、王子がぽつりと言った。

「魔石を作れればいいんだが、魔法省でも人工魔石の開発には成功していないからな…」

人工、の言葉に私の中の小児科医魂が反応した。

そうだよ、うちら医者は、人工なんちゃらを作って、ずっと患者さんを治療してきたじゃん!

人工肺、人工義肢、入れ歯もいってみれば人工物だ。なら魔石も作れるんじゃ?


でも人工物を作るのなら、まず実物の強力な魔石を見ないとね。どこに魔石って売っているんだろう?アル父上に聞けば教えてくれるだろうか?

「分かりました、キリーちゃんのために人工魔石を作ってみます!成功したらそれに治癒魔術を入れたいので、その際は手伝ってくださいね」

あ、王子がポカンと口を開けている。こういう表情は年相応に見えるなぁ、と私はそんな場合じゃないのになごんでいた。


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