王子を味方にしよう!作戦がはじまります
伝言してから数日というもの、私は気が気じゃなかった。
そしてそんな私を、リエルがうろんな目で見ているのにも気づいていた。
ごめんよ、リエル。自分でもこの方法が正しいかどうか分からないけど、あの時点ではあれが最善だと思ったんだよ…。
私が公爵夫妻にもリエルにも告げず、王子と単独で会おうと思ったのには理由がある。
まず1つ目は、王子のバックグラウンドを聞いていたから、裏切られる可能性が低いと考えたこと。
この第四王子様は弱魔力の上、後ろ盾もなく、後継者レースでも特に頭角を現わしていないという。
ということは、この王子は現状維持を狙っている可能性が高い。少なくとも学園を卒業するまでは、ミルスラ公爵家令嬢の婚約者のままでいたいはずだ。
じゃあなぜ、あんな秘密めかした形で接触してきたのかということだが、私の使った強化魔法が王子が望む現状維持の障害になりかねないと思ったからだろう。強化魔法のことがバレれば、芋づる式で防御力が高すぎるネクタイの秘密もバレる可能性がある。そうなったら、たとえ王子と婚約していても、魔法省が絶対に首を突っ込んできて、下手すると婚約解消になるかもしれない。後ろ盾のない王子は、きっとそれを避けたかったのだと思う。
ただ、ここでネックになるのがウルウルをミルスラ公爵家が販売していることだ。だから王子には、公爵家一同が強化魔法のことを分かって販売しているのか、それともそうじゃないのか、見当がつかなかったはず。
けれども公爵夫妻が強化魔法を物に使えるのなら、今じゃなくて昔からやっていてもおかしくない。だがウルウルが販売されたのは最近で、しかも魔飛鳥から彼を守ったネクタイが贈られたのも最近、ということから、私に目をつけたのだと思う。
彼としては、婚約している令嬢が全素持ち、しかも強化魔法を物に使えるという特殊能力持ちだと世間にバレるのは、きっと避けたいのだろう。しかし12歳にしてはずいぶん頭が回る、というか賢いよね。それとも魔法省っていう組織は、王子である彼が警戒するほどヤバイ組織だってことだろうか?
2つ目の理由は、キリ-ちゃんに全素持ちの関係者を作ってあげたいという、私のワガママだ。
予定通りなら、あと2年もしないうちに私はいなくなり、キリ-ちゃんだけが残される。魔力を消費する手段を作ってはあげたけど、年齢とともに魔力が増したら、その手段も使えなくなるかもしれないんだよ。その時に、同じ全素持ちの王子で婚約者のハリル殿下が、相談相手になってくれればいいと思うんだよね。
せっかく食事を改善して、運動して、丈夫になったとしても、小児喘息というのは再発しやすい病気である。倒れたときに、増えた魔力のせいでまた治療できないとなったら、今度こそ詰みになる可能性が高い。それに王子は弱魔力だというけど、他の王子はそうじゃないらしい。だったらやっかいな病にかかったときの対処法とか聞いてるかもしれないじゃないか。
以前ウリエラママも、魔力が豊富な王族たちはめったに怪我とかをしないけど、もししちゃった場合は自力で治すって言っていた。今の私では治癒魔法とか覚えられないけど、ハリル殿下がキリエラちゃんと一緒に練習してくれるなら、なんとかなるかもしれない。
ちなみに治癒魔法も回復魔法も覚えられないのは、私の頭が悪いせいじゃなくて、単に実地訓練ができないから。怪我したときのために、回復魔法を覚えたいから上級魔法の教本をもらえないかって頼んだら、本を用意するのはいいけど、誰にかけるつもりかってアル父上に返されて気づいたんだよね。
他人を治せても、私の場合意味ないんだよ!自分を治せなきゃ!
でも、ちょっとキリーちゃんの小指とか切ってもいいですかって言ったら、ウリエラママは真っ青になるしアル父上は首を横に振るしリエルは泣くしさ…。だからこれに関しては、キリ-ちゃんがこっちに戻ってきてから頑張って覚えてもらうしかない。
その際実験台になってくれそうなのが、キリ-ちゃんと同じ、全素持ちの王子様なんだよね。男の子だもん、擦り傷ぐらい普段の生活で負うだろうし、弱魔力っていうなら、自分で直さず治癒魔石とか使っているはず。なら、1回、か2回か3回、なんなら7、8回ぐらいはキリ-ちゃんの実験台になってもらっても大丈夫だよね?
そのために、実際に対面して、その人柄を見定めたいのだ。
王子の人柄については、今のところあんまり分かっていない。
贈り物を律儀に贈ってくることから真面目なんだろうというのは分かるが、単に後ろ盾を失いたくないだけかもしれないし。
魔飛鳥からクラスメイトを助けたっていうのは、見方によっては勇敢な美談だけど、背を向けていたというのが気になる。本当は助けるつもりじゃなくて、かばっただけなんじゃないだろうか?
ただ偶然、私の強力すぎる防御魔法がかけられたネクタイを持ってたせいで、助かっただけで。
あのネクタイも強化魔法かけてから防御魔法かけたからね。この国の魔法ってかけてもなーんにも痕跡が残らないんだよ。少なくとも私には見えない。だから本当にかかってるかどうかは、攻撃してみないと分からないんだよね。まあ魔力が抜ける感じはしたから、多分かかってると思うんだけど。だから王子も単なる着替え用で持っていったんだろう、きっと。
でも魔飛鳥を退けたことで、王子自身がコレ、おかしいんじゃないかと考え出した。でも、こんなスゴイ効能を持っているネクタイなら、渡すときに一言あってしかるべきなのに何もない。そのうちウルウルが売れ出して、同じ布つながりで何かピンときたのかも。もしかしてウルウルにも防御魔法がかけられてると思ったんじゃないだろうか?
で、どうにかして検証してみたら、かけられてたのは強化魔法だったと…。そりゃ驚くよね。
けれどもこの王子は、それを公爵家に言いに来るでもなく、他の人に話すでもなく、ただ私一人だけに何とか伝えようとしてきた。ということは、多分私を心配したんだろうな、って思うんだ。
結論からいうと、この王子サマはいい人の可能性がとても高い。だから、私がいなくなった後、何とかキリ-ちゃんの味方になってほしいんだよね。
ウリエラママは軽ーく婚約破棄するわ、なんて言ってたけど、それは悪手だと思う。モナク様は多分、キリ-ちゃんの魔力がずば抜けて高いことを分かっていて、お守り代わりに王子との婚約を使えって言いたかったから、占いという形で示したんじゃないだろうか。辺境に行かされて魔物退治にあけくれた侯爵令嬢のようにならないためには、王子との婚約は最強カードだと思うし。
でも臆病な私は保険をかける。入れ替わりの件をばらすのは王子の人柄を確かめてからでも遅くない。だから、桐江じゃなくてキリエラ公爵令嬢として王子には会うつもりだ。
いちおう建前としては、いきなり魔力が倍増したせいで、もとから弱い身体がさらに弱ってしまった。魔力を放出すれば少し健康になるので、強化魔法を物に使うという手段をとってしまったが、これが使えないとなるとどうしたもんか…、って感じで相談してみる。
両親にも相談したが、2人とも魔力を少なくする方法が分からなかったし、そもそも魔力が多いこと自体を魔法省にバレるのを警戒しているから、ってことでね。
ハリル殿下なら何とかしてくださると思いまして…ってな感じで、潤んだ目でキリ-ちゃんみたいな美少女に言われたら、嫌がる男の子はいないと思うんだよ。元の私がやったら、涙目で逃げ出すだろうけどな!
そこで王子が秘密を守って減らすのに協力する、と誓うような良い子なら、ウリエラママとアル父上に相談して、入れ替わりの秘密を明かすかどうかを家族会議で決めよう。
でももし、ビビるようなら…、そこで面会は中止。私は公爵家に帰り、王子に会ったことなどありません、ということで通す。もちろん話したことも、何のことやら、で、すっとぼける予定。
王子だから多分一人で来てって言っても、無理だろうな。伝言受け取りに来た側仕えの人とか護衛とか連れてきそうだ。王子以外を眠らせるのが手っ取り早いけど、何か備えはしてるだろうからスリープ魔法だけじゃ心もとないよね…。
音声遮断魔法とか、認識阻害魔法とかが中級以上の教本に載ってたはずだから、あれを約束の日までに急いで覚えないと!大丈夫、私は一夜漬けが得意なタイプ。医師国家試験もそれで乗り切ったし。キリーちゃんの未来のために頑張れ桐江!




