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伝言はひそやかに

「ホントにこのメッセージでいいんですか?」

とソワソワしながらビンジーが聞いてくる。トイレにでも行きたいなら早く行ってこいよ。

「違いますって!仮にもご病気の公爵令嬢に送るメッセージとして、妥当ですかって聞いてんですよ!万一、このメッセージが原因で寝込んじゃったらどうするんですか?」

「うるさいな、そんな大声出さなくても聞こえるよ」

俺はうんざり顔を作ると、ソファに腰掛けながらビンジーを見上げて言った。

「お前の話と贈られてきたプレゼント、2つを総合して考えると、このメッセージが一番穏当だと思ったんだよ」


ビンジーから、もしかしたらミルスラ家に調べられているかも、と聞いたときはマジで驚いた。そりゃ、婚約した当初はチョロっと調べられたのは知ってたし、なんならこっちも調べたからお互い様だ。

でも最近は、こっちが調べようとしても、公爵令嬢の日々の生活についてさえ掴めない有様だったのだ。

「マリーと仲のいいメイドが、買い物に出た時に偶然、ミルスラ家のメイドに声をかけられたそうなんです。なんか、お仕着せについてる香りをほめられたらしくて、もしかして当家の製品をお使いですかって言われたそうで」

「ずいぶん、こう、都合がいいな、それ」

なんとなく言った言葉に、ビンジーも頷いて同意する。

「ホントですよ、それも声掛けてきたのは、公爵令嬢付きのメイドのリエルという娘だったらしいんです」

マジかよ!驚いてビンジーの顔を見ると、珍しくこいつも真顔になって言ってきた。

「あの子は特にガードが固かったんですよ。それなのに偶然外に出てきた時に、偶然うちのメイドと会うなんて、俺も出来すぎてると思いました。だからマリー経由ですが詳しく聞いてきたんですよ。そしたら…」

なぜかここでビンジーは口を濁そうとした。

「おい、気になるだろ、どうしたんだよ」

「それがですね、どうも王子のことをリエルというメイドは根掘り葉掘り聞いてきたらしいんですよ」

俺のこと?

「ちゃんと理由も言ったそうですよ。お仕えしているお嬢様はほぼ寝たきりだけど、最近はめっきり女の子らしくなって、婚約者のハリル殿下に興味を持っているようだって。だからお嬢様の心を慰めるために、何か殿下の最近のエピソードがあったら教えてくれないかって」

「で、何話したんだよ、そのメイド…」

嫌な予感がしながら聞くと、なぜかビンジーは俺から距離を取った。

「王子、あのー怒らないでくださいよね」

「俺が怒りそうなことを、そのメイドは言ったってことだな。で、情報源はお前だということか?」

「そう、先回りされると話しにくいんですよね…」

とっとと話せと一喝してやると、ビンジーはやっと諦めたように話しだした。


「エピソードって言われて、その子も困ったみたいなんですよね。特に最近の王子は学院に行っちゃって、本邸には帰ってないわけですから。だから弱魔力でちょーっとやらかした昔のエピソードとか話したら、それはもう知ってるって言われたそうで。だからですね、つい最近の、課外授業でクラスメイトを魔飛鳥から助け出した王子の勇敢なエピソードを話してあげたら、すごく喜んだようなんです。弱きものを助けてかばうヒーローっていうのは、女の子にはたまらない話だったらしくて…、あの、王子、やっぱり怒ってます?」

俺はかなりムッとしながら答えた。

「それよりお前が、何で魔飛鳥の件をそんなに詳しく知ってるのか、そっちが知りたいよ」

俺がビンジーに話したのは、あのネクタイのお陰で、多分襲われた時に魔飛鳥からの攻撃を防御できたんだろうってことだけだ。おしゃべりトーマを助けたことなんて、俺からは一言も言っていないのに、なぜ知ってる?

「あのー、それはですね、従僕には従僕の繋がりっていうのがございまして…」

「なるほど、トーマの従僕から聞き出したのか」

むっつりと言うと、ビンジーは観念したかのように話しだした。

「だってあれだけの事件ですよ!そりゃ話題になるでしょ!それに先生方のいる棟でかなり激論になったらしいんですよね」

お前、教員棟にも顔利くんかい!じゃなくて、なんかコイツいま、気になることを言ったな。

「激論って、どういうことだよ?」

「その、つまり、とっさに魔飛鳥を防御できるほどの魔術を展開できたわけですから、王子の弱魔力っていう評価が間違ってるんじゃないかって。王宮に報告を上げたほうがいいんじゃないかって話が出まして…」

まずい!まずいまずいまずい!!

自分でも顔が青ざめるのが分かった。

「おい、その話、どういう結論になったか知ってたら教えろ」

「大丈夫です、激論は起きましたが、ここにはデータがありますからね」

ビンジーが安心させるように言うが、それだけでは俺は安心できない。

あのイカレた魔法省の奴らに目をつけられたらと思うと、気が気じゃないからだ。

「季節ごとにデータ、とってますでしょ、ここの生徒はみんな。だから直近の王子のデータを調べて、やっぱり魔力量が増えてないことを確認したので、あの魔飛鳥は何かのはずみで攻撃外しただけだろう、ってことになったみたいですね」

「本当だろうな?」

「大丈夫ですって。その証拠に、あの後王子に魔力再検査の連絡とか、来なかったじゃないですか」

俺はほーっとため息をついた。よかった、またあのアホらしい検査をさせられる羽目になるかと思ったぜ。

「ただですねぇ、オルト王子が興味持ってるみたいなんですよね…」

俺が顔をあげると、ビンジーは困ったような顔をしていた。

「1年の課外学習の際に起こったことですから、2年のオルト王子には口を突っ込む理由がないんです。だから静観しているみたいですが、どうも魔道具を使ったんじゃないかと思われてるようですよ」

「おい、それ、まずいぞ!」

だってそれが正解だからだ、俺自身が望んだわけじゃないんだけど。

「でも学院内で魔道具の持ち込みは原則禁止ですし、王子の身の回りの物を探っても何も出てこないでしょ。だから最近は諦めたようですね」

「なんだ、やけに具体的だな」

不思議に思って聞くと、ビンジーは何でもないように答えた。

「部屋に帰った時、何度かオルト王子の従僕と鉢合わせしたもので」

「お、お前、それって、勝手に部屋に侵入されてたってことか?」

何で平気な顔してるんだ、お前!

慌てる俺を見ても、ビンジーは平然としたものだった。

「親父から言われてたんですよ、王位継承レースが始まってるから、痛くもない腹を探られることが起こるかもって。だからそういうときは、黙って探らせろ、何もないと知れば自然といなくなるからって」

セバスがそんなことを…。

まあ、確かに以前は何もありはしなかったけど、今はありすぎるほどある状態だと思うんだが。

「大丈夫ですって、だって公爵令嬢が贈ってきてるのは、みーんな日用品ですよ。ネクタイだって、枕カバーだって、どんなに調べても魔道具って証は出なかったんですから」

ビンジーは自信満々に言うが、俺はそこまで楽観的にはなれなかった。

あの魔道具フェチのオルトのことだ、何か勘付かないとは言い切れない。

でもビンジーは能天気に話を続ける。

「それに、さすがのオルト王子も、ミルスラ家の公爵令嬢からの贈り物に手を出すのは勇気がいるでしょうよ。下手すると、あの鉄の頬笑み公にボコられる危険性だってあるし、そうなったら、王位継承レースから脱落するかもしれないでしょ。それほどあの王子はマヌケじゃないと思いますよ」

周囲から見たオルトの評価は、抜け目のないっていうのが一番にくるほどだ。確かに、そんな下手な手は打たないだろう。

でもこれからは、よほど用心しないとな。特にウルウルの件はまずい。

美容魔道具なんて、オルトが興味を示すようなことはないと思うが、何がきっかけであの布の秘密に気づくか分からない以上、警告は早めにしておいたほうがいいと思う。

それに、俺が教室で爆風をしのいだことを知っているオルトなら、魔飛鳥の件とネクタイとを関連付けるかもしれないしな。


俺は覚悟を決めて、ビンジーにこれを直接届けるように命令した。

「いいか、必ず、必ずだぞ、公爵令嬢に使ってほしいと俺が懇願していたと伝えるんだ。俺が自身で作曲した、気分がよくなる音楽が入っているから、きっと気に入るはずだとな」

今まで花や既製の化粧セットを送るだけだった王子が、初めて手作りの物を贈ってきたんだ。

今までのように家令が代理で礼状を書くにしても、まず聞いてみる必要がある。

公爵令嬢より先に家令が聞くなんてこと、礼儀に厳しいミルスラ家ではありえないだろうから、8割ぐらいの確率で令嬢の手元にこのプレゼントはまっすぐ届くはずだ。残り2割は、公爵夫妻だが…。うん、そのことは今は考えないようにしよう、怖いから。

俺は出ていくビンジーの背中を見送りながら、上手くいきますようにとひたすら祈っていたのだった。


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