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婚約者へのプレゼント作戦

モナク様のアドバイスに従って、私は布をベースにしたハリル第四王子へのプレゼントを考え始めて…、すぐに暗礁に乗り上げた。

だって無理じゃん!男の人へのプレゼントを選んだ経験が少なすぎるんだから!

そりゃ私も平均的女子のはしくれなんで、バレンタインには普通にチョコとか贈ってたけど、それだって88%義理なんだよ!残りは10%が友チョコで2%が若干下心をこめたお礼チョコだ。

それに婚約者とはいえ、ハリル王子は今11才だよ!日本だと小学5年のガキンチョに何贈れっていうんだ!

けどモナク様に、最近作ったものをベースにって言われちゃってるしなぁ…。


しばらく考えて諦めた私は、リエルに声をかけた。

「ねえ、リエル、11才ぐらいの男の子が好きそうな布って、何かな?」

我ながらひどい質問だと思うが仕方ない。自分にアイデアの素がないときは他人を当てにするのがベストだろう。

案の定、リエルは戸惑った顔をしていたけど、

「そうですね…、私のいとこがそのくらいの年頃ですが、マントとかはカッコいいと言ってよく着てますね。あとは、大人の男の方と似たようなものを欲しがります、ネクタイとか…」

と答えてくれた。

そうか、私ったら布単体で考えちゃってたよ!だからカーテンとかテーブルクロスとかしか思い浮かばなくて困ってたんだ。そうそう、衣類でいいんだよ。でも私、自力で加工なんて多分できない…。ここの人たちは、みんなマントとかネクタイとか縫えるんだろうか?

「いえ、布だけ渡せばオーダーメイドできますわ。公爵家が抱えている店がありますから、大丈夫ですよ」

と何でもないことのように教えてくれるリエル。そうか、公爵家ともなると御用達の衣装店ってのがあるのね、皇室かよ!

防御魔法付きのネクタイ、防御魔法付きのマント、よし、いけそうだ!


舞い上がっていた私は、自分が防御魔法の前に、布に強化魔法を付与していたことをすっかり忘れていた。


アル父上に聞いたところ、王子は再来月、魔法を学ぶための学院に入学するので、学院指定の色柄のネクタイやマントをお祝いとして贈ればいいのでは?ということだった。そういうものは家族が通常贈るが、数があっても困るものではないため、婚約者の私が贈っても問題ないとのこと。

現時点では、王子との婚約にはお互いメリットが多い感じだ。だけど、いつ状況がひっくり返るかわからない以上、あんまり個人的なメッセージ色の強いプレゼントを贈るわけにはいかない。特にウリエラママは婚約破棄する気マンマンだったしね。

かといって、王子様に妙なものを贈るわけにもいかない。学院で使うネクタイやマントを、というのは、とってもいいアイデアに思える。

仕立てなどはこちらで手配します、とアル父上が言うので、あとは布を魔法付きで用意するだけだ!


ここでちょっと、我が婚約者殿のことが気になった。婚約していると聞いてから、度々ハリル王子という名前は聞いているものの、その人となりについて私は何も知らない。今のところ知ってるのは、権力基盤が弱いことと弱魔力なことだけだ。

「ねえ、リエル。えーと、ハリル様って、どんな感じの人か、聞いたことある?」

軽くリエルに聞いてみたが、首をひねってる…。この国の王子様って、英国王室みたいに度々ニュースになったりテレビで映されたりしないのかね?あ、テレビがないんだっけ…。


「現在我が国には、第一王子から第四王子までいることは、ご存知ですよね?」

「うん、ウリエラママから、その人達が次期王位を巡ってレースしてることも聞いた」

そうですか、と言ったあと、リエルは第四王子について知ってる限りのことを教えてくれた。

実はこの王子様だけ、貴族の血が半分しか入ってないそうなのだ。なぜならお母様が地方の商会の娘だったから。

巡視で地方に行った今の王様と出会い、第三王妃になったんだって。なおこの国は、王様と貴族だけ一夫多妻がOKなんだそうだ。なぜなら魔力を持つ子孫を増やさなきゃならないから。

第三王妃の実家の商会は、ハリル王子誕生のお祝いで男爵となり、領地もちょっとだけどもらった。

でも第三王妃が不慮の事故で亡くなってしまったので、ハリル王子は齢4才にして、家を構えて独立することになったと聞き、私はびっくりしてしまった。

「えー、4才って、そんな幼いのにどうして?王宮にいさせればいいじゃん!」

私には当然の疑問だったが、リエルにはそうじゃなかったようだ。

「王宮にいると、後継者の一人とみなされ、いろいろな思惑を持った者が近づいてくるかもしれません。母親が生きているときは母親の離宮で、そしてある程度大きくなったら一家を構えさせるというのが王家の方針なのです。もちろん、その際の費用は王家からも出ますが、たいていは母方の資産で養育されますね」

そして、考え深げに付け加えた。

「ハリル殿下は…、こう言ってはなんですが、商家の出ですので、幼いとはいえ、貴族の方々が多い王宮に住まわせるわけにはいかなかったのかもしれません。他の王妃が後見人に名乗り出れば、残ることもできたと思うのですが、そういうこともなかったのでしょう。ハリル殿下が4歳にしてセルス家を構えた際には、奥様も旦那様も不憫がってらっしゃいましたが…」

いきなり一人ぼっちになって、父親のいる王宮も追い出されちゃった王子様か…。なんかグレそうな気がするんだけど。

「いえ、そういうこともなく、まあ普通の王族として、行事や式典に参加されてましたよ。ただ、第一王子や第二王子と違い、特に目立つような成果を発表することもなく、ひっそりお過ごしになられてるようです」

「ということは、後継者レースには参加してない感じなのかなぁ?」

ぼそっともらすと、リエルは困ったような顔をした。

「王子である以上、次代の王になる資質を示すというのは義務みたいなものなのですが…。今のところハリル殿下にその気配はございませんね。全素持ちではありますが魔力が弱いことに引け目を感じられてるのかもしれません」


リエルがさらっと言ったことに、私は目をむいて飛びついた!

「ぜ、全素持ち!!王子も私と同じなの!?」

「は、はい、そうですね。当代の王子は皆、全素持ちと聞いております」

私が何に興奮しているか分からないまま、律儀に答えてくれるリエル。

えーなんだよー、一番身近にいるじゃない、キリエラちゃんの魔力についてアドバイスしてくれそうな人が!!

私が浮かれていると、何を考えているのか思い当たったような顔をしたリエルが、全力で止めてきた。

「お、お嬢様、まさかハリル殿下と連絡をとろうなんて、考えてませんよね?」

すみません、とろうと考えてましたが…、やっぱりマズイ?

「まずいなんてものではございません!!お嬢様が全素持ちのことも、この交換のことも、どれ一つとっても暴露されたら人生が変わるぐらいのことなんですよ!」

それはそうなんだけど、分かっているけど、それでも同じ全素持ちの人と話す機会は惜しくて逃せない。


「ねえ、婚約者なんだから、ちょっとは、何ていうか、甘い対応してくれたりしないかな?ほら、魔力について子どもっぽく質問のお手紙書いたりしたらさ、返事くれないかな?」

確かキリエラちゃんはずっと寝込んでたから、ハリル王子とは対面もしてないんだよね。だったら、少しぐらい変な言動したって、そういうものかと思ってくれたりしない?まあ、帰ってきたあとのキリエラちゃんには、メモ残すとかしてあげないと話がかみ合わなくなるかもだけどさ。


私が首を傾げてかわいくそう言ってみても、リエルの眉の間のシワはとれなかった。

「ハリル殿下の性格を存じ上げませんので、なんとも…。プレゼントや、季節ごとに花とカードを贈ってこられるので、誠実な方なのではと拝察しておりますが、そういうのは多分家令が手配していることが多いでしょうし」

そうか…、ハリル殿下が自分で選んで用意しているわけじゃないってことね。

「それに、こちらも寝込んでいるということになってますので、お礼の返事も全て公爵家の家令が代筆しております。そこにいきなり、お嬢様から直筆の手紙が届いたら、殿下がどう思われるか…」

おっと、返って怪しまれちゃうか…。


今のところ、リエルから聞いた情報で、ハリル殿下の性格につながるものはあんまりない。

でも、婚約者で全素持ちって、キリエラちゃんの相談役に一番なってくれそうなポジションの人じゃん!

この体の魔力を放出するやり方は何とか分かったけど、今の魔力量なら、という条件がつく。

もし成長するに従って、キリエラちゃんの魔力がもっと増えちゃったら、今の方法では追いつかなくなるかもしれない。

でもその時、当たり前だけど私はいない。日本に帰っちゃってるからね。

秘密を安易に暴露する気はないけど、私がいなくなった後キリエラちゃんをサポートできる人材は手に入れたいところだ。


うーん、ハリル殿下がいいやつかそうでないか、見分ける方法、なんかないかな…。

ふと目の前のリエルを見る。リエルはなんか健気な感じがする美少女だ。

こういう娘が、あの、スミマセン、聞きたいことが…とかって男性に言えば、みんな何でも教えてくれるかも…。


「ねえ、リエル。ちょーっとお願いがあるんだけど」

嫌な予感がしたのだろう、後ずさろうとしたリエルの右手を掴み、胸の前に引き寄せておねだりポーズをとる。桐江の体でこれをやったら、友野先輩あたりに爆笑されそうだが、生粋の美少女のキリエラちゃんなら効果抜群のはず!

「セルス家の人の中に、知り合い、いない?リエルみたいにハリル王子に仕えている人が、きっといると思うんだけどなー」

「お、お嬢様、何をさせるおつもりですか…」

やっぱりリエルは頭の回転も早いね!私はにんまりと笑うと、リエルの手をぎゅっと握って言った。

「ハリル様ってどんな人なのか、ちょーっと探ってほしいんだ。大丈夫、リエルがお願い!って顔をすれば、きっとみんな話してくれるよ!」

「お、奥様に相談してみませんと…」

リエルは逃げの一手だが、そうはさせない!

「じゃないと、私がちょっとセルス家のご近所に行って、評判とか聞いてきちゃうかも…。私が風の魔法を使えるのは、リエル知ってるよね。あれ使えば、移動なんて楽々だし。大丈夫!目立たない格好で行ってくるから!」


あの築山もどきを作った実験の日を思い出したのだろう。リエルの顔が目に見えて青ざめた。

「公爵令嬢が空を飛んでいる時点で、目立ちまくりです!万一外でお体に何かあったら…」

ギュッと目を一旦つぶってから、リエルは私の脅迫に屈した。

「わ、分かりました。メイド同士の伝手がございますから、それを利用してみます。いいですか、くれぐれも!自分でお調べに行こうなんてなさらないでくださいね!」

分かった分かったと降参のポーズをしながら、私はハリル殿下の性格がいいやつって分かったら、プレゼントにもちょっとした仕掛けをしてみようかと考えていた。

私が全素持ちだとバラさず、でも同類の王子なら気づくような仕掛けをすれば、向こうから何かアクション起こしてくれるかもしれないしね。

防御魔法だけじゃつまらないから、もう一個ぐらい魔法を付けてみようか。何か面白いのないかな…。

とりあえず、来月の入学に間に合うように、ネクタイに防御魔法つけて、と。

この思いつきが、未来の自分の首を締めることになると、私は全く気づいていなかった。


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