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占い師の眼力はハンパじゃなかった

「それで、異界から来たお方。このモナクに何を訊きたいのかしら?」

いきなり切り込まれて沈黙するミルスラ家一同、つまり私たち。アル父上も意表をつかれたのだろう、すごくマヌケな顔をしている。ハンサムな人のマヌケ面って、レアだよなぁ…って現実逃避してる場合じゃない!

目の前にいるのは、ほら、クッキーいつも焼いてそうな、某有名な菓子店のシンボルのおばさんに似たひっつめ髪のおばあさま。でも髪はモスグリーン。

口元はにこにこしているけど、メガネの奥の目が笑ってない。

私たちはリエルを除く3名で、このモナク様の館に変装してやってきた。対面後、ウリエラママがお陰様で娘が元気になったお礼を…と言いかけたところだったのに、この先制攻撃で全員ノックアウト状態。なんでもお見通し、って感じが半端ない。


アル父上もウリエラママも再起動に時間かかりそうだったので、仕方なく私が口火を切った。

「はじめまして、日本からきました桐江と申します。ひょんなことからこのキリエラさんの体に入って暮らすことになりましたが、2年後にもっと丈夫にして、返してあげようと思ってます。そのためのアドバイスを伺いに参りました」

「もう、丈夫にするのは十分のようにお見受けするけど?」

「はい、体はもう心配ないと思います。でも心の方のケアも、してあげたいんです」

メガネの奥の目がキラッと光った気がした。どうやら興味を持ったみたいね。


私がもっと詳しく話そうとしたとき、突如アル父上が復活した。

「いえ、あの、娘は急に元気になったせいか、ちょと夢見がちになっておりまして、その、何といいますか…」

あー、大臣答弁とは思えないほどしどろもどろだよ。どーしよう、でも、ここはぶっちゃけた方がいい場面だと思うんだが…。

「ミルスラ公は、まだこのモナクを信用していただけないようね?」

いたずらっぽく笑いながら、アル父上を睨む占い師。アル父上はタジタジだ。

「心配なさらずとも、相談事は他言いたしません。なんなら誓約魔法でもお互いかけましょうか?」

と言ってお茶を飲んでいる姿はさすがの貫禄だ。なんかもう、負けって気がするよ、アル父上!

「アル、もうやめましょ、正直にモナク様にご相談した方が、きっとキリーのためよ」

ウリエラママに手をとられて、アル父上は肩を落として口をつぐんだ。

サンキュー!ウリエラママ、これでグンと話しやすくなったよ。

「キリエラさんは、今私の国で、私の大人の体に入っていると思います。根拠はないけど、そう感じるんです」

モナク様がうなずいてくれたので、勇気を出して先を続ける。ここからが肝心なんだ。

「多分、キリエラさんも同じように私が自分の体に入っていると知っていると思います。ただ、その体がもう弱ってなくて、丈夫になりつつあることには、気づいてないと思うのですよね。だから交換タイミングが来るまでに、何とかして、もう大丈夫だよって伝えたいと思うんです、その方法について、何かアドバイスいただけませんか?」

「なるほどね…」

そう言って、モナク様は目線を落とし、お茶を一口飲んだ。私も釣られてお茶を飲んだ、ってこれ苦いよ!ギムネマ茶かよ!

うぇーって顔をなんとかこらえたが、バレたようで、クスクスと笑われた。

「このお茶には、人の直感を鋭くする効果があるのよ。私もいつも飲んでいるのだけど、子どもの味覚にはちょっときついかもね」

直感を鋭くするお茶かぁ、日本に戻ったとき持って帰れたら、かなり診察に役立ちそうなんだけどなぁ。


「あなた、この世界に月が3つあるのはご存知?」

なんか相談と関係ない話を始めたよ、モナク様。

私、占い師って高校の時の学院祭で友達がやってたのしか知らないんだよね。

あの時も無理やり占われたけど、情熱的な恋人ができるなんてウソばっかりだったよ。コールドリーディングって言うんだっけ、なんか当たり障りのない話から情報探っていくってヤツかな?

「はい、知ってます。3つの月が重なるのが3年に一度あるんですよね」

「あなたの世界ではどうか分からないけど、こちらでは3つの月は、それぞれ過去、現在、未来を司っているとされているの」

へえー、面白いな。日本でも月は神秘的なイメージだけど、こっちでもなんだね。まあ満月の夜は救急車で運ばれてくる患者、確かに多かったしね…。

私がぼんやり考えてる最中も、モナク様の解説は続いた。

「ここで生まれる者は皆、いずれかの月または3つの月の加護を受けます。キリエラ様はちょうど合の月の夜にお生まれになりましたのよ、ご存知?」

え、そうなの?でもそれって重要なことなのかな?

私だけじゃなく、アル父上もウリエラママも不思議そうな顔をしているのを見て、モナク様は更に解説してくれた。

「合の月の加護を受けたものは、普通の人よりも過去・現在・未来について見通しがよくなると言われています」

見通しが…よくなる?ん?何か視力がよくなる、みたいな感じで言われたけど、それってつまり、どういうこと?

「分かりやすくいいますと、例えば一の月、この加護を受けた方は過去について見通す力が高まります。過去に起こったことについて、洞察力が高まるということですね。こういう方は、学者とか研究者向きと言われております」

なんとなく分かるような…?

「カンがはたらく、といった方が分かりやすいかしら?二の月の加護を受けた方は、現在についてカンが冴えるので、経営者や政治家などが向いておりますね。ミルスラ公も二の月のお生まれのはず」

「は、はぁ、そうです」

やっと正常起動したらしいアル父上が生真面目に返事してる。

へー、そうなんだ…。星占いの獅子座はリーダー向きとか、ああいうのかな…。

「三の月、この加護を受けたものは未来に対して見通す目を持ちやすいの。私のような占い師とか神官などに多いですね」

うん、なんとなく分かってきた。じゃ、合の月生まれは、全部の加護持ちってことになるの?キリーちゃんすごくない?

私の言いたいことが分かったのだろう、モナク様はくすりと笑うと、私をなだめるように教えてくれた。

「合の月生まれは、その期間が短いこともあり、そう多くありません。一般には、王族や魔法師など、人々を導くタイプが多いと言われてます。ですが、加護が大きい分、その反動も大きいのですよ。例えば…身に多すぎる魔力を持つ、とかね」

私たちは再び絶句した。このクッキーおばさん、じゃなかった、モナク様はホントにお見通しなんだ…。

この世界の占い師って、スゴイ!


「あ、あの、その点は何とかなりそうなんです。その、多すぎる魔力を何とかする方法、見つけたので」

「あら、そうなの、それはすごいですわね」

モナク様は割と本気で驚いたようだ。占い師を驚かせるなんて、私スゴイ!って言ってる場合じゃない、相談しないと。

「えーと、それでですね。キリーちゃんに何とかして、この体に戻ってももう大丈夫だよー、心配ないからねーって伝えたいんですが。今のお話ですと、キリーちゃんは合の月の加護を受けているので、私が過ごしてきた日々とか、つまり過去について、こう、見れるというか推し量れるだろう、ってことで、合ってますか?」

「その前に、あなたの世界の月が何個あるか、教えてくださらない?」

そうきたか、っていうかそれが重要なのか。

しまった、もっと友野先生にオカルト方面の知識聞いておくんだったよ、月の意味なんて知らないし私。うさぎの餅つきエピソードしか知らないけど、それを披露する場面じゃないよね、きっと。

「あの、1個しかないんですけど、何を司っているかなんて知らないんです。その、司ってないかもしれないし」

えーと、日本神話だと月読尊でギリシャローマ神話だと確か女神なんだよね。男女の違いがあるけどそれに意味があるのかも分からん。司ってるのってなんだっけ、確か女神様の方は狩りしてたみたいだけど、まさか狩猟じゃないよね。うーん、分からん。

己の女子力の低さにもだえていると、モナク様はフフッと笑いながら答えてくれた。

「1つでもあれば大丈夫ですよ。この世界でもあなたの世界でも、月は日の光を反射するもの、でしょ?」

「あ、はい、そうです」

月自体が発光、してないはず、だよね。ヤバイ、科学知識全然使ってないせいか脳みそがたるんでるよ。

しっかりしろ、私!

「キリエラ様は合の月の加護を受けて、見たいものを見通す力をお持ちです。あの方が今一番見たいのは、自分の体がどうなっているか、ではないですか?だから、その強い思いが反射されて、こちらの世界のことが映し出されるはずですよ。まあ私のように脳裏にくっきりと映るのではなく、多分、夢、という形をとるでしょうが」

そう静かに言うモナク様は自信に満ちていた。

「では、キリーは、夢で私たちのことを見ているということですの?」

ウリエラママがなんか泣きそうになっている。そうだよね、もし当たりなら、キリーちゃんが無事ここに戻ってこれる確率は高まる!

「ウリエラ、あなたの娘を信じなさい。多分、桐江様の体に入ってから、様々な困難があったはずよ。でもきっと乗り越えて、あなたのもとに戻ってくるわ。だって、弱い体を誰かに押し付けようと考える娘だったら、そもそもこんなことになっていないのだから」

その言葉を聞いて、なんか頭をブロックで殴られたような気がした。

そうか、そうだよね!


今まで私はキリーちゃんのことを、我慢強いけど、何か心の弱い子って、どこかで考えてた。じゃなかったら、こんなどっちつかずの状態になってないだろって。

でも違う。キリーちゃんはきっと潔い子だったんだ。だから自分の母親に弱った体を押し付けるのを厭い、でも自分の力が及ばないから誰か助けて!って助けを求めたんだと思う。その手を、おっちょこちょいで気持ちだけでつっぱしると評判の私が、よっしゃオッケー!って取っちゃっただけなんだ。逃げ出したんじゃない、キリーちゃんはもっと強くて、助けてって言うのを躊躇しなかったんだよきっと…。

現代日本に、嫌なことを嫌と言えず潰れていく優しい人がどれだけ多いことか。そう思えば、キリーちゃんの覚悟はスゴイと素直に思えた。ごめんね、私、どこかでキリーちゃんを子どもだからって見くびってたんだね。そういうのが一番ダメだって恩師から何回も繰り返し教えられてたのに。私も小児科医としてまだまだだな…。


一人脳内反省会をしている間も、モナク様はウリエラママを慰め続けていた。この二人、長年の知り合いだけあって、信頼関係の強さが半端ない感じ。

「ウリエラ様、桐江様もよく聞いて。多分キリエラ様は状況をご存知のはず。ですが、桐江様の世界に月は1つしかないので、きっとパワーも三分の一になると思いますの」

おっと、それは、もしかしてまずいこと?

「ですから、キリエラ様がご存知としても、どういう情報を入手しているか、は分からないのです。そこだけが、不安要素といえば言えますわね」

「つ、つまり、キリーはこっちの状況をどんな形で知っているか、分からないということですか。見たとかじゃなくて、音だけ聞いてるとか」

と、どもりながらアル父上が口を挟む。

「まあ、外交を担当されてるだけあって、理解がお早いわね。そのとおりです。あなた方の会話を夢で聞いているかもしれないし、逆に音のない映像だけ見ているかもしれない。キリエラ様は聡明な方ですが、まだお小さい。情報の受け取り方にこちらとの齟齬、があるかもしれませんね」

えー!そういうことなんだ!てっきり私が散歩してるのとかを見てると考えちゃってたよ…!

だったら…うん、やることは決まった!


「分かりました!じゃ、私、キリーちゃんがどんな形であれ体が丈夫になったって、分かるよう、これから生活します!」

突然叫んだ私に、みんなびっくりしてる。

「桐江さん、どうなさるおつもり?」

ウリエラママが不安そうに聞いてきたので、頭の中で考えを一旦まとめて、またプレゼンぽく答えてみた。

「人間の感覚は、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚の5つです。この全部に、キリーちゃんの体が丈夫になったよ、って情報を混ぜればいいんです!」

しまった、あんまりピンときてないっぽい。多分唯一、モナク様だけが私の言わんとしたことを理解したのだろう、にこにこしている。ぽかんとしているアル父上とウリエラママに向けて、私は指を振りながら答えた。

「視覚。これは私がパジャマじゃなく普通の服を着て歩いていれば大丈夫だと思います。聴覚。私これから毎日折にふれて、『今日も体の調子がいい!』とか言うようにします。触覚。なるべく体をぺたぺた触るようにしますね、筋肉がついてるのが触ると感じられますから。嗅覚。キリーちゃん多分、咳が出るからお香の類って嫌いだったと思うんですよ、でも今なら平気ですから、女の子っぽい香水とか、つけるようにします。味覚。むせるから喘息患者は酸っぱいものとか辛いもの、避けがちなんですが、そういうのもドンドン味わっちゃいます。ダメ押しに部屋に「キリーちゃん帰還まで後◯日!」とか書いて貼っておけば、きっともう戻っても大丈夫だし、みんな待ってるって信じてくれると思います!」

言い切って、ドヤ顔をしてみせたら、モナク様がパチパチと拍手をしてくれた。つられたようにウリエラママとアル父上も拍手する。え、なんか、小っ恥ずかしい…。

「桐江様は素敵な女性ですね。キリエラ様と交換されたのが貴女で本当によかった。では私から勇気ある桐江様に贈り物を」

そう言うと、モナク様はいきなり私のカップの上に手を伸ばして、手のひらで円を描くようにした。と、ふわっと湯気が立ち上った。

変だな、もうとっくに冷めてたはずなのに…。

みんなでびっくりしていると、モナク様はにやっと笑って、びっくりするような事を言い出した。

「お飲みになって。効果的なアイデアがどんどん沸いてきますから。それと第四王子に、桐江様が最近作られたものを利用して、プレゼントされるといいわ。きっと、キリエラ様が戻ってきたときのために、役に立ちますよ」

最近作ったのって、あの鉄壁の枕カバーなんですけど…。この人、どこまで知ってるの?

それも婚約者の第四王子にあげるの?なんかトラブルの元にしかならない気がするんだけど。

でもこの人は、多分キリーちゃんの全素持ちを見越して、王子との婚約を勧めた人だ。今度のアドバイスも何かきっと勝算があるのだろう。

私はアル父上とウリエラママと顔を見合わせ、全員同じことを考えてるのを認めあったあと、笑顔でモナク様に答えた。

「分かりました。王子に喜ばれるプレゼント、贈ってみせます!」

モナク様はただコロコロと笑っていた。


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