おしゃべりトーマの耳寄り情報
当たり前といえば当たり前だが、俺が魔飛鳥を撃退したという話はあっという間に学院中に広まった。そりゃこんな面白い話、話題にしないやついないよな!助けられた本人が三度の飯と同じくらいおしゃべり好きな上、おっちょこちょいで知られたトーマとくりゃ、この結末は予測できたはずなんだが、そもそもトーマ自身をあの野外活動に行くまで認識してなかった俺には不意打ちだった。こいつがそんなヤツと知ってたら無駄でも一応口止めしといたのに!
「ハリル殿下!」きたよ、毎朝トーマ。こいつは毎日毎日俺に挨拶するためだけに俺の席に来る。最初は挨拶じゃなくて両手を握りしめての感謝感激感涙バージョンのお礼を息の続く限り叫んだので、たまりかねて廊下に連れ出して、もういいから気にするなって言ったんだが、かえってコイツの何かに触れちゃったみたい。あれから毎朝現れて、ロクに相槌も打たない俺相手に、ニコニコしながら色んなニュースを話しだすんだよなー。
トーマの家は男爵家だが新聞社と広告会社を抱えている、わりと小金持ちで影響力もある家だ。そういう家に生まれたので、当然他より数段早く様々な情報を手に入れることができ、それを学院の仲間たちにここだけの話だよ、と披露するのを生きがいとしていたらしい。そのままでいてくれよ、何で俺なんかに宮廷ゴシップとか話すんだよ。
「ハリル殿下は、他の王族の方々の社交状況などに、ご興味はないんですか?我が家には時々第一王子がお忍びでこられて、隣国の情報とかを父に聞いているのですが」
不思議そうに首をかしげるトーマ。そりゃ、俺以外の王子は王位継承レースに参加中だからな。俺は参加中に見えるが実はもう座ってみんなが走るのをボーッと見てるだけなんだ。
「すまない、そぅいったことは兄上方が熱心な分、私は興味がないのでね」
「では、どういったことにご興味が?新開発の魔法とか魔道具とかですと第二王子と第三王子がよく華々しく宣伝してくれとか、情報を抑えてくれとか言ってきますけど」
「魔法にもそんなに興味は…」ない、と言いかけて、待てよと思う。コイツに聞いてみようか。うーんでも聞き方を間違えるとヤバいからな。迷っていると、トーマが思い出したように言った。
「そうそう、魔道具といえば今面白い道具が流行っているんですよ、美容魔器具って言うのかな、アレ。その特許を持っているのがミルスラ公爵家だそうで。確か殿下の婚約者のご実家ですよね」
ミルスラ公爵家、の言葉に耳をそばだてる。
「美容魔器具、なんだそれ?」
「面白い組み合わせ器具ですよ。壺みたいな形で口部分に薄い布が張られてるんです。壺の内側は二層に分かれてて、上に水魔石、下に火魔石を入れるんです。そうすると上部の口から湯気がずっと出てくるんですが、それが香り付きなんですよね。多分口部分の布自体に香りがついてるらしいんですが、その作り方が特許部分らしくて。最初メイドの間で人気になって、今は貴族にも広まりつつあるみたいです」
「へえ、面白いな。確かミルスラ公爵家は火と水の魔石の制作を担っている家だが、それを組み合わせた商品を作ったのか。ん?香り付き…?」
トーマがにこやかに笑いながら言う。
「ええ、使い始めたメイドの間で、良い香りが服や髪に自然につくし、何より肌が潤うと人気になったようですよ。メイドはそんなに高い香水とか買えませんからね。で、それを自邸のメイドから聞いた貴族の令嬢が、試しに使ってみてこれはイイ!となったそうで、令嬢とメイドで争奪戦になったとかならないとか」
ホントかよ…。楽しげに囀るトーマを見て信憑性に若干不安を抱いたものの、何となく引っかかったので聞いてみた。
「それ、いつ頃から流行りだした?」
「えーと、ちょうど今年の春になってからですね。類似品も出回りだしましたが、それは香りのないバージョンのようです。香り付きの布を作るのがやはり難しいんでしょう」
今年か…。俺が学院に入学した年。そして見かけは普通だけど変わった贈り物が届くようになった年。今までもらったネクタイ、靴下、枕カバーの共通点は石じゃなくて布だということだ。去年突風被害で土煙あげた公爵家の森はまだ元に戻されてない。そして魔石以外も取り扱えるのか?と聞いてきたというミルスラ家の家令…。何となく仮説がまとまるような気がしてきた。
「そういう面白い道具には、実は興味があるんだ。もし今後そういった話を聞いたときには教えてくれると助かるのだが」
「わ、分かりました!そうですよね、新しい発明には誰しも心踊りますもんね!」
目を見開いたトーマは感激した面持ちで頬を紅潮させながら叫びだした。おい、もうちょっと声を落とせ、頼むから。
あと何か発明品オタクみたいに思われたようで嫌だけど、ミルスラ公爵家の方に注目されるよりはマシだと思って我慢する。
「ああ、頼む。助かるよ、トーマ」
何故か目をウルウルさせているトーマをなだめて自分の教室に戻らせてから、俺はこの仮説をどうビンジーに話そうか考え始めた。アイツに笑われるのはゴメンだからな。




