公爵令嬢プレゼントの真価
公爵令嬢プレゼントの真価
「ハリル殿下、歩くペースが早いようですが大丈夫ですか?」
隣を歩くクラスメイトが不思議そうに聞いてきた。お、やばい、早く帰りてーと思って若干早足になってたみたいだ、下り坂は危ないし気をつけないと。
「ああ、少し逸っていたみたいだ、早く部屋に帰って冷たいものでも飲みたいと思いすぎてな」
周囲からハハハと力ない笑いがあがる。まあ今日同じ班になった奴らは俺よりもかなりモヤシっぽいから、野外実習がかなり堪えてるみたいだな。
この学院では結構体力づくりも奨励されており、年に何回かこういった野外での実習がある。まあ魔法使うのに割と体力いるしな。ただ団体行動も学ばせようという思惑なのか、毎回班を組ませるのはいただけない。班ごとに優劣つけるみたいなことになると、俺みたいな弱魔力持ちは周りの足を引っ張るんであまり好きじゃないんだ。今回は魔力を込めた魔石を作るための素材採集、というタイプの実習で、優劣は①どれだけ多く良い素材を入手できるか②往復を全員揃って時間通りに移動できるか、の2点で採点される。まあ、野外実習の中では易しめのヤツだな。
俺は①については探知魔法が使えないので役立たずだったが、素材になる石や木を運んだりするのにはまあまあ役に立てたと思う。それよりも場所が山の中なもんで②でかなり皆へばったようだ、俺以外は。これはもしかしなくても今履いている公爵家プレゼントの回復効果付き靴下が影響しているように思う。だって全然足が疲れないんだよね。
ちなみにあの疑惑のネクタイは、野外でジャージの上に締めるのはいくらなんでもないだろう、ということで寮の部屋に置いておこうとした。が、なんとここで反対したのがビンジーだ。
「ジャージの上から締めろとは言いませんが、荷物に入れておいてくださいよ」
「え、何でだよ、意味ないだろ」
「野外実習で赴くソフノー山は魔獣が出る地域ではないのですが、魔飛鳥の飛行ルートにこの頃なっているという噂があります。あのネクタイを持っていれば、万一のときに攫われてパクっといかれる危険を避けられるかもしれませんよ」
ヤなこと言うなぁ。魔獣はたいてい辺境に出没するんだが、飛ぶタイプのやつは当たり前だがどこでも行き放題だ。王都王宮付近は結界を張っているが、すんごい魔力消費量なもので国全域に張るのはムリ。魔飛鳥は電撃を浴びせて焦げ焦げになって麻痺した人を攫ってくのでやっかいなのだが、習性なのか飛行ルートが定まってる。魔法省が戦闘用魔獣として飼いならそうと訓練したらしいが、この習性のせいで使うのを諦めたという噂があるくらい、ルートを変えさせるのは不可能なんだ。だからヤツらが飛ぶ辺りにいなければ大丈夫なんだが…。
「だってこのネクタイに防御魔法効果が付与されてるかはまだ分かってないんだぞ。公爵令嬢にも聞けてないし。お前も怪しんでたくせに」
「軽いから荷物にもならないでしょ、ほらこのポケットにつっこんでおきますから」
俺のセリフをガン無視して丸めたネクタイをリュックの後ろポケットに突っ込むビンジー。主人の言うことをちっとは聞けっつーの。
「王子なのに亡骸もないまま葬儀を出す羽目になったら、父が王家の墓所前で侘びがてら自裁しかねませんからね、どうか無事お戻りを!」とにこやかに縁起でもないことを言って俺を送り出すビンジー。こいつの給料、絶対減らしてやるからな!
ふもとまであともう少し、ってあたりで何か上の方で音がしたような気がした。他の奴らも何か感じたのか上を見上げる。
「うぁぁ!魔飛鳥だ!魔飛鳥が飛んでるぞ」後方にいた生徒が大声をあげて、そちらの方角を見た生徒が全員悲鳴をあげた!大型の魔飛鳥!それも二羽!マジか!
「防御しますから固まって引率の先生のところに行きなさい!」
そう、魔飛鳥は集団には襲いかかってこないし、電撃から身を守るにも一箇所に固まったほうが効率がいい。俺は慌てず赤い杖をもった教員のところまで戻ろうとしたが、一緒の班の一人が魔飛鳥の姿を見てパニックになったのかウワー!っと喚きながら一目散に坂を駆け下りて行ってしまった。おい待て、お前、どっちに行くんだよ!
「ハリル様、早く先生の元へ」と同じ班の別のクラスメイトが俺の手を引っ張って言う。もっともだ、もっともだが、あのパニック野郎をほっとくわけにはいかないだろう、一応同じ班だし。
「先に行け、私は彼を連れて戻る」と格好よく手を振り払ったつもり、だったが身体を方向転換させながら言ったのでズルっとこけてイマイチ決まらなかった。いつだって王子様の猫かぶり着れないんだよな、俺。
まだなんか言っているクラスメイトを無視してパニック野郎をおっかける。げ、まずい、2羽いたやつのうち1羽が、パニック野郎の動きに惹かれたみたいに進路を変えてるじゃん。
早く捕まえよう!と思ったのが悪かったのか、足の速さがいきなり加速した感じがした。というか絶対加速してる!この靴下、もしかして速度アップの魔法効果もついてるのかよ!おかげであっという間にパニック野郎に追いついてその襟首を掴むことができた。魔飛鳥に捉えられたと勘違いしたのかバタバタしながら盛大に喚くクラスメイトの耳元で「黙れ!」と叫ぶ。
「落ち着け!みんなで固まって防御するから、早く先生のところに戻るんだ」と声に凄みをきかせてたたみかけると、ちっと落ち着いた顔色になる。もー、世話焼かせるなよ。
「は、ハリル殿下!わ、わかりました」
よし、多少は落ち着いたか。くるっと向きを変えると…目の前に魔飛鳥のくちばしが迫っていた。
何か遠くでわーわー言っているのが聞こえたが、こっちはそれどころじゃない。魔飛鳥の生態だと電撃後攫っていくのは一度に一人だけだ。仕方ないなぁ、これも王子の努めかよ。あー短い人生だったなぁ。
魔飛鳥がくちばしを開いて電撃の構えを見せる。一瞬でここまで考えた俺は仕方なくパニック駆け出し野郎をちょっと突き飛ばして自分から離したあと、魔飛鳥に背中を向けた。結果が変わらないとしたって電撃を顔に浴びるのは御免こうむりたいからな。
バリバリっと背中で音がしたが何も感じず、代わりにグリーンの光が身体を取り巻くように展開されるのが分かった。思い出した、あのネクタイ持ってたんだっけ!教室爆風直撃事件のとき、後ろの席のヤツが言ってたのはこれかぁ。
振り向いて見上げると、魔飛鳥の方も、え、何?って感じだったけど、本能に基づいた動作は変えられないようで、両足を突き出して俺を掴みにかかってきた。慌てて横に転がって避ける。魔飛鳥は連続で電撃を吐けないはずだ。今のうちに逃げるぞ!
口をぽかんと開けてこっちを見てたパニック野郎の手を掴んで立ち上がらせる。魔飛鳥は助走をつけるためか上空に飛翔していった。今のうちに先生のとこまで行かねば!と思ったのが良かったのか悪かったのか、また走る速度が上がる。ほとんどパニック野郎を引きずるようにして坂を駆け登る俺たちを先生二人が迎えてくれた。
「ハリル殿下、ご無事で!よかった!」おい、お前、言葉と表情が一致してないでしょ、何で無傷なの?って顔で見るのはやめてほしい。
もう一人の先生が杖を構えてファイヤーランスを放つ。お、命中した。やっぱりあいつは火に弱いんだな。もう一羽いたのも倒されたみたいだ。まさかビンジーの懸念が的中する日が来るとはなぁ。でも今度はどうやってごまかそうか…。俺は王子様的スマイルを顔に貼り付けながら言い訳をひねり出そうと頭をフル回転させはじめた。




