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魔法は覚えたけど役に立たないと分かりました

魔法は覚えたけど役に立たないと分かりました


早いものでこの世界に来てから半年たった。そしてこのキリエラちゃんの身体は大分頑丈になってきたと思う、誰か褒めてください!

いやホントに大変だったよ、気管支も肺も弱い生粋の公爵令嬢の体質改善は!私にペーペー小児科医の知識があっても、この魔法が主力の世界ではほぼ役に立たなかったしね。やっぱり医者の仕事って医薬品に大分寄っかかってるんだなぁと痛感した。日本に戻れたら、以前は忙しさのあまり塩対応してた製薬会社のMRさんたちにもっとスマイルで応対することにしよう…。


一病息災という言葉がある。そりゃ誰もが無病息災でいられればパラダイスだが現実はそうもいかない。生活習慣病、遺伝病、感染症…、病気にかかるリスクは日々至るところにある。だがしかし、もともとかかっている病気の具合で己の体調を予測し、新たな病にかかるのを予防できるとしたらどうだろうか。関節炎にかかっている人が傷み具合で明日の天気を予想するとか、聞いたこと、ない?要するに、自分の慢性疾患を利用して他の病にかかるのを防ぐわけだ。


キリエラちゃんの身体の場合だと天候が悪化する時、具体的にいうと急に冷え込む前日、喉の奥に違和感を感じることが多い。この違和感に気づいた時点で、部屋の温度を上げる、加湿器モドキを増やす、首周りを緩め同時に温めるってな対策をとっておくと、夜中に咳で目覚めることなくぐっすり眠れて、普段どおり翌日も過ごせるのだ。もとの幼女のままだったら、例え兆候が分かっていても自力で事前対策とるとかはできなかっただろう。このときばかりはキリエラちゃんのために身体交換してよかったと本当に思う。

ウリエラママが私の身体が丈夫になってきたのを喜ぶと同時に、ちょっと辛そうな目をするのは、娘のそういう体調の変化に気づいてあげられなかったことへの罪悪感だろうな。でも医学知識が割と普及してる日本だって、そこまでできる家族はいないから、あまり気に病まないでほしい。


あと食事!こちらの世界の食事は公爵家ということもあるのだろうが結構美味しくて、しかも栄養価が高い料理が多いんだけど、病人食っていう献立があまり発達してないみたい。そりゃそうだ、だいたい魔法ですぐ治っちゃうんだもんね。なので公爵家の料理人たちはキリエラさんのメイドやウリエラママから聞いた情報を元に食事を作ってたのだけど、キリエラちゃんの食欲はあまりアップしなかった。そこでどうすればいいか悩んだ結果、全部煮たり潰したりして食べやすさ優先のメニューにしてしまったらしい。

確かに口通りはいいかもしれないが、栄養価は下がるし、見た目もなぁ…。飾らずに言えばゲロみたい。そして小児科医として数々の子どもと渡り合った私は断言する。子どもは煮た物が嫌いだ!!!そして好き嫌いが半端なく多い!!!


煮魚好きな子どもいる?野菜の煮物好きな子どもいる?病院で甘めに味付けして出した肉じゃがだってビーフシチューだって、ニンジンが入ってるってだけで頑として口をつけない子もいたんだよ!

キリエラちゃんは好き嫌いがない子どもですってみんなは言うけど、多分野菜そのまま、魚そのままの形で食べたこと、あんまりないんじゃないかな。毎日卵、それもゆるゆるのスクランブルエッグと、何が溶け込んでるんだか分からないスープやリゾットっぽいのしか味わえなければ、味覚も鈍るし食欲も減退するだろう。それにこんな献立ばかり続いたら、お子様目線で魅力的なゼリーや甘みをつけたドリンクに惹かれて、そっちばかりを食べたり飲んだりしてしまっても仕方ないと思う。


だから私はリエルを通じて厨房にこんな献立にしてね、って要望することにした。下手なイラストまで書いてね。必ずタンパク質をつけて、ある程度噛み応えがあるものも入れ、けど子どもの口に合うようちょっと甘めに!というワガママを言った結果、例えば今朝の献立はこんな感じになる。

クムルの蜜入りホットミルク、飴色になるまで炒めたオニオン入りのバターをふんだんに使ったオムレツ、麦とブロスの煮込み粥でトッピングには花弁が甘いエディブルフラワー、柔らかく煮たエビとアスパラのコンソメゼリー寄せ、薄く刻んだベーコンとキャベツのクリームトマトスープ、ワイテのパウダーがけ煎りナッツ、ブルーベリージャム入りヨーグルト。ちなみにエビとかアスパラとかは名前がちょっと違うけど日本で食べてたのと同じもので、ますますこの世界って別世界というよりパラレルワールドじゃない?という私の疑惑を強めた。


あからさまに分かるように、タンパク質多めで見た目が鮮やか、バターやワイテパウダーで嗅覚も刺激して食欲を起こさせるような献立だ。ちなみに病院食はもっと地味です。でもキリエラちゃんは腐っても公爵令嬢、このウリエラママの趣味が反映されたのであろう華やかな屋敷で暮らして、フリフリのドレスとか着てれば、食事だって華やかなメニューが好みではと予想するのは当然。身体のために薄茶色のスープやくすんだミルク色のリゾットを食べなきゃと思っていたとしても、子どもだもん、きっと手が伸びなかったんだよ、可哀想に。


私は中身大人なので好き嫌いなく何でも食べれるし、来た当時の日々危篤状態ならともかく、今は病人食献立にする意味も正直あんまりない。でも2年後、キリエラちゃんがこの世界に帰ってきたあと、寝込んだ時に食べたい物がないっていう苦労をさせては意味がないのだ。そして彼女の気管支と肺が体質的に弱い以上、必ずこのレシピが必要になる日は来ると思う、嫌なことだけど。

なお、コンソメゼリーは料理長にはなかった発想だったらしく、このレシピを他の献立に流用してよいかと異例のお伺いがリエルを通じて上がってきた。もちろん快諾!私は作れないけどこういう病人食レシピを書き留めてこっそり残していけば、ひょっとしたら他の病人にも恩恵があるかもね。まあ、魔法でチャッと治しちゃう世界だとあまり作られる機会はないかもだけど。


魔法、そうだ魔法だよ。本を読みこみつつ魔法の使い手でもあるウリエラママとアル父上の助けを借りて、何とか初級中級魔法の知識を仕入れた私は、何と魔法を使うことができるようになったのです!パチパチパチ!

いやー、初めて水をカップに満たすって水魔法の初級呪文唱えた時の驚きは今も忘れられない。だって呪文唱えたとたん、延々と空のカップから水が湧いてくるんだよ!それも勢いよく!でも止まらない!床が水浸しになってドアからあふれ出て、2階の廊下を浸した時点でやっと止まった。その日は屋敷中大騒ぎだったよ。繰り返すけど初級の水魔法呪文で!


魔法初心者の私はどっかに止めるっていう呪文があって、それを知らなかったためかと青くなったのだが、魔法ってそういうものではないらしい。魔法ってつまり意図した結果が得られたらそこで自動的にストップするもののようなのだ。私がイメージしたのは自動ふろ給湯器だがあながち間違いでもないだろう。思いつく例が庶民ぽくてすみません。

だが私の、というかキリエラちゃんの魔力は、要するに出す方にだけに全振りしているらしく、つまりは唱えた呪文にその時持っている大部分の魔力を注ぐ形になるみたいなのだ。じゃ、魔力量をコントロールすればイイじゃん、って思うでしょうが、それも難しい。なんだろう、エアコンのリモコンが強しかない感じ?テレビのリモコンで音量がMAXで設定されている感じ?コントロールの感じが全然うまくつかめないのだ。もうおっかなくて、せっかく覚えた初級火魔法なんか使えないよ。ちょっとロウソク灯そうとしたら屋敷全焼なんて悪夢でしかない。


それに加えて問題なのが、このキリエラちゃんの魔力抵抗の強さ。これも元からMAXで設定されているっぽくて、つまりキリエラちゃんの身体は魔法を使うというよりは魔力放出に最適化されてるみたいなのだ。ほら、もともと声が大きい人いるでしょ?人よりたくさん食べれる人いるでしょ?ああいう感じで魔法を使うと常人より出力がかなり大きくなって、水が溢れちゃったりするし、逆も同じで他人が魔法をかけると無意識に自分の限界まで抵抗しちゃったりするみたいなのだ。しかもコントロールの仕方がわからないから、感情によって出力が影響されているみたい。つまりちょっとでもイヤだとキリエラちゃんが思うと、際限なく彼女の魔力が抵抗しちゃうという具合らしい。


そしてここに、キリエラちゃんとウリエラママの身体交換魔術が上手くいかなかった理由があるのでは、と私は疑っている。キリエラちゃんはそもそもの魔力が段違いに高い。これは王族やトップクラスの魔術師にも言えることだが、魔力が高いと他者からの干渉を受けにくくなるそうだ。そりゃそうだろう、王様や政治トップが誰かに魔法で操られちゃったら大変だしね。そしてキリエラちゃんの身体は魔力を出すことに最適化されている、これがポイント。魔力が高い者に魔法をかけるのが大変なように、他者の魔力を受け入れる、ってのがキリエラちゃんにはそもそもできないことだったんだろう、出す方に全振りしてるから。


ウリエラママは魔力コントロールに長けてるらしいので、私の考えを相談してみた。結果、二人ともキリエラちゃんの身体は抵抗しようとして抵抗しているわけじゃないと意見が一致した。つまり意識して発動する魔法じゃなく、彼女が嫌だと思った感情に動かされた魔力が勝手に防御しているのであろう、と。前に回復魔法や治癒魔法は痛みを伴うことがある、ってアル父上が言ってたしね。なまじ頭がいい分、一回味わった痛みを体験したくなくて、魔力を高めて抵抗しちゃうってのは、ありうる話だと思う。

そうなると自分で回復魔法か治癒魔法を修めて自分にかけるしかないような気がするのだが、この魔法は上級魔法、なおかつ資質を選ぶというかなり特殊な魔法だった。八方ふさがりじゃん…。


「私もアルも回復魔法は修めているけど、上手く使えないのよ。私は水と氷魔法、アルは火と炎の魔法に強いのだけど」と悔しそうに言うウリエラママ。

「そんなに難しいのですか、回復系の魔法って」

「前にあなたに一日一度、全身に回復魔法をかけてもらっていたでしょう。あれ、かけてくれる魔法使いは日替わりだったのよ。全身ともなると1回で魔力が底をつくから」

私がベッドでクリーム色の光に包まれ弛緩していた時に、どこかで魔法使いが一人倒れてた訳か…。

「手のちょっとした切り傷とかを治す分にはそんなに魔力はいらないんですね」

「そう。だけど小さな部分に魔力を集中させるっていうのも難しいわ。だから上級魔法なのよ」

「今中級魔法までの本を読んでますが、上級魔法も本で覚えられるでしょうか」と、おそるおそる聞いてみる私。

「さすがに難しいと思うわ…。学院とか魔法省なら実習や研修で覚えられるけど、それでもマスターできない人がかなりいるの。だからいつの時代も治癒魔法師は忙しくて引っ張りだこなのよ」

家庭学習では無理か…。そもそもキリエラちゃんの魔力メモリの上限設定自体がおかしいようなものだからなぁ。回復魔法とかをもしマスターしたとしても、延々発動し続けたらどうなるのか予想もできない。際限なく放射線治療し続けたり抗がん剤飲み続けるようなものだろうか…。なんかそれってヤバそうだよなあ。


「あの、もう一回聞きますけど魔力コントロールのマニュアルとかないんですよね」

ウリエラママが眉を下げて申し訳なさそうに答えてくれる。どうでもいいけど美人はどんな顔をしても美人だなぁ、うらやましい。

「私も魔力制御ができる自分がキリーの中に入れば何とかなる、って浅はかにも思っていたけど、どうも違うようね。だってキリーは魔法を使ってはいないのだから。私たちがする魔力コントロール、魔力制御というのは要するに配分なの、どの魔法にどのくらい使うかを決めるためにね」

あー、何となく言いたいことが分かった。

「だからね、魔法を使わない状態で魔力を抑えるっていうことがそもそもないの。身体の血の巡りを意志で抑えるようなものね。魔力制御でできるのは、魔法を使うときの風魔法に50%、水魔法に50%みたいな振り分けだけ」

じゃあ体内の魔力値が高く、他者の魔法の効果を受け入れられない人はどうするんだろう。王様とか魔力が高いからって、怪我しても放っておかれるのだろうか、まさか。疑問が顔に出たのか、ウリエラママが教えてくれた。

「魔力がもともと高い方々は、基本的にまず怪我もしないし病気にもかかりにくいのよ。それでも怪我したり病気したりした際には、自分で治癒魔法を唱えて治すか、高い魔力がある魔法士が複数で対処にあたることが多いわ。また。キリーも一度4名で回復魔法の重ね掛けしてもらったんだけど、その時すごく苦しそうに呻いて気を失って、呼吸が止まりそうになってしまって」と涙ぐむウリエラママ。

これはどっちなんだろう、キリーちゃんの魔力が魔法使い4名以上ってことだろうか、それとも回復魔法の苦痛に耐えられなかったんだろうか。


どっちにしろこの魔法の世界で私が考えつくようなことは、この両親は試し済みらしい。

この状態で2年後身体交換しても、キリーちゃんは魔法が使えて身体がちょっと丈夫になったぐらいの変化しかないのは、何か申し訳ない気がする、私のせいじゃないんだけど。

何とかして回復系の魔法を自力でマスターする方法はないものか。それか別の方法で何とか魔力抵抗を減らしたりできないかな…。考えを巡らせ始めた私をウリエラママは心配そうに見つめていた。


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