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メタドリーム ~メタバースは夢の中で~  作者: 蓮澤ナーム
01
9/26

09ダイヤ収集

 ギンロウたちがキンカの元に着く頃には、彼女は護衛の【ストーンゴーレム】も片付けてしまっていた。


「こいつ、使いもしないくせにまぁまぁ良い弓持ってたよ。【ガイアボウ】だって。【地属性】付き。誰か使う? アタシは近距離専だからいいや」

「私はダイヤさえもらえれば~。それに武器は杖系しか使えないので~」

「俺も銃だし要らん。ギンロウ、貰っとけよ」

「え? オレ? 別にオレも……」


(オレも弓は使わないけどなぁ)

 と言って、他の三人も本当に要らなそうである。


「いや、貰ってくれ。こっからはギンロウのスキルが重要だからな」とリコシェ。


 【ストーンエレメント】をルートしてもダイヤは発見されず、ということは採掘する必要があるはずだ。


(まぁ、売れば良いか)

「わかった。じゃあ遠慮なく。さて、じゃあダイヤがありそうなところを探さないとな」

「そんならもう見つけてあるなゃ。あそこだ」


 キンカが指差す方には地面にぽっかりと開いた穴があった。【ストーンエレメント】が居た場所の付近だ。あれを守っていたのだろう。


「なるほど。あの下ってわけね」

「まて。その前に【トラップサーチ】を使う」


 早速とばかりに穴へ入ろうとするギンロウをリコシェが止めた。

 このようなあからさまに何かありそうな場所にはトラップが仕掛けられていることが多い。

 それは運営によるものもあれば、プレイヤーの手によるものの場合もある。戦闘が終わって油断したところを狙って仕掛ける、十分にあり得る話だ。


「よし何もない、大丈夫だ。だが中に入っても慎重にな」

「あー、敵がいるかもしれなゃいし、アタシが先に入ろうか? ゲッ! 真っ暗だ! 誰か松明(たいまつ)かなゃんか持ってなゃい?」

「なんだ、松明も無いのかよ、用意悪いなぁ」


 冒険者の基本アイテムすら用意して居ない彼女に、ギンロウは呆れ返る。


「アタシは余計なゃものは持たなゃいの! ギンロウ、あるんでしょ! 出しなゃ!」

「ハイハイ」


 彼はため息まじりに松明を取り出すと、キンカと並んで先頭を歩く。


「おっ! これは!」


 目的のものは案外すぐに見つかった。

 内部は体育館ほどのスペースが広がっており、そのあたり一面に採掘できる岩がゴロゴロ転がっていた。採掘用の岩は普通のものと明らかにテクスチャ-が違うため、スキルなど使用しなくても判別できるようになっている。

 この場にあるどれもがキラキラと小さな光を放っていて、それは宝石類が採掘できることを示していた。

 ギンロウは早速、その一つを掘り出してみる。


「よし! ダイヤだ!」

「おお!」ギンロウの報告を聞き、キンカも色めき立つ。

「やったな!」戦闘中はあれほど冷静なリコシェも興奮気味だ。

「ゲットです~!」 一番喜んでいるのは当然ながらコヨだ。両手を上げ、ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを表現している。

「へ~、ダイヤってこういう感じで採掘するんですね~」彼女は周囲を見回し、自らの瞳をダイヤのように輝かせた。

「あー、宝石系は大体こういうキラキラのとこにある。もちろん現実とは違うだろうけど。うーむ、しかし、困ったな……」


 すぐに何かに気づいたギンロウは顔色を変えた。キンカが心配そうに彼の表情を(うかが)う。


「どうした?」

「ほれ、これ。見てみ」トレードでキンカにアイテムを渡す。そこにはダイヤの原石があった。

「あー、なゃるほど。原石なゃのか」


 現実ではない世界とはいえ、宝石がそのまま出てくるほどご都合主義なわけではない。原石をカットし、磨き、加工して初めてその価値を発揮できるのだ。


「それはまぁ、予想通りなんだがな……結構重いんだ、これ」

「なゃるほど、これじゃ三人がかりでも大した量は持ち出せなゃいなゃ」

「ああ。おそらく、これだけの量があるってことは、まだ誰にも見つかってないはずだ。できれば、誰かに見つかる前になるべくたくさん持っていきたいところだが……って三人? まさか、ひょっとしてお前、運ばないつもりかぁ!?」

「えー! アタシも運ぶなゃ!?」

「当たり前だろうがぁ!」


 道中、モンスターは討伐(とうばつ)しながら来たので帰りは楽なはずなのだが、この期に及んでまだ荷物運びを嫌がるキンカに呆れ、リコシェとコヨも思わず顔を見合わせる。


「よし、あいつらがリポップするまでできるだけ運び出そう。俺は入り口にトラップと偽装を仕掛けて他の奴が入れないようにするからギンロウは採掘を頼む」


 モンスターは倒せば永久に消滅する、というわけではない。

 もしそうならいずれはモンスターが絶滅し、面白みが無くなってしまう。そのため一定時間立つと再出現するようになっており、それをリポップと言った。

分かった。あ、そうそう。これだけダイヤも見つかったことだし、さっきの弓はやっぱリコシェが貰ってくれよ」

「ん? いや、そんな気を使わなくてもいいぞ」

「いやぁ、そうは言ってもさぁ。今日は高い弾を撃ちまくっただろ? この中で一番、金かかってるはずだからさ」

「いやいや、リコシェはリアルでは大金持ちでゲームでも課金しまくりの重課金勢だからなゃー。本当に気にしなゃくていいぞ」


 そんな会話を聞いていたキンカが言った。


「へ? そうなのか?」


 ギンロウは思わずリコシェをまじまじと見てしまう。

(うーん。それほどレア装備って感じでもなさそうだけど?)

 いわゆる重課金勢と言われる者たちは、その財力を示すために有名な作者のレアな装備をこれ見よがしにしているものである。

 それは現実でブランド服や高級腕時計をして金持ちアピールするのとなんら変わりない心理だろう。

 だがリコシェの装備は、少なくとも見た目だけでお金がかかっているかどうかが判別できるようなものではなかった。


「だから大金持ちじゃないと何度も言ってるだろ!」

「なゃはは! でも課金しまくりは本当だろ?」

「う……ま、それは、ほどほどに、な」


 キンカの言を強く否定できないところを見ると、どこかしらにお金をかけているのは確かなようだ。だがそれを見せびらかさない、というのが本物を感じさせる。

 謙遜(けんそん)しているだけで、キンカの言う通り金持ちなのかもしれない、とギンロウは思った。



 収集したアイテムは村の銀行にあるストレージに預けておく。

 現実と違って便利なのは、ストレージに預けたアイテムは、各地にあるどこの銀行からでも引き出せるようになっていることだ。この小さな村ではダイヤを加工できる技師(ぎし)が居ない。

 なので一行は、一度【セントリア】に戻ることにした。村にある【ゲート】を登録したので、今後の行き来は一瞬で済む。


「いやー、しかし、思いがけず一財産(きず)けそうだなゃ~」


 とりあえず一休みと寄った酒場で、キンカはジョッキを傾けながら言った。

あの量は予想以上だったな」ギンロウも思わぬ成果に心地よい疲れを感じていた。

「こんにちは。なにか良いことでもあったんですか?」


 くつろぐキンカたちに声をかけてきたのは、たまたま隣のテーブルに居合わせたパーティーだ。そのなかの金髪ロングヘアのエルフがニコニコしながら側へとやってきた。


(ふん。そう簡単に情報が得られると思うなよ?)

 見れば、そのエルフの後ろには3人の男達がこちらの様子を伺っていた。獣人の戦士、人間の僧侶、魔族の魔法使い。正統派のパーティーといった(おもむき)だ。


「あー。ダイヤをいっぱい見つけたんだよ」

「ブーッ! は? はぁあ!? 何ってんだキンカ! 簡単に教えすぎだ!」


 あまりにあっさりと情報を漏らしたキンカに、ギンロウは飲んでいたものを吹き出した。


「えー? 良いじゃん別にぃ。減るもんじゃなゃいんだしぃ」

「いや、減るもんだろうが!」

「あ、そっかぁ。なゃははは!」


 あまりのことにエルフの方も唖然(あぜん)とした様子だ。だがすぐに気を取り直し、再び聞いてくる。


「あ、ありがとうございます! 詳しい場所も教えていただけませんか? もちろんお礼は……」


 言いかけたところでキンカは応えた。


「いや、良いよそんなゃの。座標教えるから。ホラ」

「ありがとうございます!」


 金髪エルフは何度も頭を下げ、仲間の元へと戻っていった。


「おい! あいつらに取られちまうぞ。いや、それだけじゃねぇ。あいつらから情報が広まって漁られちまうぞ! 良いのかよ!」納得がいかないギンロウはキンカに掴みかからんばかりの勢いで言う。

「まぁ落ち着けよギンロウ」だがリコシェは相変わらず冷静だ。

「落ち着いてなんか居られるかよリコシェ!」

「そうですよ~。お忘れですか、ギンロウさん。アイテムも金も~? なんでしたっけ~?」


 コヨはいたずらっぽく笑いながらギンロウに振る。

 そのフレーズを聞き、頭に上っていた血がスーッと下りていく。


「……アイテムだの金だのより仲間のが大事……か。確かにそう言ったがアイツ等は仲間じゃねーだろ」

「いや、仲間だなゃ。この世界の、ね。欲しい人は取りに行けば良いんだよ」キンカは得意げにうんうんと(うなず)く。

「だな。それに、あれはそう簡単には取れんぞ」

「確かに。十体以上のゴーレムに【ストーンエレメント】か。よく考えればオレたち初見でよく倒せたよな」


 リコシェの言にギンロウも思い直した。場所がわかったところでそうそう簡単に取れるものではないはず。ならば皆に楽しみを提供するのもまた一興か、と。


「私たちだって、最初は逃げようって言ってたじゃないですか~」

「そうそう。俺もギンロウの作戦が無かったら諦めてたな」

「ギンロウが居なゃかったら成功しなゃかったろうねー」


 三人に認められ、ギンロウも悪い気はしなかった。思わずニヤけそうになるのを必死で我慢し、頬を不自然にピクつかせてしまう。


「う、うむ……ただ、オレの予想と違ってゴーレムは止まらなかったけどな」

「そういや、そうだったなゃ」

「確かに。一歩間違ったら俺たち全滅してたかも」

「ちょっと、ギンロウさん~、しっかりしてくださいよ~」


 ちょっと照れ隠しに自分の落ち度を言ってみたら、あっというまに急に手のひらを返してくる。


「お、お前ら勝手なこと言うなよ!」


 と、口では怒ってみせたが、彼は内心、この空気に心地よさを感じていた。

 いつもは冒険が終わると決まって険悪なムードになり、そして気まずいままに解散となるのだが、ここは違う。

 彼らなら、また一緒に冒険できるかも、それどころか初めて固定メンバーができるかも、そういう期待で胸を膨らませた。


「なゃはは~。ところでコヨちゃん。そのダイヤなゃんだけど、もう加工する職人は見つけてるのかなゃ?」

「ティアラの作成をお願いしている職人さんが、宝石の加工もできるはずです~。素材だけ持ってきてくれれば良いって言ってましたし~」

「そかそか。じゃあ早速行ってみるかなゃ」


 店から出ようとするキンカたちに、先程のエルフ娘が笑顔で手を振ってきた。

(愛想は良いからお前らもなんか情報よこせよなー)

 ギンロウは笑顔を返しながらも、内心ではそんなことを考えてしまうのだった。


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