始まりのブローチ
雛がこの手の話をする時は、嘘をつかないも知っているがそれでも信じることができなかった。
「ごめん。コーヒーを飲んでもいいかい。」
守は雛に断りを入れ席を立つと、冷蔵庫を開きボトルに入っているコーヒーを取り出す。
「雛ちゃんもどう?色々ありすぎて今日は疲れたよ。明日も仕事だし話はここまでにしよう。」
雛も賛成と話を切り出し、守にコーヒーが欲しいか尋ねる。
「フレッシュは入れる?僕はいつも通りブラックにするよ。たまには雛ちゃんも飲んでみなよ」
雛は首を横に振り断りを入れる。
「私は苦いものが苦手なの知ってて意地悪するの?」
雛は上目遣いで守を見上げた。
初めてであれば見惚れてしまうであろう可愛らしさに、守も少し顔を赤らめたが、雛は守の様子に満足するとくすりと笑い、守からコーヒーを受け取る。
机に置いてある瓶から角砂糖を取り出し、一気に飲み干した。
「美味しかったわ。ありがとう守さん。今日は遅いから泊まっていくね」
守は顔から血の気が引いていくのを感じた。
「おいおい、待ってくれよ。傑さんに話をしたのか?俺は自殺願望はないんだ。今からでもいいから許可を得てくれよ」
「そういえば、お父さんから何度も着信があったわ。私も大人なのだから大丈夫よ」
雛は守に伝えると、隣の部屋に姿を消した。
守は顔から血の気が引いていくのを感じると、今日は眠れない夜を過ごすことになると頭を抱えた。
こうして守の長い1日は終わりを迎える。後になって思えば、人生をやり直すなら今日だと間違いなく神様に願うだろう。