始まりのブローチ
「雛ちゃんには頭があがらないよ。いつもありがとう。」
「いいのよ、昔からの付き合いだし。私がやらないとゴミ屋敷になるでしょ。それにしても今日は遅かったね守さん。何かあったの?」
守は何もないよと伝えたが、雛に一蹴された。
「守さん。嘘は良くないわ。私に隠し事しないでっていつも言ってるでしょう」
守は頭をひとかきして、昨日のことを伝えた。
いつ頃か分からないが、守に何かがあると決まって雛が家に現れる。
雛は年下だが、年齢を感じさせない母性を時折見せてくる。母親のような姉のような、そんな不思議な感覚だ。雛は優しく微笑み話をするよう促してきた。
守は「かなわいなぁ」と呟き、一呼吸をおいてからゆっくりと昨日の出来事を話し始めた。
雛は守を優しく見つめ、相槌を打って守の話を静かに聞いていた。
「、、、ということがあって、散々な目にあったけどなんだか不思議な一日だったよ」
雛は姉弟の話を聞いてから、時折、何かを話したそうな素振りを見せていたた。守が話を終えてから数分後に、閉じていた口を開いた。
「驚かないで聞いて、私もしかするとその二人の子供に出会ったかもしれないの。ほら、名古屋駅に銀時計ってあるでしょ」
「あぁ、よく待ち合わせに使うよね」
「今日のアルバイト帰りなんだけどね、私が鶴舞線の改札口に向かう途中に、大の大人が二人、子供二人を追いかけ回していたの。」
「騒がしいとは思うけど、親子じゃないか。それぐらい、よくある話じゃないか」
守が途中で口を挟んだが、雛は続けた。
「守さん、話の腰をおらないで」
雛は守の鼻に人差し指の腹を当てて、守が話するのを遮った。
そこから雛は話を続けたが、あまりにも奇想天外な話であった為に、守は口が少し空いたままになってしまっていた。