始まりのブローチ
守がこの日、目を通していたのは日本神話に関する本で、本屋で人が百人いたら九十九人は手に取ることも目に入れることもないであろう辞書のように分厚い本であった。
「、、、さん、、、もるさん!」
突如お風呂のドアを叩かれ、守は慌てて飛び出した。火事が起こったのか、地震が起こったのかと裸のままで飛び出したが、どうやら何も起こってはいなさそうだ。守は目の前にいる少女に話しかける。
「雛ちゃんか、驚かさないでくれよ」
「あら、守さん。婚前前の女性に肌を見せるのは良くないことよ。守さんは身長も高いし、筋肉質な身体を見れるのは目の保養になるけれど、私はまだ16だし、婚姻もしてないじゃない」
守の前で少女は声を殺して笑っていた。
ほうらい ひな
少女の名前は蓬莱 雛。
栗色をした肩まで伸びる髪に大きな目が特徴的で、身長156cmと小柄ではあるが、大人の女性を覗かせる不思議な雰囲気が彼女にはあった。
「雛ちゃん。何度も言うのだけど、本を読んでいる僕の貴重なこの時間に、合鍵を使って忍び込むのは辞めてくれないかな、、、」
雛は悪びれもなく守に言い返す。
「守さんが本を読むのは自由だけれど、夢中になりすぎて寝ていたり、夢中になりすぎて食事を忘れてしまうのだからアルバイト終わりに生存確認してあげている私に感謝するべきよ。そんな不健康な生活しているのだから心配になるわ。いいのいいの、感謝しないで。私が、心配で勝手にやってることだしね」