始まりのブローチ
守はその後乗務員と責務をまっとうするべく少年、少女を探したが見つかることはなかった。
乗客の怒りがピークに達する前に本社へ判断を仰ぎ、運転を再開することにした。
「おまたせし誠に申し訳ございません。只今より運転を再開致します」
守の一日は散々であった。
運転を再開したが、大きな事故が起こったらしく渋滞が起こったかと思えば何時間も遅れての到着に対して、乗客からの返金騒ぎと守はつくづく厄日だと天を仰いだ。
守の会社は、愛知県にある遊園地「ファンタジアリゾート開発」の子会社で各地からのバス運送を行っている会社である。営業所に戻ってからはクレーム処理に忘れ物点検、清掃とやることは沢山あった。
「今日は厄日だちくしょう!制服も買い直せだと!俺が何をしたっていうんだ!」
「先輩落ちついて点検しましょうよ。これから交代で運転するんで忘れ物があると手間なんですよ」
「煩い!俺の気持ちがお前にわかってたまるか!」
「荒れてるなあ、ほら、見つけた忘れ物。先輩が怒ってるから見つけられないんですよ」
後輩から価値の高そうなブローチを手渡された。
ブローチら直径およそ3センチ程度のものであるが、中央の翠色した宝石の周りには八咫烏の金細工が施されており、人の目を惹き付けるには十分な代物だった。
「なんだか高そうなものですね、、、」
「変な気は起こすなよ」
「馬鹿にしないで欲しいです。人としての尊厳はありますから」
「どうだかな」
「そういう先輩こそ生唾物なんじゃないですか」
後輩は、にやけ面をしながら守に話しかけた。
守はブローチを見ながら考えた。
変な気を起こすつもりは毛頭ないが、見れば見るほど惹き付けられる。守は邪念を振り払うように頭を叩く。
守るは考えていた。高価なものを忘れる客がいるとは今頃慌てているに違いないと。
こういうのはトラブルの種と昔から相場が決まっているということも理解している。
社内の規定では、遺失物は一週間仮保管した後警察へ遺失物扱いで渡す手筈になっている。
まあ、こんな高そうな物だしすぐにでも電話がかかってくるさ。と遺失物取得の書類を作成し金庫にブローチをしまった後で帰路についた。気づけばすでに12時を回っており、眠気もピークに達していた。