始まりのブローチ
出発時間の1分前になった時に、ようやく姉だけが姿を見せた。
守は弟がいないことを不審に思い、少女に問いかけた。
「弟さんはまだ戻ってこないのかい?」
姉は首を傾げてひょいとバスの中を覗いたが、弟がいないことに気づくと乗客に問いかけた。
「誰か私の弟を見かけなかったですか?」
車内で少しざわつきがおこったが、優しそうな二十代の学生が答えた。
「その子ならさっき見かけたよ。弟さんは、親御さん追いかけられていたよ」
少女は話を聞くやいなや、バスから駆け出した。
守は慌てて少女を追いかけた。少女に追いつき、腕を捕まえたが、少女は腕を掴んだ守を睨み、大声で叫んだ。
「助けてください!この人変態です変態!誰か助けて!」
少女の声に周囲の大人達がざわついた。
守は慌てて手を離したが、たまたま遠征にきていたであろうラガーマン達に囲まれるとあっという間に路上に抑えつけられてしまった。
少女はラガーマン達に「ありがとうございます」と話すと、続けて「この人の近くにいたくないのでごめんなさい」とまた走り出していった。
ラガーマン達は少し不審に思ったが、正義感溢れる男達は嫌な思いをして恐かったのだろうと、解釈し抑えつけた守に怒鳴りつけた。
「あの娘さんをどうするつもりだったんだ、この変態野郎!あんな可愛らしい少女に血迷いやがって!警察がくるまで大人しくしてやがれ!」
守は周りの人達から嫌悪の視線を向けられていたが大声で否定した。
「私はバスの運転士であの娘は乗客です!やましさなど一欠片と持っていない!あの娘が時間ギリギリにやってきたかと思ったら、連れの弟さんがいないとわかると、急に走り出したんだ!落ち着いて待っていてもらおうと、慌てて追いかけていただけだ!」
「嘘いうな!あの娘さんはあんなに怯えていたじゃないか!」
「嘘じゃない!私は愛知スターライナーのバス運転士だ!他の乗客も見ていたのだから聴いてみるといいさ!」
守は咳込みながら答える。その時、人混みをかき分けて男性が怒鳴りこんできた。
「おい!何時まで乗客を待たせれば気が済むんだ!遅いから探しにきたらあんたは人に囲まれているし、何をやっているんだ!」
守はその後怒鳴りこんできた客に怒られながらなんとか説明をしてもらうと、ラガーマン達も納得してようやく開放された。