始まりのブローチ
姉弟が向かう目的地は、国内最大級のファンタジーな世界観が人気の遊園地であった。
不運にも足止めを余儀なくされてしまったが、それでも姉弟は楽しみで仕方がなかった。
パーキングエリアに停車した際に、姉弟は心ゆくまで連なる売店のウインドウショッピングを楽しんでいた。
しばくして降り続いていた雪が止み、通行止めが解除された。休憩時間が終わりに近づき戻ってきた運転士は、点呼をする為に名簿を確認した。予め十五分後には点呼を行うと乗客に伝えた為、当然乗客はバスに戻っているはずだった。
「さて、そろそろ点呼の時間か、、、」
運転士の名札には、鳳守と記載されていた。上下の制服はしっかりアイロンがけされており、服のシワがなく手袋に一つも汚れが見えない。
服装一つをとっても性格が見て取れる好青年といったところだ。年齢も28と若く。艶のある黒髪と猫目が特徴的な青年である。
守が点呼を行っていると、あの姉弟がいないことに気がついた。
「どなたか3列目に座っていた姉弟は見ませんでしたか?」
守の問いかけに、家族で乗車していた内の母親が答えた。
「あらあの子達は姉弟だったの。それなら、売店で見かけたわよ。女の子は両手一杯に食べ物を抱えていたわね。食べ歩きをするなんて行儀の悪い子だったわ。折角、私が注意してあげたのに、、、あぁ思い出しても腹が立つわ」
母親が言うには、女の子は右手にフランクフルトにから揚げ、指に挟みながらパンの袋、左手には肉まんを掲げなから、言い返してきたとのことだ。
「ご親切にありがとうございます。親切なお姉さん。お姉さんも携帯電話は、歩きながら見ないほうがいいと思うの。私みたいに食べ歩きしている人に気づかずにぶつかったら大変ですよ。私は小さいからお姉さんの視界に入らないわ。それに、こちらが悪くないのに、ぶつかられても困るもの。お姉さんの服を汚してもクリーニング代を払えないわ。ごめんなさい」
って言ってきたのよ!なんて失礼な子供かしら!あぁ思い出しても腹立たしいわ!」
守は、つくづく今日という日は厄日だなと感じていた。自分のせいではないのに、バスが動かないことにクレームが入り乗客からの理不尽な怒りをぶつけられ、ようやくバスが動くことを伝えても乗客は戻っていない。
しまいには、乗客同士の勝手な争いに対するクレームなどが発生。どいつもこいつも勝手な奴らだと思い、内心の怒りを必死に抑えこんでいた。