始まりのブローチ‐動き出す災禍‐
時は遡り、セダンが横転事故を起こす。8時間前。
桑名付近を走行していた黒色のセダンがいた。車の中では二人の男が煙草を吸いながら談笑している。後部座席には気持ちよく寝ている少年がいた。
少年は無邪気にすやすやと眠りについていたが、時折寝苦しいのか顔を歪める。助手席に座っていた長髪の男は、運転をしている男と今回の仕事に関して話し合いをしていた。
「それにしても、簡単な仕事だったが、相手が子どもというのは気持ちのいいもんじゃねえな」
「ただ指示に従っていればいいんだ。考えると何もできなくなるぞ」
「はいはい、気をつけるさ。それにしても、気持ち良く寝てやがるな。自分が誘拐されたってのもわかっているのか」
助手席の男はバックミラーを覗くと目を見開いた。
「おい、子どもが高速道路で、車を追い越しているぞ」
運転をしていた男は、笑い声をあげた。
「何寝ぼけているんだ。車が車を追い越してるだけだろうが。気分転換にはつまらない冗談だが、深夜に聞くと面白いじゃねえか」
「そうじゃねえ、後ろが見えねえのか!」
運転していた男もバックミラーを覗いたが、冗談でないと気づくのに数秒とかからず、車と同じ速度で金色の髪を揺らしながら、弟を返せ!と叫び声をあげ徐々に近づいてくる少女が見える。
あまりにも非現実的な光景に、ハンドル操作を誤りそうになったがそれは他の車も同じだった。
次々とブレーキをかけたり、窓越しに危ないだろと走っている女の子に怒鳴り散らかすなど、各々が反応していたが、少女は声を無視して更にスピードを上げて運転している車に近づいていく。
「なあ、夢でもみているのか」
「大丈夫だ。二人して同じ夢は見ない」




