御藤姐さん 賽子の御宿
御藤姐さん 賽子の御宿
今日の入りは どうなんだい 政っ?
へぇっ! 娘の宿最期とあって
上々の 大入りでさぁ!
そうかい 有り難いねぇ
皆さんにゃあ 色々と長い間
お世話に なったからねぇ
政っ!
へぇっ! 何で御座んしょ?
お前も 小さい頃から
良く此処で 我慢して
辛い事も あったろうにねぇ
今日迄 あんがとよ
色々無理難題 迷惑かけて
世話になったねぇ
姐さん……
泣いても 良いんだよ……政?
いえいえ あっしは強う御座います
泣きませんぜ 男の子ですぜ!
そうかい……
みんなにも 傳えといとくれよ
最期の最後で チョンボ何かさ
不細工な事 無い様にさ
気ぃ 引き締めて 愉しみなってね
へぇっ……うっ……ぐっ……ズルズル……
今宵は 寒う御座いまさぁ
政っ! 男の子じゃ無かったのかい?
障子の向こうで 目擦ってるの
蠟燭の 揺れる影に
映ってるよ
あっ あっは 男の子ですぜ!
泣いたり何か……
うっうっ……しっ しやせんぜ!
影が揺れてるよ
うっ……うっ……オオォ〜ッ……
大丈夫かい 政っ?
みっ 皆に傳えときます
へぇっ 失礼しやす姐さん……
タッタッタッ……
全く 仕方無いねぇ
大丈夫ですよ 政達ちなら
ベソ書きながらでも
しっかりと 全うしてくれますよ
なら 良いけどね?
いつ見ても 惚れ惚れする
良い躰だねぇ 御藤ちゃん!
今日は 一寸キツ目で良いから
お留めさん!
そうかい……じゃあ遠慮無く
思いっ切り いかせて貰うよ
いやいやいやいや 一寸よ 一寸!
えっ! 痛い痛い痛いったら!
お腹に 足を掛けないでよ!
痛い痛い痛い……
う〜ん…… 我慢の子よ
ツルペタちゃん!
痛い痛い その……呼び方
懐かし……わね……うっ!
くるりくるり ギュッギュッ!
ドン!
何時も……お留めさんに
からかわれてたよね
そうでしたっけね……どうして
こんなに……ギュッギュッ
なったかな ツ・ル・ペ・タちゃん!
もうツルペタなんて 言わせないわよ
昔の話しでしょ 小さい時は
みんな ツルペタよ!
ふ〜ん! ふ〜ん!
ギュッギュッ!
いいえ この留めは違いましたよ
ポンポン!
くるり くるり
ドン!
分かった 分かったから
痛い痛い痛いったら!
お留めさんには……敵わないから!
昔話しは 良いから
いい加減 足退けてよ!
あ〜っ!引っ張りながら
倒れ込まないで〜
ふ〜っ はい〜っ!
お留さ〜ん 痛い痛い 痛いったら〜
くるりくるり ギュッギュッ
まだまだぁっ! 寄せて寄せて
上げて上げて いきますよ〜
ぐるりぐるり よいしょ
ぐるりぐるり よいしょっと
あっ! 其処は強調しなくて良いから
何時もどうりでいいわ
良いから良いから 最期ぐらいは
このお留めに 身を委ねて
お任せなさいな!
腕に 撚り撚りを掛けて
最期の御奉祀 させて頂きますから
撚り撚りって何? ヨリをかけてだよね?
う〜ん よし!
ふ〜っ……
はい 此れを……
おっ母つぁんの 勝負着物?
良いの……お留めさん
此れはまだまだって 何時も……
良いんですよ
私には ちょと小さいけどね
かなりね 止めときますか?
着る着る 着るよ!
はい どうぞ
するり するする……
うんうん ギュッギュッ!
御櫛でといて 御簪
御藤ちゃん! 旦那様 奥方様に
挨拶しましょ
うん……そうね
パン パンッ!
お父つぁん おっ母つぁん
御免なさいね あたしの代で
この御宿は 今日を持ちまして
廃業にするからね
長らく続けて来たけれど
御上にも 目付けられてるしね
心太君にも
もう私でも 止められ無いって
言われたしね 御法度になるんだってさ
だから 今日で御開きにします
時代の流れには 逆らわ無いで
従わないとね
さあ 旦那様御手製の 壱しか出ない
賽子を 胸の谷間に
押し込んで
うん……お父つぁん 此処で見守ってね
ドンドン ド〜ン!
姐さん……お願いしやす
パンパン!
最期の最後ぐらいは 気負わないで
楽しんで来なさい ツルペタちゃん
でも……私… 楽しんじゃうと 負けちゃうよ
良いから 今日は全部吐き出すんでしょ!
そうだったね 御得意様感謝日に
するんだったね
皆んな来てくれてるかな?
行ってらっしゃい
お待ちかねですよ 皆さん
うん 有り難うお留めさん
はい〜! 御藤姐さん……
御入り 相成り〜ます〜
ドンドン ドンドン
ドン!