コミック第4巻発売記念『王妃業を頑張るルヴィ』
王宮では月に一度、国内の有力貴族のご夫人方が集まって、お茶会が開かれる。
正直、苦手な部類の集まりだった。
そんな私の気持ちを陛下は察したようで、「ルヴィ、お茶会をなくそうか」なんて提案をしてくれたが、即座に断った。
王宮でのお茶会は歴史ある定例行事。私の我が儘でなくすわけにはいかないから。
参加する大貴族のご夫人方は、年上のお方ばかり。
全身から自信が溢れていて、物怖じしそうになる。
けれども私が臆すれば、王妃らしくないと思われてしまう。
堂々としていなければ、と自らを揮い立たせるのだ。
本当の自分を押し殺し、王妃として相応しい振る舞いをする。
そんなお茶会が今日も今日とて行われるのだ。
大きな円卓に、十名ほどのご夫人方が集まっていた。
流行りのお菓子に、香り高い紅茶、それから品のあるテーブルウェア。
今日のために一生懸命、侍女と選んだ。
お気に召していただけるか、ドキドキである。
「王妃様、今日のお菓子、とってもおいしいですわ」
「本当に! 紅茶もすばらしくて」
「食器も美しいですわ」
合格をいただけたようで、ほっと胸をなで下ろす。
それから一人一人話しかけ、ドレスや髪型、宝飾品などを褒めたり、子どもの近況などを聞いたり、と一生懸命話題を振る。
ご夫人方から王妃に話しかけてはいけない、という慣習があるようで、気の利いた会話を展開させなければならないのだ。
そんな中、初めて目にする、ご夫人方の中では比較的若い新顔に気付く。
彼女の名前はマリーア。アンドン侯爵の後妻で、貫禄があるものの二十歳に満たないという。地方領主の三女で、社交界にはあまり馴染めていない、と侍女が個人的な情報を耳打ちしてくれた。
なんて声をかけようか、なんて考えている間に、マリーアのほうから話しかけてしまった。
「王妃様! 初めまして! マリーアと申します!」
場の空気が一気に冷え込んだ。
ご夫人のほうから話しかけてはいけないルールがあるのに、彼女は知らなかったのか、破ってしまったのだ。
こういう場合、無視するのがいいのだろう。
けれども子犬みたいなきゅるきゅるの瞳で見つめる彼女を、無視できない。
こうなったら、と苦し紛れの対応を返す。
「元気なお方ですこと」
発言は聞かなかったことにし、彼女から受ける印象を言ってみたのだ。
間違った対応ではなかったようで、ご夫人方からの安堵の空気が伝わってきた。
早く話しかけてあげなければ、と思った瞬間、マリーアは話題を振ってくる。
「あの、王妃様はお休みの日とか、何をされているのですか!?」
内心、頭を抱える。
一度目は許されても、二度目は許されない。
ご夫人方のリーダー格であるレリー公爵夫人がキッと眉をつり上げ、マリーアを睨み付ける。
ここで彼女がマリーアを怒ったら、お茶会の空気は悪くなるだろう。
早くなんとかしなくては。
そう思いながら、私は話し始める。
「今日は私の趣味について、お話しましょう」
あくまでもマリーアに聞かれたからではなく、自分から話し始めるというていで語り始める。
「私は陛下が幻獣達のために作った果樹園で、果物を収穫したり、その果物を使ってお菓子を作ったりするのが趣味で」
「ええっ、すごい! 私もやってみたいです」
マリーアの無邪気な反応を聞いたご夫人方が、天井を仰いでいた。
もうどうにでもなれ。
そんな気持ちで話を続ける。
「アンドン侯爵夫人もぜひ」
「ありがとうございます」
この場限りの会話だと思っていたのだが、後日、マリーアは本当に果樹園にやってきた。
お茶会のメンバーであるご夫人方を引き連れて。
「うわー、王都にこんな場所があるんですね! 私の故郷みたいです!」
マリーアは果樹園をお気に召したようだが、ご夫人方は草が生い茂り、蜜蜂が行き交うこの場に戸惑っているように見えた。
「その、みなさん、どうか無理をせず」
「王妃様、大丈夫です! 私、故郷では収穫期にいろいろお手伝いをしていたので!」
マリーアは大丈夫でも、他のご夫人方は大丈夫ではないだろう。
その後、マリーアは元気いっぱい果物を収穫し、ジャム作りにまで参加していた。
他のご夫人方が早々に音を上げ、サンルームで休んでいたようだ。
そんな感じで、マリーアの根性がご夫人方に認められたのか、天真爛漫な様子を咎められることはなくなったようだ。
私も、彼女の生き方を見習って、他の人達の目を気にするのは止めよう。
そんな学びのある出会いだった。




