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隣国に輿入れした王女付きモフモフ侍女ですが、本当の王女は私なんです〜立場と声を奪われましたが、命の危機に晒されているので傍観します〜  作者: 江本マシメサ
第一章 人生は何が起こるかまったくわからない

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7/80

獣人王女エルヴィールは、罪人扱いされる

 呪われた魔眼王、アルノルト二世。

 彼の視線を直接浴びた者は皆、死するという。

 それが真実だと言わんばかりに、彼の両目は分厚い色付きガラスに覆われ、見えないようになっていた。


 銀色の美しい髪は、王家の血を引く証だろう。

 威圧するような雰囲気はあるものの、そこまで恐ろしいとは思わない。

 根っからの泥棒猫、ルビーという存在を知っているからだろうか。

 そんなルビーは、アルノルト二世を前に膝を突いていた。


 私は再度騎士にせっつかれ、ルビーから離れた位置に座らされた。

 左右に騎士が立ち、バツ印を作るように槍を私の前に突き出している。下手な行動に出たら、串刺しにしてやると暗に訴えているのだろう。

 ルビーは私を振り返り、怯えたような表情を浮かべる。すべては彼女が長年培ってきた演技であった。

 ルビーは前を見据え、アルノルト二世に声をかける。


「お初にお目にかかります、陛下。ファストゥの第一王女エルヴィール・ド・バラウールと申します」


 魔眼王アルノルト二世を前に、堂々とした挨拶を見せる。立派なものだが、彼女は王女ではない。

 私と立場が逆転しているのだ。

 アルノルト二世の反応を待っていたが、扉が勢いよく広げられた。そこから、盆を持った騎士が駆けてくる。


「何事だ?」

「申し訳ありません。王女殿下が探されていた、ペンダントを発見しまして」


 騎士が運んできたのは、私がポケットに入れていた一揃えの宝飾品の中のペンダントである。

 あれは、私が王女であるという唯一の証拠。

 けれども、騎士は言った。ずっと王女殿下が探していたと。


「間違いありませんか?」

「ええ、わたくしのペンダントです。いったいどこに、ありましたの?」


 ルビーは大げさに騒いでしまって申し訳ない、と眉尻を下げながら質問を投げかける。


「こちらのペンダントは……王女殿下の侍女の、メイド服のポケットから発見されました」

「まあ! どうしてルビーが、わたくしのペンダントをポケットに入れていたのでしょうか?」


 玉座の間にいた者達の視線が、私に集まる。

 やられた!!

 あのペンダントは私が王女であることを証明する唯一のものだ。

 それなのに今、あのペンダントは私が盗み、ポケットに入れていたものだと思われている。


 誰かが叫ぶ。


「王女殿下の宝飾品をかすめる盗人など、首を跳ね飛ばしてしまえ!!」

「そうだ、そうだ!」

「このめでたい席に、ふさわしくない女だ!」


 ひとり叫んだら、そのあとは口々に騒ぎ出す。

 王女の証明となるはずだったペンダントが、私の立場だけでなく、命までも脅かす。

 酷い。あまりにも酷い。

 ルビーはこれも計算していて、私にペンダントを持っておくように言ったのだろう。


 そんな状況の中、ルビーは侍女に囲まれ、不安げな表情でこちらを見ていた。

 今すぐ駆け寄って、この女性ひとは嘘つきだと叫びたい。

 声は、依然として出なかった。

 涙も、ファストゥにいたときに流しすぎて枯れたのだろう。一滴たりとも、落ちてこない。


 罵詈雑言を浴びる中、アルノルト二世がピシャリと叫んだ。


「静まれ!!」


 その一言で、シーンと静まる。嬉々として叫んでいた者達は、すぐにこうべを垂れた。


「この者は喋れない上に、まともにペンも握れなかったと聞いている。詳しい事情聴取もしていない。そんな中で、悪と決めつけるのは愚かの極み」


 静まり返る中で、まさかの展開となる。

 アルノルト二世の背後に佇んでいた男性が挙手し、意見を述べたのだ。


「陛下、おそらく彼女は環境の変化についていけず、極限状態にあると思われます。どうでしょうか? 僕の離宮で引き取って、しばし休ませるというのは?」


 声をあげたのは閣下と呼ばれていた、私を馬車から助け出した男性だった。

 アルノルト二世の傍に控え、同じ銀髪を持っていることから、彼も王族の一員なのだろう。


 彼は私のもとへとやってきて、周囲にいた騎士達を遠ざける。その後、隣に膝をつき、強めに背中をポン! と叩いて、私の顔をじっと覗き込む。

 まるで、何か言いたいことがあれば言うようにと訴えているように思えた。

 けれども、私は何も喋ることができない。保身の言葉さえ、発することはできないのだ。


 反応がなかったからか、王族の男性は立ち上がる。

 これが、助かる最後の機会だったのかもしれない。けれども牢屋にいようが、離宮にいようが、罪人扱いされるのは同じに違いない。そう思っていたところに、ルビーがアルノルト二世へ進言する。


「陛下、彼女の身柄は、国へ送り返すべきかと。ファストゥでしかるべき罰を与えます」


 ルビーの言葉を聞いたアルノルト二世と王族の男性が、同時に彼女のほうを見る。

 その視線はあまりにも鋭く、ルビーは威圧され言葉を失っていた。


「事件は解決しておらず、犯人が誰かもわからない状況で、その者を送り返すわけにはいかない。この問題は、王であるこの我が預からせてもらう」


 アルノルト二世が物申す間、空気がビリビリと震えていた。

 ルビーは俯き、すっかり萎縮いしゅくしているように見える。それが演技かは、よくわからない。


「ウルリケ、彼女を離宮に連れて行ってくれ」

「はっ!」


 玉座の奥にあった垂れ幕から、女性騎士が出てくる。彼女の顔も見覚えがあった。

 ウルリケは手を差し伸べたが、途中でハッとなって引っ込める。


「ああ、ごめんなさい。手を縛られているのですね」


 ウルリケは私の腰を支え、立ち上がらせてくれた。そのまま歩けるかと聞き、頷くとゆっくり肩を押してくれる。


 王城の裏口には馬車が用意されていて、それに乗りこんだ。

 腰かけると、ウルリケは両手を縛る縄を解いてくれた。


「?」


 彼女は眉尻を下げ、私を見つめる。

 襲撃事件の犯人の疑いがあるのに、どうして拘束を解いたのか。

 その理由はわからないが、大人しくしていたほうがいいだろう。


 馬車が走り出す。すると、先日の襲撃についての記憶が甦った。


「――!!」


 ガタガタと震えが収まらなくなり、肩を両手で抱く。


「大丈夫ですか!?」


 ウルリケは私を覗き込み、「すごい汗だ」と呟く。


「馬車の事故について、思い出してしまったのですね。可哀想に……」


 そう言って、ウルリケは何を思ったのか、私をぎゅっと抱きしめてくれた。


「もう、大丈夫ですよ。あなたのことは、閣下が守ってくれますから」


 それはどういう意味なのか。混乱した頭で考えたが、理解できなかった。

 けれども、私を抱きしめるウルリケの温もりを感じていたら、しだいに震えが治まっていく。


 馬車に揺れること十五分ほど。

 ウルリケが言う閣下の離宮に辿り着いたようだ――。

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