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隣国に輿入れした王女付きモフモフ侍女ですが、本当の王女は私なんです〜立場と声を奪われましたが、命の危機に晒されているので傍観します〜  作者: 江本マシメサ
第五章 幻獣のために

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獣人王女エルヴィールは、真実を耳にする

 離宮に戻ってきた途端に、ホッとしてしまった。ずっと心が張り詰めていたのかもしれない。

 アルは私達を振り返り、淡く微笑みながら言った。


「皆、慣れないことで疲れただろう。今日はゆっくり休んでほしい」


 ヴァイスやヒンメルは、元気よく返事をしていた。レナータはメイド達に支えられながら下がっていく。

 ウルリケは兜を外し、ふーー、と深く長い息をはいていた。

 私はアルの手を握り、見上げる。


「ルヴィ、どうかした?」


 少しだけ話したいと手のひらに書くと、眉尻を下げながら「疲れているだろう?」と言われてしまう。

 ぜんぜん平気だ。アルが嫌でなかったら、もう少しだけ一緒に過ごしたい。

 そう伝えると、アルは私を抱きしめ、「ありがとう」と口にした。


 なんとなく、アルがショックを受けて、迷子の子どものような表情でいたのだ。

 そんな顔を見てしまったら、放っておけなくなってしまった。


 ひとまずお風呂に入って、一時間後に再び落ち合う。

 お風呂上がりのアルは、整えていない髪型のせいか少しだけあどけなく感じてしまった。

 普段見せない姿を目にしたからか、少しだけ落ち着かない気持ちになる。

 ヴァイスやヒンメルは眠ってしまったようで、部屋にはふたりきりとなった。

 いつも傍にいるウルリケも、廊下で待機している。

 このあとよく寝れるように、ホットレモンに蜂蜜と生姜汁を混ぜたものを作ってみた。

 眠れない夜に飲むといい、とネリーが教えてくれたとっておきのドリンクである。

 アルと一緒に飲んで、ホッと息をはく。


「ルヴィ、おいしい。ありがとう」


 とんでもない、と首を横に振る。

 アルはしばし遠い目をして、黙り込んでいた。私はただただ、何か話してくれるまで待つ。

 アルは幻獣のために、毎日奔走していた。それなのに、身内が幻獣を使って商売していたのだ。ショックは大きいだろう。


「ルヴィ、今日は例の男――叔父を捕まえられなくて、ごめんね」


 ルビーの愛人は、アルの叔父だったようだ。ショックは大きかっただろうに、私の心配なんかしなくていい。

 アルの手のひらに、平気とだけ書いておく。

 相手が誰かわかったのだ。そして、繋がりも把握している。彼が捕まるのも時間の問題だろう。


「どこから話したらいいのかな……」

 

 ルビーの愛人の名はオアマンド・フォン・トラレス。年齢は三十八歳だという。

 五年前に突然行方不明となり、その後生死不明となっていたようだ。


「五年前というのは、アルノルト二世が即位した年だった」


 オアマンドはアルノルト二世を殺すため、謀反を起こした。

 情報を入手していたアルノルト二世はオアマンドを返り討ちにし、処刑しようとしたのだが、逃走を許してしまったのだ。


「彼の人生の、唯一の汚点だろう。その後、まさかファストゥに逃げていたなんて……」


 オアマンドはファストゥで別の名を得たあと、ルビーの愛人となってツークフォーゲルへと戻ってきたというわけだった。


 なぜ、彼は謀反なんか起こしたのか。それに関して、アルは聞かずとも教えてくれた。


「叔父は昔から、王家の者達が使える特異魔法をはじめとする、魔法全般が使えなかったんだ」


 特異魔法は一家や一族単位で使えるものが多いが、王家の特異魔法はその本人にしか使えないものを習得するらしい。

 皆が当たり前のように特別な特異魔法を覚える中、オアマンドはまったく使えないどころか、魔法すら習得できていなかったようだ。


「叔父は魔法に関して、劣等感を覚えていたんだろうね。幼少期から特異魔法を恐れられるアルノルト二世に対して、複雑な思いを抱いていたのだろう」


 ただ目が合っただけで死んでしまう呪い――魔法を使えないオアマンドにとって、恐怖でしかなかったに違いない。

 

「魔法が使えなくても、国王になれる。そう思い、謀反を決意したようだ」


 ここで、ハッと気づく。

 私はオアマンドに声が出なくなる魔法をかけられた。

 けれども、彼は魔法が使えないという。


 どういうことなのか?

 まったくわからなかった。


「ルヴィ、どうかしたの?」


 私の言葉が封じられたことについて、魔法のせいではない? と疑問を投げかける。

 アルは眉尻を下げ、優しく私を抱きしめた。


「今は、考えないほうがいい。答えはきっと、叔父が捕まったらわかることだから」


 今日はゆっくり休んで、明日は元気いっぱいの姿を見せてほしいとアルは願う。

 わかったとだけ伝えておいた。


 長い長い夜の終わりだった。

 

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