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隣国に輿入れした王女付きモフモフ侍女ですが、本当の王女は私なんです〜立場と声を奪われましたが、命の危機に晒されているので傍観します〜  作者: 江本マシメサ
第五章 幻獣のために

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獣人王女エルヴィールは、事件について考える

 馬車の中では誰も話さなかった。緊迫感のようなものを感じたので、私も事情を打ち明けずに大人しくしておく。

 離宮に戻ると、やっと心が落ち着いたような気がした。居室の長椅子に腰かけると、ふーーという長い息が零れる。

 被っていた帽子を取ると、自由を取り戻した耳がぴょこんと立つ。アルもカツラを付けているので頭が痛くないのか。なんて質問したが、大丈夫だと返された。


「それよりも、先ほどの男――」


 ルビーの愛人についての話題に、胸がどくんと大きく脈打つ。

 彼についてどう説明すればいいのか。核心に触れた内容は伝えられないだろう。

 あれこれと考えていたら、アルはまさかの発言をする。


「知り合いに似ているような気がしたんだけれど、後ろ姿だけだったので確かなことは言えないな」


 ルビーの愛人がアルの知り合い!?

 だとしたら、あの男はふたつの国を行き来しつつ、暗躍していたというのか。


「ルヴィ、否定するときだけ、反応してほしい。彼は知り合いなんだろう?」


 そのとおりである。私が微動だにしない様子を見て、肯定と受け取ってくれたようだ。


「事件は、あの男が関係している?」


 これも正解である。さすがアルとしか言いようがない。


「もしもあの人がルヴィの事件に関わっていたとしたら、最悪だな……」


 アルだけでなく、ウルリケの表情も険しくなる。ただ、似ているだけなので、今のところはなんとも言えないらしい。


 アルはあの男を行き止まりまで追い詰めたようだが、捕まえようとした瞬間、転移の魔法巻物を使って逃げられてしまったようだ。

 珍しく、アルは悔しそうにしている。


 ルビーの愛人さえ捕まったら、私は喋れるようになれる。事件の証言についても、正確に伝えられるだろう。


 ここでハッとなる。

 ずっとずっと、このままでいいと思っていた。ルビーは放っておいて、私は平穏無事な暮らしを送って行きたいと考えていた。それなのに、あの男を見た瞬間、私は怒りの衝動からあとを追いかけていたのだ。


 アルが私に手のひらを差し伸べてくれる。何か言いたいという私の声なき主張を、察してくれたのだろう。


 まず、アルに「ごめんなさい」と一言謝る。なんに対しての謝罪かわからないので、キョトンとしているようだった。

 続けて、自分が決めたことを撤回すると、アルに伝えた。


 事件について、やはりこのままでいいわけがない。悪人を野放しにするなど、許していいわけがなかった。


 犯人を捕まえたい。そして、声を取り戻したい。

 ルビーは王女でないと証言し、私はアルノルト二世と政略結婚をしなければならない。

 行動を起こせば起こすほど、アルとの別れは刻々と迫るだろう。

 それでもいい。

 私が傍にいたら、アルに迷惑をかけてしまうから。

 彼を私という枷から解放するという意味でも、事件の謎を追究し、犯人を捕まえることは大事なのだろう。


 だからアルにお願いする。どうか事件を解決するために、力を貸してくれないか、と。


「うん、わかった。ルヴィ、一緒に事件を解決して、犯人を懲らしめよう」


 アルは私の手を握り、強い瞳を向ける。

 これまでの私は変化を恐れていた。けれども、変わることも大事なのだと気づかされる。

 今まで私の中で鈍くなっていた怒りの感情が、ルビーの愛人との再会で沸き上がったのだろう。

 私に欠けていたピースが、パチッとはまって完成されたような気がした。 


 アルと一緒ならば、きっと上手くいく。

 そして、私はファストゥの王女としての未来を歩むのだ。

 不安はある。けれども、以前のようにルビーを恐れる心はない。

 以前は彼女の機嫌を伺いながら生きていたが、今はどうでもいいのだ。

 ルビーなんかよりも、果樹を枯らす害虫や病気のほうが恐ろしい。いつの間にか、そういうふうに考えられるようになっていた。

 ここでの暮らしが、私を強くしてくれたのかもしれない。


「陛下に調査をお願いしなければならないね」


 事件解決の第一歩を、私とアルは新たに踏み出したのだった。

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