獣人王女エルヴィールは、街中で調査する
手を繋いだまま、アルは歩き始める。
美女と平々凡々な少年が手と手を繋ぐ様子を、周囲はどう見るのか。気になったが、人々の視線はアルにしか向いていなかった。それも無理はないだろう。女装をした彼は、とても美しいから。私の存在なんて、霞んでしまうのだ。
馬車の円形地帯を抜け、噴水広場へ出てきた。
貴族御用達の小売店通りと、一般市民御用達の商店街と繋がる場所だからか、階級に関係なく多くの人達が行き交っている。
露店も多く出店していて、皆、楽しそうに食べ歩きをしていた。
肌寒い中、アイスクリームを食べている人もいて驚いた。コーンの上に、チョコレートのアイスクリームを載せているのだろうか?
おいしそうだが、冬なので体の芯まで冷え切ってしまいそうだ。
道行く人々があまりにもアイスクリームばかり食べているので、そんなにおいしいのかとアルに質問する。
「ああ、あれはね、王都で人気の歌劇に、チョコレートのアイスクリームを食べるシーンがあってね。歌劇を見た帰りに、ああして買ってしまうみたいなんだよ」
噴水広場の近くには、歌劇が上演されるオペラハウスがあるようだ。目的もなくまっすぐ歩くとここに行き着くようで、その流れでアイスクリームを買うのだろうとアルが教えてくれた。
アイスクリーム以外にも、さまざまな食べ物が売られている。
炙り肉のサンドイッチに、揚げ芋、カップケーキに、ソーセージ――どれも食べ歩きしやすいようなものばかりだ。
アルは立ち止まり、分析する。
「ヴィル、買い物にはね、衝動的に購入する物と、計画的に購入する物がある」
ここで買っていかれるのは、衝動的に買うものばかりだろう。
「以前、部下から聞いたのだけれど、一般市民の財布の紐はかたい。そのため、衝動的に買い物をさせるような、魅力ある食べ物でないと完売は難しい」
食べたいという衝動――そそられるようないい匂いだったり、ジュウジュウと焼ける音だったり、チーズが目の前でとろーりととろけたり。
今すぐ食べたい、という欲求がふつふつわき上がるような料理がいいのだろう。
いつもどおりの焼き菓子ではダメだ。何か現地で直接販売できることを強みにできる品を考えなければならないだろう。
「ヴィル、考えるだけではわからないので、実際に食べてみようか」
アルの提案に、大きく頷いた。
ひとまず、近くで販売されていたワッフルの列に並んだ。
生地を凸凹な鉄板で挟んで焼いて仕上げるもののようだ。サンドイッチのように、中に具を入れて食べるらしい。
角切りにされたイチゴを挟んだものが人気だと看板に書かれてある。それ以外にも、ミートソースがかかったものもみんな頼んでいた。
私がイチゴ、アルがミートソースのワッフルを注文する。噴水広場のベンチに座り、食べることにした。
口にする前に、アルがルーペのようなものを取り出して食べ物にかざす。なんだろうかと眺めていたら、ウルリケが耳元で囁く。
「あれは毒が混入していないか調べる魔技巧品です」
アルは王族で、国でも重要なポジションについている。命を狙われることもあるのかもしれない。変装しているとはいえ、気は抜けないのだろう。
私とアルの分のワッフルを調べたところ、問題はなかったようだ。
心配がなくなったので、さっそくいただく。
ワッフルは焼きたてで、表面はカリカリ、中はしっとり。生クリームがたっぷり挟まれていて、かぶりつくと濃厚な甘さとイチゴの甘酸っぱさが相まって、口の中は幸せで満たされた。
アルに「これはおいしい!」と目で訴えると、笑われてしまった。
優美な指先が私の唇へと伸ばされ、サッと何かを拭う動作を取る。口に生クリームが付いていたようだ。アルはそれをペロリと舐める。
妖艶としか言いようがない一連の仕草に、私は盛大に照れてしまった。
それよりも、私の口に付いていた生クリームを食べるなんて。ハンカチか何かで拭ってほしかった。そう訴えると、アルはさらに笑みを深める。
「ヴィルの生クリーム、とってもおいしかったけれど」
恥ずかしい発言はしないでほしいと、心から思った。




