獣人王女エルヴィールは、まさかの任務を提案される
今日の閣下は少しくたびれていた。なんでもルビー率いる結婚を早めようと画策する派閥が反発してきたらしい。
「ツークフォーゲルにやってきてから半年以上も経つのに、結婚式を執り行わないのはおかしいって意見してきてね。その通りなんだけれど……」
アルノルト二世は馬車が襲撃された事件が解決しない限り、結婚するつもりはないと意見をはね除けているという。
「ファストゥ側から抗議が届くのではないかという指摘もあったけれど、今のところないし」
それはそうだろう。私に関して、父王は興味の欠片もないから。
もしも抗議があった場合、アルノルト二世は持参金を受け取っていない旨を逆に抗議するつもりらしい。
やはり払っていなかったのかと、心底呆れてしまう。
「過激なおじさんが、証人としてルヴィを連れてこいなんて言うから、許せなくって」
もちろんそれもアルノルト二世が反対してくれたらしい。神経質そうで、尊大なアルノルト二世が私を庇ってくれるなんて意外だった。心の中で感謝する。
「そうだ。もうひとつ問題があって」
閣下は深いため息をついてから話し始める。
「幻獣愛好会の品評会についてなんだけれど、陛下が当日、潜入するように命じてきたんだ」
なんでも以前拘束したヴェルツェル卿から、幻獣愛好会の品評会について情報を聞き出したらしい。
入会するためには、幻獣の所持が必要だという。
紹介状も必要なようだが、ヴェルツェル卿がヒポグリフォンを買ったルートから入手したという。
あとは幻獣の登録をする必要があるというのだが、アルノルト二世の作戦は驚くべきものだった。
「ルヴィと契約したジュリスとヒポグリフォンを登録して、当日潜入させろって言うんだ。ルヴィにそんな危険なこと、させたくないのに」
どこの誰がいるかもわからない場所へ潜入するなんて、恐怖でしかない。けれども、私で役に立てるのであれば協力したいと思っている。
引き受ける前に、ヴァイスやヒポグリフォンの意志も確認しなくてはならないだろう。
ヴァイスは私の腕にひっついている。ヒンメルは背後で控えているレナータと一緒にいた。振り返って手招く。
心の中で任務を引き受けたいと思っているのだが、どう思うか質問してみた。
『ジュ!』
『ピイイ!』
ふたりとも構わないと返してくれる。ならばと、閣下の手のひらに任務を受ける旨を指先で書いて伝える。
「え、ルヴィ、任務を受けるって本気かい?」
頷いたのは私だけでなく、ヴァイスとヒンメルもだった。
けれども、ただの私として参加するつもりはない。任務が失敗したら、閣下に迷惑をかけてしまうだろうから。
思いついた作戦を閣下に打ち明ける。
「変装して潜入……か。なるほど、その手があったか」
たとえばだが、私は貴族の裕福な少年、ウルリケは騎士の青年、レナータは化粧でお年を召した乳母に変装するとか。
もちろん、姿を偽るのは私だけではない。ヴァイスとヒンメルもだ。
ヴァイスはルビーを引っ掻いた幻獣としてすっかり有名になっており、ヒンメルもルビーが傍に置いていた幻獣として知れ渡っている。
そんな有名な幻獣を引き連れていたら、変装した少年の正体が私だとバレてしまうだろう。
そんなわけで、ヴァイスはカーバンクルに、ヒンメルはグリフォンに変装するのはどうかと提案してみた。
『ジュウ!』
『ピ!』
ふたりとも乗り気であった。
閣下はどうだろうか。ちらりと見る。
眉間に皺を寄せて険しい表情を浮かべた上に、腕組みまでしていた。
ダメだろうか。そう思ったが、次の瞬間には「わかった」と言って頷く。
「その代わり、僕も同行させてもらう」
それを聞いて瞬時に、閣下が行ったらすぐに素性がバレてしまうのではないかと危惧した。だって、こんなに美しい男の人はいないから。
ウルリケに助けを求めると、まさかの案が提示される。
「閣下は、女装でもしないと正体が露見してしまいそうですね」
「女装……」
それだ! と手を打つ。
閣下が女装したら、さぞかし美人になるだろう。ファストゥいちの美貌だと自慢していたルビーなんて敵ではないのかもしれない。
「フルプレートアーマーでも着用したら、僕だと気づかれないんだと思ったんだけれど」
「年若い貴族の子どもひとりに護衛がふたりもいたら、逆に不審に思われます」
「そうだね」
閣下はウルリケの女装案を、採用してくれた。




