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隣国に輿入れした王女付きモフモフ侍女ですが、本当の王女は私なんです〜立場と声を奪われましたが、命の危機に晒されているので傍観します〜  作者: 江本マシメサ
第四章 逃亡、そして――!?

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獣人王女エルヴィールは、今日も果樹園でせっせと働く

 その後、閣下は参加者全員を帰さず、取り調べを行ったらしい。

 例外はなく、ルビーも調査を行った。確実に彼女も関与しているのだろうが、「何も知らない」の一本調子だったという。

 現時点でファストゥの貴賓である彼女を厳しく取り調べることはできなかったようで、情報も得られないまま終わってしまった。

 号外を配った男は借金が嵩んで没落寸前の貴族だったらしく、休憩所にいた見知らぬ男に取り引きを持ちかけられたようだ。名前などは聞いておらず、どこにでもいるような印象の薄い中年男性だったらしい。

 参加者全員の顔を確認したようだが、これだと一致する人物はいなかった。

 それ以外にも、証拠は出てこなかったという。


 閣下は以前私に対して暴言を吐いたルビーを疑っているようで、これから詳しい調査をするつもりだと話してくれた。

 私はそれを制止する。


 もう、これ以上ルビーと関わらないほうがいい。私が敵対されているだけならいいのだが、閣下まで巻き込んでしまったら二度と立ち直れなくなる。

 もうすでに、閣下も私に関係する者だと認識されているだろうが。

 犯人捜しに奔走し、帰りが遅くなるよりも、今日みたいに閣下とゆっくりのんびり過ごしたい。それが私の幸せだ。そう訴える。


「わかった。ルヴィがそれでいいと言うのであれば、この一件から手を引こう」


 私の願いを叶えてくれた閣下の手のひらにありがとうと書き綴り、両手でぎゅっと握る。

 閣下は眉尻を下げ、困ったような笑みを浮かべていたのだった。


 ◇◇◇


 離宮に来てからというもの、時間があっという間に過ぎていく。

 やってきたのは肌寒い春先だったが、夏が過ぎ、秋が訪れる。

 秋は果樹園の実りのシーズンで、想像していた以上に忙しくなった。

 これまで一生懸命お世話をしていた果物が立派に実った姿を目にしたときには、深い感動を覚えたものだ。

 しかしながら感慨深く思っている暇はなく、キリキリ働くばかりである。

 今、果樹園でもっとも多く実っているのはリンゴだろう。

 皆、はりきって収穫作業を行っている。

 ヴァイスも木に登り、自慢の前歯でリンゴを採る。ヒンメルはリンゴを詰めた木箱を載せた荷車を、力強く引いてくれた。

 レナータもこの仕事に慣れたもので、今日も果物を狙う虫をたくさん駆除したと自慢していた。初めて果樹園にやってきたときは、虫を前に涙目になっていたのだが。今では頼りになる相棒である。ただ、ヘビだけは今でも怖いらしい。見かけたら、私が追い払ってあげるようにしている。

 ネリーも相変わらず元気いっぱいで、時折果物を使ったおいしいお菓子をふるまってくれる。レナータと三人、これまで以上に仲良くなった。そんな私達を、ウルリケは優しく見守ってくれた。

 平和で楽しい毎日が続いている。この先も満たされた日々が続きますようにと、祈るばかりであった。


 仕事が終わったあと、私は買い取ったリンゴを持って離宮に戻る。

 閣下が今日は早く戻ってくるというので、お菓子を作ろうと思ったのだ。

 ヒンメルは蒸留室に入れないので、レナータと一緒に部屋で遊んでおくように言っておく。ヒンメルは最近ボール遊びにはまっているようで、レナータ相手に楽しい時間を過ごしているのだ。

 レナータを誘うように『ピー!』と鳴き、私やウルリケ、ヴァイスとはここで別れる。

 

 蒸留室に辿り着くと、調理用のエプロンをかける。以前閣下が贈ってくれた精緻なレースやリボンのエプロンは、家で刺繍や手芸を行うときのみに着用していた。作業で汚してしまうことがわかっている果樹園へは、とても着ていけない。

 

「ルヴィ様、今日は何を作られるのですか?」


 焼きリンゴだと伝える。言葉のとおり、リンゴを丸ごと焼くのだ。

 それを聞いたウルリケは驚いていた。


「リンゴをそのままの状態で焼くなんて、豪快ですね」


 田舎の忙しいリンゴ農家が考えたお菓子で、ネリーが食べさせてくれた。あまりのおいしさに感激し、閣下にも食べてもらいたいと思ったのだ。

 焼きリンゴを食べた日は、ウルリケが非番の日だった。今日は彼女の分も作ろう。

 そう思いつつ、調理を開始する。


 まずは、リンゴの芯をくり抜く。固くて思うようにナイフが入っていかない。私が苦戦しているのに気づいたウルリケが、あっという間に芯をくり抜いてくれた。

 リンゴの芯はヴァイスが平らげる。種までおいしかったと言っていた。

 続いて、牛乳と砂糖、バターを使いキャラメルを作る。トロトロのキャラメルを、リンゴの芯をくり抜いた穴に干しぶどうとともに詰める。

 リンゴの表面にフォークで穴を開け、焼いていくのだ。

 キャラメルの甘さと、リンゴの甘酸っぱい匂いが漂う。


『ジューー!!』


 窓を覗き込んだヴァイスが、閣下の帰宅を教えてくれた。

 ちょうどいいタイミングだろう。 

 紅茶を淹れ、蒸らしている間に最後の仕上げをする。

 お皿に焼きリンゴを載せ、昨日作ったアイスクリームを添えた。

 焼きリンゴのバニラアイス添えの完成だ。

 まっすぐ私が待つ部屋にやってきた閣下は、焼きリンゴを見て驚いていた。


「これはすごいね。リンゴを丸ごと味わうお菓子か。天才の発想だよ」


 味も天才的なので、しっかり味わってほしい。

 ウルリケと共にテーブルを囲み、焼きリンゴを食べる。

 とろとろになるまで火を入れたリンゴに、ナイフを深く入れる。

 キャラメルがとろーりと溢れてきた。一口大にカットし、口に運ぶ。

 リンゴの甘酸っぱさと、キャラメルの甘さ、ひんやりすっきりしたアイスクリームが合わさり、至福の味わいとなる。


「ルヴィ、これはとってもおいしいね。驚いたよ」

「本当に、おいしいです。こんなリンゴのお菓子は、生まれて初めてです!」 


 お口に合ったようで、何よりである。

 三人でリンゴ農家を称えたのだった。


 焼きリンゴを食べたあとは、閣下とお喋りする。

 一日にあったことを教えてほしいと言われているので、ひとつひとつ報告していた。

 今日は輸送中に逃げ出したジュリスの大捜索がメインの仕事だった。

 ヴァイスの誘導とヒンメルの空中からの捜索が功を奏し、無事保護できたのだ。


「そうか、大変だったね」


 そんなことはない。婚約披露パーティーで起きた事件に比べたら、なんてことのない騒ぎである。

 明日はどんな一日になるのか。まったく想像できない。

 ファストゥで暮らしている頃に比べたら、楽しい日々を送っている。

 こうしていられるのも、閣下のおかげである。今日もありがとうと、感謝の気持ちを伝えた。


「僕のほうこそ、感謝しなければならない。ルヴィが毎日家で待っていてくれるだけで、幸せなんだ」


 これからもよろしくお願いいたします、とお互い頭を下げる。

 気配を消していたウルリケがポツリと、「おふたりとも真面目ですね」と呟いた。

 そのとおりだと思い、私と閣下は笑ったのだった。


 隣国に輿入れした王女付きモフモフ侍女ですが、本当の王女は私なんです〜立場と声を奪われましたが、命の危機に晒されているので傍観します〜 第一部完

 

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