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隣国に輿入れした王女付きモフモフ侍女ですが、本当の王女は私なんです〜立場と声を奪われましたが、命の危機に晒されているので傍観します〜  作者: 江本マシメサ
第四章 逃亡、そして――!?

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獣人王女エルヴィールは、婚約披露パーティーに挑む

 馬車に揺られていると、だんだんと緊張が増していく。

 閣下は堂々としているように見えたが、途中で深く長いため息をついていた。


「ああ、ごめんね、ルヴィ。これから婚約披露パーティーだと思うと、落ち着かない気持ちになってしまって」


 閣下でも緊張するのかと驚いてしまう。そのまま伝えると、苦笑しながら「たしかに、こんなに緊張するのは久しぶりかも」なんて言っていた。


「華やかな場所は得意ではなくてね。ずっと避け続けていた」


 私のせいで、閣下をとんでもない事態に巻き込んでしまった。謝罪すると、首を横に振る。


「原因は僕にあるんだよ。ルヴィがあんまりにもきれいだから、参加者全員が好きになってしまうのではないかとか、誰かに連れ去られてしまうんじゃないかとか」


 それはありえないだろう。断言できる。

 私を好きになってくれる男性ひとなんて、きっと閣下くらいだろう。


「ルヴィは自分の魅力に気づいていないんだね」


 自らの魅力について、考えてみたがファストゥ唯一の王女という以外思いつかなかった。それに関しては、閣下に伝えることはできない。


「こんなにきれいなルヴィを、他の人達に見せたくないんだけれど、婚約披露パーティーだから仕方がないよね。ベールで隠れているだけよしとするか」


 私を他人に見せたくない閣下と、恥ずかしくて顔を隠したい私との間には、奇跡的な利害の一致があったようだ。

 そんな話をしているうちに、婚約披露パーティーの会場となる〝ネーベル宮〟に辿り着く。ここは歴史ある宮殿で、国内でもっとも広い社交場らしい。

 婚約を広く知らせるために、たくさんの貴族を招待したようだ。

 ルビーも大勢の取り巻きを従えながら参加しているようだ。招待していないのに、勝手にやってきたらしい。招待客でないので騎士が止めたようだが、それを聞き入れずにずかずかとやってきたという。

 念のため、用心しておくようにと閣下が耳打ちする。

 長い廊下を歩いた先に、大広間があった。

 そこは白の社交場と呼ばれていて、床や天井、壁、すべてが白亜の大理石でできた豪奢な空間である。

 閣下に手を引かれ、白の社交場に一歩足を踏み出した。

 そこには大勢の貴族がいて、私達がやってきたことに気づくと拍手喝采が起こる。

 もしかしたら、私が閣下の婚約者だとわかった途端、シンと静まり返るのではないかと不安だったのだ。

 ルビーはすぐわかる場所にいた。

 私と目が合った瞬間、微笑みを浮かべる。

 すぐに扇で顔を隠したが、あれは彼女が私にいじわるをするときにするものだ。

 嫌な予感がする。閣下の腕を引いて知らせようとした瞬間、先ほど閉ざされた扉が勢いよく開いた。


「号外だ!!」


 燕尾服姿の男性が、紙の束を抱えて会場へ押しかけてきた。

 号外と叫び、手にしていた紙の束を天井に向かって投げていく。

 はらはらと雪のように舞う紙は、参加者の手に行き渡ってしまった。


「アレクシス・フォン・アルムガルト閣下の婚約者は、ファストゥで王女になれなかった女で、日々エルヴィール王女をいじめていた上に、祖国には大勢の愛人がいる、あばずれ女だ!!」


 ざわざわと、人々が記事を片手に囁く。

 私に対する視線も、祝福していたものから批判するようなものになっていた。


 書かれている記事は真実である。ただ、それは私に関しての情報ではなく、すべてルビーが行った所業であったのだが。


 ルビーはヒンメルを幻獣保護局へ引き渡した腹癒せに、このような愚行に出たに違いない。

 嫌な予感が的中してしまい、なんとも悔しい気持ちになる。

 恐る恐る閣下のほうを見る。

 ただ一点、記事を配る男を睨んでいた。これまでにないくらい怒っているようで、背筋がぞくっと粟立った。


「なんて愚かなことを」


 閣下はそう言って、腕を伸ばす。赤い魔法陣が浮かび上がり、ぱちんと弾けた。

 人々が手にしていた紙が一瞬にして燃え尽きる。

 突然のできごとに、会場は混乱状態となった。


「誰の指示で、このような浅薄な行いをした!?」


 鋭く責めるような声色に、騒がしかった会場はシンと静まる。

 誰もが、自分ではないと首を横に振っていた。


「全員、この場に残れ。今から罪を暴く。そして、犯人を殺す」


 閣下は腰に佩いていた剣を抜き、参加者のほうへ歩み寄っていった。悲鳴があがり、皆逃げようと扉のほうへ押しかける。

 けれども扉の前に魔法陣が浮かんで、自動で閉まってしまった。

 逃げられないとわかると、会場内はさらに混乱状態となる。


 まず閣下は記事をばら撒いていた男の前にやってくる。最初の一睨みで、彼は膝からくずおれた状態のまま動けなくなっていたようだ。


「お前はなぜ、このようなことをした?」

「わ、私は金で頼まれていただけなんだ! それに、正しい情報を周知させるのは、悪いことではないのだろう!」


 閣下が剣を振り上げたので、慌てて駆け寄る。

 背中から抱きついて、行動を止めた。


「ルヴィ、なぜ止めるんだ? ルヴィの名誉を傷つけたこの男を、今すぐ亡き者にしたいくらいなのに」


 必死になって首を横に振り続ける。私のせいで、閣下を殺人者にさせるわけにはいかなかった。


「あんな記事、デタラメだ。ルヴィは、そんな女性ひとではない」


 閣下のぶらんと垂れ下がった手に、今の気持ちを書いて伝える。


 私が大切に思う人達だけが、わかってくれていたらそれでいい。名誉なんて、気にしない。だから、誰も傷つけないで。


 閣下の手から剣が落ちる。カラン、と大きな音が響き渡った。


「ルヴィ……!」


 閣下はそう呟き、私をぎゅっと抱きしめた。

 

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