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隣国に輿入れした王女付きモフモフ侍女ですが、本当の王女は私なんです〜立場と声を奪われましたが、命の危機に晒されているので傍観します〜  作者: 江本マシメサ
第四章 逃亡、そして――!?

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獣人王女エルヴィールは、アレクシス閣下と話す

 閣下が選んでくれた婚約披露パーティーのドレスが届いたようだ。

 トルソーに着せられた状態で、閣下が見せてくれた。


「――!」


 それは、天頂の青ゼニスブルーの美しいドレスだった。

 青に紫が混ざったような、上品な色合いの一着である。

 婚約披露パーティーは昼間に行われるため、襟が詰まった通常礼服ローブ・モンタントである。

 閣下にどのようなドレスがいいか聞かれ、顔と獣人の耳が目立たないような装いがいいと希望を出した。

 それを聞き入れた閣下は、丸いカクテル帽にベールがかかった物を用意してくれたようだ。これを被ったら、目元や耳が隠れるだろう。


 ヴァイスはトルソーに跳び乗り、レースやリボンを捲って確認していた。ヒンメルはドレスの周囲をくるくる回ってデザインを眺めている。


 私もドレスに触れてみる。なめらかな手触りで、見ているだけでもうっとりしてしまう。実際に着るのが楽しみになった。


「ベールはもう少し伸ばすこともできるけれど、どうする?」


 これでいいと返すと、閣下は安堵したような表情を浮かべていた。

 ドレスが気に入った旨も伝える。


「よかった。ルヴィに気に入ってもらえるか、ドキドキしていたんだ。きっと似合うと思って選んだから、そんなふうに言ってもらえて嬉しい」


 閣下の手の平に改めて感謝の気持ちを書こうとしたら、ぎゅっと握ってくる。


「実は、婚約披露パーティーを行う前に、ルヴィに聞きたいことがあって……」


 先ほどまでにこやかだったのに、閣下の表情は深刻なものとなる。

 聞きたいこととはなんなのか。手を握られたまま、閣下を見つめる。

 よほど言いにくいことなのか。閣下は黙ったまま時間だけが過ぎていった。


 私は待つことしかできない。

 閣下はたっぷり沈黙したあと、静かな声で問いかけてきた。


「ルヴィ、故郷に帰りたいかい?」


 即座に首を横に振る。ツークフォーゲルでの暮らしを知ってしまったら、ファストゥに戻りたいなんて思わない。

 故郷に未練なんて欠片もなかった。それに、今更私に居場所なんてないだろう。

 そのまま伝えると、閣下はわかりやすいくらいホッと胸をなで下ろしているように見えた。


「これから先もずっとずっと、僕の傍にいてほしい。我が儘だっていうのは、百も承知なんだけれど」


 そんなことはない。ただの何者でもない私がただ傍にいるだけでいいのであれば、閣下のもとに侍り続けよう。


 一度だけ頷くと、閣下に笑顔が戻ってきた。


「よかった。ルヴィ、もう二度と、僕から離れないで……」


 今にも泣きそうで悲壮感にも溢れる声色だったため、私は閣下の手を握り返す。

 すると、閣下は私を傍に引き寄せ、そっと優しく抱きしめたのだった。


 今日の閣下はなんだかおかしい。何かあったのかもしれない。

 閣下の抱える事情はよくわからないけれど、励まさなければならないだろう。

 背中に手を回し、励ますようにポンポンと叩いた。

 閣下は耳元で「ありがとう、ルヴィ」と返してくれた。


 ◇◇◇


 とうとう婚約披露パーティー当日を迎えた。

 朝から緊張で胸の高鳴りが収まらない。

 今日はウルリケやレナータも参加してくれるようで、着飾った姿を見せてくれる。

 ウルリケは騎士隊の白い正装で、レナータはエクリュベージュのドレスをまとっていた。

 私も朝からメイド達に身なりを整えてもらった。

 ウルリケとレナータは着飾った私を見て、きれいだと言ってくれた。

 姿見で確認すると、獣人には見えない。カクテル帽のおかげで耳は隠れているし、顔もベールで半分以上覆われていた。

 婚約披露パーティーなのに顔を隠しているのはおかしなことだが、閣下は「それでいいよ」と許してくれたのだ。


 あっという間に時は過ぎ、出発の用意ができたとウルリケから声がかかった。

 同時に、閣下が現れる。

 彼もまた、通常礼服姿でやってきた。驚くべきなのは、私のドレスと色合いが同じだということ。

 軍服みたいな詰め襟に、片掛けのマントを合わせていた。ズボンとブーツは白である。

 閣下は私を見るなり、満面に笑みを浮かべていた。


「ああ、ルヴィ、世界一きれいだよ」


 甘い声に、盛大に照れてしまう。同時に、喜びが込み上げてきた。きっと今の私は、赤面しつつ微笑みを浮かべるという、なんとも言えない表情を浮かべているに違いない。

 閣下は私がいる一歩手前で止まる。


「抱きしめたいけれど、ドレスに皺ができそうだし、髪型も崩れそうだから止めておこうか」


 その代わり手を繋ぎたいと言うので、手を差し出した。閣下はうやうやしい様子で指先を掬うようにして握ってくれる。


「さあルヴィ、行こうか」


 戦場へ――。

 その言葉は、閣下も呑み込んだようだ。 

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