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隣国に輿入れした王女付きモフモフ侍女ですが、本当の王女は私なんです〜立場と声を奪われましたが、命の危機に晒されているので傍観します〜  作者: 江本マシメサ
第四章 逃亡、そして――!?

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獣人王女エルヴィールは、離宮に帰る

 ヒポグリフォンは大人しく、閣下が用意した車輪付きの檻に乗りこむ。一緒に乗ろうかと心の中で声をかけても、大丈夫だと言わんばかりに勇ましく『ピー!』と鳴いていた。 私はレナータとウルリケと三人で馬車に乗りこむ。閣下は馬に乗ってやってきたようだ。


「そ、それにしても驚きました。ルヴィ様がアルムガルト閣下と婚約なさっていたなんて」


 レナータには以前から結婚の約束をしていたと、閣下直々に説明していた。彼女はそれをすっかり信じているようだ。


 馬車に揺られている間、ウルリケが離宮での仕事について説明してくれる。


「基本的には、ルヴィ様と一緒に果樹園での勤務になります。希望がありましたら、離宮内での内勤も可能です」

「ルヴィ様と一緒に働く方向で、問題ありません」


 レナータは「大貴族と結婚なさるのに、幻獣様のために奉仕するなんてすばらしいです!」と瞳を輝かせる。

 私はそんなに立派な人間ではない。果樹園で働き始めた当初は、自分の居場所を確保するためだった。今は幻獣達を想って働くときもあるが。


 離宮に辿り着くと、幻獣の保護局で働く者達が待ち構えていた。ヒポグリフォンを保護する区画に案内しなければならない。

 そこは四方八方が囲まれているものの、かなり広い空間だ。これまで過ごしていた場所よりも過ごしやすいだろう。

 ヒポグリフォンを檻から出し、誘導しようとしたが庭のほうに行こうとしない。それどころか、離宮の扉の前で立ち止まっている。

 これまで室内で過ごしていたので、家の中が自分の居場所だと思っているのだろうか?

 たしかに、離宮であればヒポグリフォンも暮らせるのだが……。

 閣下を振り返ると、肩を竦めていた。


「ルヴィがヒポグリフォンに意見を聞いて、室内で暮らしたいと言うのであれば、そうしてもいいよ」


 ヒポグリフォンのための部屋も用意してくれるようだ。

 これからどうしたいのか、ヒポグリフォンに心の中で問いかける。

 すると、『ピィーーー』と高く鳴いた。

 ヒポグリフォンの胸の前に魔法陣が現れ、淡く光っている。

 これはなんなのか。閣下を見上げると、驚いた表情を浮かべていた。


「これは……信じられない。ヒポグリフォンがルヴィに契約を持ちかけているようだ」


 幻獣に詳しい閣下でも、これは初めて見たと言う。

 なんでも幻獣との契約は、たいていは人間側が求めるものらしい。相手に対して服従状態になるので、幻獣側が不利になるからだ。


「ルヴィと一緒にいたいから、このヒポグリフォンは契約を提示したのだろう」


 閣下はどうしたい? と優しく問いかけてくれる。

 小さなヴァイスだけならまだしも、大きなヒポグリフォンまで養いきれるのか。不安でしかない。

 ただ契約することによって、ヒポグリフォンを守ることもできるのだろう。


 私でいいのかと問いかけると、大きく頷いてくれた。ならば、答えは一つしかない。私はヒポグリフォンと契約する。そう決めた。


 以前の契約と同じように、白墨で魔法陣を描く。すると、先ほどヒポグリフォンが出した魔法陣と溶け合って、ひとつになった。

 魔法陣の中心に名前を書く。

 ツークフォーゲル語で空という意味の、〝ヒンメル〟。

 名前を書いた瞬間光り輝く。ヒポグリフォンが呼応するように『ピィイイイイ!』と鳴いた。

 腕にチリッと痛みが走った。ヴァイスの契約印に続き、ヒポグリフォン改めヒンメルとの契約印が追加された。

 無事、契約が完了したようだ。


 ヒンメルに向かってよろしくねと伝えると、頬ずりしてくれた。嘴の下を掻くように撫でると、嬉しそうな鳴き声をあげる。


 閣下に向かってヒンメルと共に、ふつつか者ですがよろしくお願いいたしますと、頭を深々と下げたのだった。


 それからというもの、離宮での日常が戻ってきた。

 数日もの間逃げ出した私を、果樹園の人達は優しく迎えてくれる。

 彼らには、私が祖国に一時帰国しなければならなくなったと説明していたらしい。

 ネリーは心配していたようで、戻ってきた私を見るなり「よかった!」と言って抱きしめてくれた。

 ヒンメルはヴァイスと共に果樹園に同行し、作業を手伝うとやる気に満ちあふれていた。

 今日はスイカの収穫を行う。ヒンメルは嘴を使って器用に箱詰めまでしていた。ヴァイスはスイカの蔓を噛み切り、収穫の手伝いをしてくれる。

 レナータは果樹園での仕事は初めてのようで、虫や果物を狙う鳥の多さに驚いていた。涙目になっていたら、ネリーが「そのうち慣れる」と豪快に励ます。レナータは「あはは」と笑っていたものの、顔が引きつっていた。虫除けや鳥の忌避剤を閣下に頼もうと心に決意した瞬間であった。


 あっという間に数日が過ぎ、離宮を逃げ出したのは夢の話だったのではと思うくらいである。

 閣下は忙しくしているようだが、必ず離宮に戻って私との時間を過ごしてくれた。

 婚約披露パーティーの準備も進んでいるようで、すでに会場は押さえたという。

 ドレスについては閣下に任せると言ったからか、すでに選んで頼んでくれたらしい。いったいどういうドレスが届くのやら……。

 閣下と一緒にいる時間はあっという間に過ぎていく。


 ◇◇◇


 今日も今日とて、果樹園で労働に勤しむ。

 ネリーがそろそろ休憩しようかと声をかけてきたタイミングで、離宮のメイドがやってきた。ウルリケがどうかしたのかと問いかけると、驚きの報告を受ける。


「ヴェルツェル卿、ロルフ様が幻獣ヒポグリフォンの件でお話したいとおっしゃっているのですが、いかがしましょう?」


 ヴェルツェル卿ロルフというのは、第八遠征部隊の騎士で、ルビーと密会していた男だ。いったいなんの用事なのか。

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