獣人王女エルヴィールは、再会する
その後、私はウルリケと再会した。
気まずくなるだろうと思っていたが、ウルリケは涙を浮かべながら私を抱きしめる。
「ああ、ルヴィ様、よかった……! 本当に、よかったです!」
私がどこかで酷い目に遭っていたのじゃないかと、心配していたらしい。ウルリケはひたすら「よかった」と私の耳元で呟いていた。
こんな優しい人に相談もせず、黙ってでてきてしまった。心から申し訳なく思う。
誘拐されたわけではないため、ウルリケが責められるような事態にはならなかったらしい。ただ、何も言われなかったというわけではないだろう。私は何度もウルリケに謝る。
どうしたら許してもらえるのか。問いかける前に、ウルリケがひとつだけ約束してほしいと言った。
「ルヴィ様、次に閣下のもとから逃げたいと思ったときは、どうかわたくしめを連れていってくださいませ」
背後にいた閣下が「ウルリケ、君という女性は……」という呆れた声が聞こえる。
ただ、ウルリケは真剣な眼差しを私に向けていた。本気で、私と一緒に逃げてくれるのだろう。
頷くと、閣下が「ルヴィまで、酷いな」と言われてしまう。
そこでやっと、ウルリケは微笑みを浮かべてくれた。
続けて、レナータが連れてこられた。突然アルノルト二世の騎士について来るように言われ、大変驚いたらしい。私の顔を見るなり、泣きだしてしまった。
彼女を抱きしめ、赤子をあやすように優しく背中を撫でる。
混乱するレナータに、ウルリケが優しく事情を説明してくれた。
「そ、そういうわけだったのですねえ。よ、よかったです~~」
離宮にもついてきてくれるようで、ホッと胸をなで下ろした。
最後は、ヒポグリフォンの保護である。
黒衣に身を包んだ閣下と騎士達が、第八遠征部隊の騎士舎へやってきた。
ちなみにヒポグリフォンについて、幻獣保護局は正式な報告を受けていなかったらしい。
ルビーと逢瀬していた騎士が言っていた、〝偶然ヒポグリフォンが現れ、円満な契約を結んだ〟という作り話すら伝わっていなかったようだ。
第八遠征部隊が幻獣を取り引きする怪しい組織と繋がっているのではないか。そんな疑惑が浮上し、ヒポグリフォンを保護するついでに騎士舎を捜索しようという話になったようだ。
騎士隊のほとんどは書類を保管している金庫や地下部屋へと進み、私とレナータ、閣下やウルリケはヒポグリフォンの部屋へ向かった。
ヒポグリフォンとヴァイスは寝ないで私達を待っていたようだ。
『ジュ!』
『ピー!』
ヴァイスはてててと走って近づき、そのまま肩に跳び乗る。寂しかったのか、頬ずりしてくれた。
続けてヒポグリフォンは嬉しそうに私の元へ駆け寄ってきたが、閣下やウルリケの存在に気づくと後方に下がっていく。
閣下やウルリケは怖い人達ではない。心優しい人達だと心の中で訴えると、警戒しつつ私の傍へやってくる。『ピイ』とよそ行きの声で鳴き、私の背後に隠れた。ヒポグリフォンは馬よりも大きいので、隠れられるわけがないのだが。
「驚いたな。ルヴィと契約していない幻獣が、ここまで心を許しているとは」
ヒポグリフォンは私の背中からひょっこりと顔を覗かせ、『ピ』と短く鳴く。閣下やウルリケに向かって、「どうも」と挨拶しているように思えてならない。
「こんな天井が低い部屋でヒポグリフォンを飼育していたなんて……。すぐに連れて帰ろう」
私はヒポグリフォンに、優しくお引っ越しをしようと心の中で声をかけた。
おいしい果物がたくさんあって、広い庭もある。居心地がいい場所だと説明した。すると、ヒポグリフォンは翼をバサッと広げ、『ピー!』と鳴く。
どうやら、引っ越し先に期待が高まっているようだ。
ヒポグリフォンを誘導していたら、ルビーと恋仲にある騎士が慌てた表情で駆けてくる。
腕を広げ、これ以上進めないように行く手を阻んだ。
「ちょっと、困ります! そちらは、王女殿下と契約している幻獣です!」
これは窃盗だと訴える騎士に、閣下が冷ややかな言葉を返す。
「へえ、窃盗。そうだったんだ。だったら今すぐ王女殿下を連れてきて、契約印を見せてもらえるかな?」
騎士はぎゅっと唇を噛みしめ、黙り込んでしまう。
「今回の捜査は国王陛下のご命令だ。反発するのであれば、君を拘束しないといけない。どうする?」
問いかけられた騎士は腕を力なく下げ、壁際に避ける。
閣下は「行こう」と言って先へと進む。
私達はヒポグリフォンを保護したのだった。




