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隣国に輿入れした王女付きモフモフ侍女ですが、本当の王女は私なんです〜立場と声を奪われましたが、命の危機に晒されているので傍観します〜  作者: 江本マシメサ
第四章 逃亡、そして――!?

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獣人王女エルヴィールは、逃亡生活1日目の朝を迎える

 ヒポグリフォンがやってきてからというもの、レナータはここで寝泊まりしているらしい。

 続き部屋には洗面所と風呂があり、ひとまず生活に困らないような必要最低限の品々もあった。


「眠るときはですねえ――」


 鳥カゴの部屋に戻ると、ヒポグリフォンが寝台の上にドーンと横たわっていた。これ見よがしというように、私達を見る。まるでこの扱いは当たり前、といった感じでいた。

 レナータはこれまでどうやって眠っていたのか。窓の結露に書いて質問してみる。


「あ、あはは、私はですねえ、布団を部屋の隅に敷いて寝ていました」


 床は冷たい石が敷き詰められている。よく眠れなかっただろうと問いかけると、レナータは眉尻を下げながら「まあ、そうですねえ」と言葉を返した。

 何かないものかと、辺りを見回す。すると、果樹園の木箱が目についた。

 あれを並べて、簡易的な寝台が作れるかもしれない。あの木箱は果物を運搬する目的で頑丈に作られている上に、使うたびに消毒しているので清潔だ。

 レナータに提案してみたら、いい案だと言ってくれる。


「でも、果物は木箱から出していいのですか?」


 それに関しては問題ない。木箱に入っていると、果物に重圧が加わり、傷みやすくなる。そのため、木箱から出して保管するほうがいいのだ。

 さっそく、木箱の果物をテーブルに並べていく。作業をしていると、ヴァイスも手伝い始めた。

 それを見たヒポグリフォンも、嘴を器用に使って果物を床に並べ始める。


「あ、ヒポグリフォンちゃん、賢いですねえ」


 そうなのだ、幻獣はとても賢い。人の言葉も理解していると言われている。そのことに気づいたのか、レナータはポツリと独り言のように呟く。


「人間達の心ない言葉を理解して、傷ついていたのかもしれないですね」


 レナータは顔を上げ、ヒポグリフォンに向かって語りかけた。


「見ず知らずの人間達がこんなところに無理矢理連れてきて、酷い扱いや言葉をかけてしまい、本当に申し訳ありませんでした」


 ヒポグリフォンはレナータの謝罪を受け入れてくれたのか、『ピィ』と優しい鳴き声を返す。反応があると思わなかったのだろう。レナータは目を見開き、驚いた表情を浮かべていた。


「ルヴィ様! い、今、ヒポグリフォンちゃんが返事をしてくれました!」


 よかったねという気持ちを込めて肩を叩くと、涙ぐんだ目を向けながら大きく頷いていた。


 果物の木箱で作った寝台は無事完成し、上から布団を並べていく。清潔なシーツを被せると、立派な寝台のように見えるから不思議だ。

 完成したと喜んだところで、ヒポグリフォンがのっしと簡易的な寝台に乗った。


「あら、ヒポグリフォンちゃん、こっちのほうがいいのでしょうか?」

『ピィ!!』


 どうやら、皆で作った寝台をお気に召してくれたようだ。


「じゃあ、私達はあちらの寝台で眠りましょうか?」


 大きな寝台なので、私とレナータのふたりくらいだったら眠れる。迷惑でなかったらと伝えると、「とんでもない!」と返してくれた。


 そんなわけでシーツを取り替えたあと寝間着に着替え、レナータと共に眠りに就くこととなった。


 ◇◇◇

 

 翌朝――カーテンの隙間から差し込む太陽の光を浴び、目を覚ます。ヴァイスは『ぷううう……!』という寝息を立てていた。つんつんと指先で突いても、起きそうにない。

 レナータはまだ眠っているようで、幸せそうな寝顔を浮かべていた。ヒポグリフォンはすでに起きていて、私と目が合うと『ピ』と低い声で鳴く。


 そっとカーテンを開いたつもりだったが、レナータは目を覚ましたようだった。


「ううん……! あ、ルヴィ様、もう、起きていらっしゃったのですね」


 おはようと口をぱくぱくさせると、気づいてくれたからか挨拶を返してくれる。

 新しく訪れた朝と生活が今、始まろうとしていた。


 まずは幻獣達の食事の時間だ。

 ヒポグリフォンに果物の前で、何が食べたいか聞いていく。

 賢いヒポグリフォンは嘴で果物を選び、私が持つカゴの中へと入れていった。テーブルにカゴを置くと、ひとつずつ食べ始める。果樹園の果物をお気に召したようで、尻尾が揺れていた。

 そんな様子を見たレナータは、胸に手を当てて感激しているようだ。


「うううう、ヒポグリフォンちゃん、あんなに食べてくれるようになって、本当によかったです!」


 レナータの言葉に、深々と頷く。

 目覚めたヴァイスはヒポグリフォンが果物を食べる様子を見て、自分もと離宮から持ち込んだ植木鉢に生る木の実を食べ始める。こちらも食欲旺盛なようだ。


 幻獣の食事が済むと、私達は身なりを整える。

 侍女はドレスにエプロンを合わせて働く。レナータがお仕着せ用のドレスを貸してくれるようだ。

 

「どれでも、お好きなものをどうぞ」


 並べられたドレスは、使い古したお仕着せ用には見えない。いいのかと確認すると、レナータは「ええ、もちろん」と言ってくれる。


「うちの実家、成金なんです。お金だけはたくさんありまして」


 彼女の家は新興貴族で、歴史はないが財産だけは多く所持しているらしい。他の貴族との縁故コネクションはないようで、必死に社交界の付き合いをしているのだという。


「通常、高貴な御方の侍女は、母親の世代が務めるものなのですが、私の母は三年ほど前に愛人と駆け落ちしてしまって、私が王女殿下の侍女になることになりまして。あはは……」


 通常、侍女は経験豊富な貴族の夫人がなるものである。結婚前の行儀見習いとして侍女を務めることはあるが、王女相手にするものではない。

 レナータの父親は出世のため、大金を積んで娘を王女付きの侍女にしたようだ。


「慣れないことはするもんじゃないって、ヒシヒシと痛感しているところですよ」


 成金貴族に生まれたご令嬢は、結婚相手も見つからず、社交界でバカにされるばかり。王女の侍女を勤めあげたら、誰かに見初められるかもしれない。そんな父親の言葉を信じて頑張っていたが、結果は振るわなかったという。


「やっぱり、貴族女性の価値はよい家柄と、すばらしい振る舞い、それから絶対的な自信なんですよ。わ、私なんか、どれも、持っていなくて……」


 レナータの声は震えている。泣いてしまいそうになるのを、ぐっと耐えているように思えた。


 私はレナータの手を握り、首を振る。

 そんなことはない。人の過ちをきちんと指摘できる正義感を持ち、幻獣に優しくできるレナータはすばらしい女性だ。

 それを今、伝えることができなくて、涙が溢れてくる。

 ふがいないという気持ちで、胸がいっぱいになってしまった。


「ど、どどどうしたんですか!? 私が惨めなあまり、涙が出てきたのですか?」


 違うと否定する。レナータの手を引いて、窓際に導いた。

 先ほど思ったことと、泣いてしまった理由を窓の結露に書いていく。

 すると、レナータはハッと目を見開いて、消え入りそうな声で「あ、ありがとうございます」と言ってくれた。

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