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隣国に輿入れした王女付きモフモフ侍女ですが、本当の王女は私なんです〜立場と声を奪われましたが、命の危機に晒されているので傍観します〜  作者: 江本マシメサ
第四章 逃亡、そして――!?

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獣人王女エルヴィールは、離宮を脱出する方法を考える

 どうすればいいものか……。

 結界魔法の解き方なんて、知るわけがない。知っていたとしても、ここは国の重要施設だから、簡単に解けるものではないだろう。


 念のため、ヴァイスに魔法の解き方を知っているか質問してみる。


『ジュウウウ……』


 どうやら、知らないようだ。

 強い風が舞い、木の葉が塀の外へ飛んでいこうとする。

 ひらりと流れるように風に漂った葉は、塀を越えようとした瞬間に木っ端みじんとなった。

 やはり侵入だけでなく、脱出しようとした場合もあのように結界魔法の影響を受けてしまうようだ。

 葉っぱの一枚ですら、通り抜けることができないなんて。

 ここから出るのは、門扉を通って行かなければならない。

 ただ、門には見張りの騎士達が日夜駐在している。閣下の許可のもとで住んでいる私でも、許可なく出られないようになっているのだろう。


 ガヤガヤと声が聞こえ、身を潜める。その声には、覚えがあった。果樹園で働く庭師達である。


「いやはや、急に果物の搬出の依頼があるなんてなあ」

「閣下のご命令だ。急ごう」


 はっきりと会話を拾う。どうやら、閣下から果物を運ぶようにという命令が下ったらしい。

 果樹園の果物は、保護された幻獣の食料だけでなく、保護活動の中で与えたり、捕獲のさいに使ったりと、利用方法は多岐に亘るのだ。

 ここでハッと気づく。果物を運ぶ荷台に乗りこんだら、外に出られるだろう。

 搬出する馬車が置かれている位置は把握している。急いで向かった。


 上がった息を整えつつ、搬出口を覗き込む。果樹園で働く人達が、せっせと果物を荷台に運んでいた。

 人がいない間にこっそり近づき、荷台へ乗りこむ。近くにあった木箱を広げると、空だった。そこに入り込み、底に敷いてあった布を被せた状態で蓋を閉める。

 このままここで大人しくしていたら、外に出られるだろう。


 そのあとも次々と果物が積み込まれた。

 上に重たい果物が積まれたら脱出できない。ドキドキしていたら、想定外の事態となる。


「そっちの箱は?」

「これは――」


 箱の蓋に手がかけられ、開かれてしまった。

 ここでバレてしまうのか。奥歯をぎゅっと噛みしめる。


「いや、入っている」

「じゃあ、こっちに入れておけ」

「了解」


 木箱の蓋は閉められ、ホッと安堵の息をはく。上から布を被っているのがよかったのだろう。発見されずに済んだ。

 無事、積み込みは終了し、荷馬車は動き始めた。


 耳を澄ませ、周囲の状況を把握する。

 途中、馬車は停まり、果樹園の庭師の声が聞こえた。


「閣下の命令で、果物を第八遠征部隊の騎士舎に運びます」

「確認する」


 騎士の足音が聞こえ、再び心臓がバクバクと高鳴る。木箱の蓋を開いて、中を確認しているようだ。

 隣に位置する木箱が開けられ、次は私だ。そう思っていたが、騎士の「問題ない。行け」という言葉が聞こえる。馬車が動き出した瞬間、張り詰めていた緊張の糸は解けていった。


 どうやら無事、離宮を抜け出せたようだ。

 ここで閣下へ書いた手紙を飛ばしておく。あらかじめ呪文が書かれた紙は、風に含まれる魔力を吸収して飛んでいった。強い風の中だが、しっかり飛んでいく様子を見てホッと胸をなで下ろした。


 馬車は速さがあり、この状態から飛び降りたら確実に大怪我を負ってしまうだろう。これから働かないといけないので、大きなケガは避けたい。

 行き先が騎士舎なので、早く脱出したいのだが……。

 その後、馬車は減速せずに進んで行った。停まった瞬間、箱の蓋を開いて飛び出す。

 ひとまず闇に紛れて姿を隠した。

 騎士舎と聞いたが、美しい庭園を持っているようだ。騎士達が日々訓練をするような場所には見えない。暗闇の中なのではっきり見えないが、そびえ立つ騎士舎は大きくないものの、白で統一された瀟洒しょうしゃな造りである。

 まるで、美しき貴婦人の離宮といった雰囲気であった。

 少し霧がかっていて、風に湿気も含んでいる。もしかしたら近くに湖か池があるのかもしれない。


 庭には美しい芙蓉の花が咲き誇っている。花びらが淡く光っており、庭を幻想的に彩っていた。おそらく、何かしらの魔法がかかっているのだろう。


 庭は迷路のように木々が植えられており、足を踏み入れてしまったことを後悔した。

 どこが出口なのか。うろうろしていたら、人の声が聞こえる。

 ぼそぼそとした、囁くような声色であった。

 ひとりではない。男女のふたりである。

 思っていた以上に接近していたようで、その姿を捉えてしまった。

 男女は密着するだけでなく、深い口づけを交わしているようだった。


「王女殿下、このような場所で――」

「誰も見ていないので、大丈夫ですわ」


 聞き覚えのある声に、ぎょっとする。

 ルビーだ! ルビーが、騎士の男と庭で密会していたのだ。

 アルノルト二世と結婚するためにやってきたのに、ツークフォーゲルの騎士に手を出しているなんて信じられない。

 手慣れた様子から、こういう行為を働くのは初めてではないのだろう。

 呆れて言葉も出てこない。

 一刻も早くここから離れよう。そう思った瞬間、ヴァイスが私の腕をぱしぱし叩いていることに気づく。

 いったいどうしたのか?

 ヴァイスのいるほうを向いた瞬間、巨大な影が接近していたことに気づいた。

 それは鷲の頭に前足、大きな翼、馬の胴体と後ろ足を持つ幻獣――ヒポグリフォンだ!

 ヒポグリフォンと目と目が合った瞬間、大きく鳴かれてしまった。


『ピイイイイイイイイイイッ!!!!』


 夜の庭に響き渡る、高い鳴き声だった。

 

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