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隣国に輿入れした王女付きモフモフ侍女ですが、本当の王女は私なんです〜立場と声を奪われましたが、命の危機に晒されているので傍観します〜  作者: 江本マシメサ
第二章 離宮での暮らし

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獣人王女エルヴィールは、イチゴを堪能する

 あっという間にカゴがイチゴでいっぱいになる。ネリーに見せたら、「よくできたね!」と褒めてもらった。

 ヴァイスと一緒に摘んだので、ひとカゴ山盛りになるまであっという間だった。なんて思っていたが、私達がひとカゴのイチゴを摘む間に、ネリーはふたカゴのイチゴを摘んでいたようだ。

 びっくりしていると、「熟練のわざだよ」なんて教えてくれる。

 なんでも、ネリーは八歳の時から八年間もここで働いているらしい。

 年上だろうと思っていたら、まさかの年下だった。

 おそらく、幼い頃より大人に混じって働いていたので、しっかりしているように見えたのだろう。


「あたしは捨て子でね、親の顔も知らないんだ。毎日食べるのに困っているあたしを、お忍びで下町にやってきていた今の陛下が見つけてくれてね」


 パンを恵んでくれと頼むネリーを、アルノルト二世は「パンよりおいしいものを食べさせてやろう」と言って果樹園まで連れてきたらしい。


「あの時食べたリンゴは、本当においしかった。まあ、ここで働いているのは、そういうワケアリな人ばかりさ」


 ネリーの話を聞いていたら、胸が切なくなる。親の顔を知らず、食べる物にも困っている人達がいたなんて……。


「ルヴィ、自分のことのように、悲しむんじゃないよ。今の陛下の治世になってから、下町で腹を空かせている奴なんていないからさ。すべては昔の話なんだ」


 ネリーは「優しい子だ」と言って抱きしめてくれる。優しいのはネリーのほうだ。そう伝えたいのに、肝心なときに言葉はでてこなかった。


 落ち着きを取り戻したあと、イチゴの選別を始める。

 傷ついていたり、実が潰れていたり、完熟していなかったり、変色していたり。完全じゃないイチゴは、どんどん避けていく。

 ヴァイスもネリーの話を聞いていたのか、イチゴを手に取って真剣な眼差しで見つめていた。いいイチゴは規格内のカゴに並べ、ダメなイチゴは私に確認してくる。

 ヴァイスが差し出してきたイチゴは、実が熟れきっていなかった。規格外のカゴを指差すと、『ジュ!』と鳴いて返事をする。

 ふたりと一匹で協力したため、選別作業はいつもより早く終わったとネリーは嬉しそうに言っていた。

 イチゴは果樹園の至る場所にある選別済みの木箱に入れておく。そうすると、幻獣のお食事係がやってきて回収していくようだ。


「これでよし、と」


 これから休憩だという。イチゴを囲んでお茶でも飲もうとネリーは誘ってくれた。


「ルヴィが休むのならば、さすがに騎士様も休むだろう?」

「ルヴィ様が休憩時間だからと言って私までも休むわけにはいかないのですが……まあ、今日はお付き合いしましょう」


 いいものを食べさせてやる。ネリーはそう言って、休憩小屋へといざなう。

 歩きながら、果樹について教えてくれた。


「あっちは小実しょうか類、ラスベリーにブラックベリー、ブルーベリーとかのベリー類の木だ」


 他に、ナシやリンゴ、カリンなどの仁果じんか類、クリやナッツなどの堅果けんか類、サクランボやアンズ、スモモなどの核果かくか類、ブドウやザクロ、イチジクなどの漿果しょうか類、オレンジやレモンなどの柑橘かんきつ類、メロンやスイカ、イチゴなどの茎や蔓に実が生る果菜かさい類、他、温室で育てる熱帯果実など、一言で果物といってもさまざまな種類があるようだ。

 果物については知らないことばかりで、勉強になる。


 話を聞いているうちに、小屋へと辿り着く。


「これからイチゴのガレットを作る。ルヴィや騎士様も手伝ってくれ」


 どうやら、イチゴはそのまま食べずにお菓子にするらしい。

 わくわくしながら、ネリーの指示に従う。


「まず、ルヴィはイチゴを洗って、ヘタを取ってくれ」


 指示を出したあと、ヴァイスが自分はどうすればいいのかと主張するように鳴いていた。


「幻獣様はルヴィの補助を頼む」

『ジュ!』


 そんなわけで、私はヴァイスとコンビを組むこととなった。まずは石鹸で手を洗い、イチゴのヘタ取りを始めた。

 ウルリケは生クリームの泡立て係に任命されたようだ。初めてするようで、戸惑いつつも必死に生クリームをかき混ぜていた。

 ネリーはガレット生地を作っている。材料を混ぜて、生地はしばし休ませるらしい。


 ヘタを取って洗ったイチゴはすべて鍋の中へ。それに砂糖を加えて煮込む。


「このままじっくり煮込んだらジャムになるけれど、今日はそこまで煮込まない。イチゴのシロップ絡め、みたいな感じかな」


 続いて、イチゴが焦げないように鍋をかき混ぜる係を銘じられた。ヴァイスは紅茶缶の上に乗り、鍋が焦げていないか確認する現場監督を務めているようだった。


 私がイチゴを煮込んでいる間に、ネリーはガレット生地を焼いていく。

 薄い鍋に生地を流し入れ、おたまの底で広げる。パン切りナイフを使い、器用に生地をひっくり返していた。

 あっという間にガレット生地が焼ける。香ばしいバターの匂いが、ふんわりと漂っていた。


 ウルリケも生クリームを完成させたようだ。達成感に満ち足りたような表情を浮かべていた。


 完成したガレット生地は皿に広げ、上からイチゴの砂糖煮と生クリームを載せて包む。

 瞬く間に、〝生クリームのイチゴガレット〟の完成だ。

 ヴァイスはイチゴの砂糖煮のみ食べる。


 ネリーが淹れてくれた紅茶とともに、ガレットをいただいた。


「~~~~!!」


 生地の外側はパリパリと香ばしく、中は甘くてもっちり。イチゴは甘酸っぱく、生クリームとの相性も抜群だ。

 ガレットというのは初めて食べたが、驚くほどおいしい。

 ネリーは魔法使いみたいだと、ウルリケを通じて伝えてもらう。


「ルヴィは大げさだな」


 そんなことを言いながらも、ネリーは照れたように笑っていた。  

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