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隣国に輿入れした王女付きモフモフ侍女ですが、本当の王女は私なんです〜立場と声を奪われましたが、命の危機に晒されているので傍観します〜  作者: 江本マシメサ
第二章 離宮での暮らし

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獣人王女エルヴィールは、アレクシス閣下とお喋りする

 食後のお茶の時間に、エプロンをまとってみた。

 閣下は私のエプロン姿に満足したようで、「画家に描かせようかな」と本気か冗談かわからない言葉を呟いていた。


「今日は、果樹園で果物を収穫するようだね」


 そうなのだ。離宮には大規模な果樹園があり、収穫された果物は幻獣の食料となる。

 離宮の先代が果物を好んでいたようで、果樹園はもともとあったらしい。

 幻獣の保護施設に選ばれた理由も、果樹園の存在が大きかったという。


「ルヴィも、果物をたくさんお食べ。体がこんなにやせ細って、可哀想に……」


 たくさん食事を取ったら、ルビーみたいに背が伸びて、凹凸のある身体付きになるのだろうか。と、思ったが、彼女の場合は山よりも高い美意識の元、絶え間ない努力の結果手に入れた体だ。ただ、たくさん食べただけでは無理に決まっている。


 ただ身長だけは、もう少しほしい。現在の私は5フィート1インチ(155センチ)ほどしかない。せめて、5フィート3インチ(160センチ)くらいはほしかった。


「ルヴィ、難しい顔をして、何を考えているのかな?」


 身長についてだと答える。そういえば閣下は、見上げるほどに大きい。いったいどれくらいあるのか、質問してみた。


「身長か。長い間、身長を測っていないな。ウルリケ、僕はどれくらいだと思う?」

「5フィート11インチ(180センチ)くらいかと思われます」

「だって。ルヴィは、僕について気になるんだ」


 その聞き方は余裕たっぷりの大人の男性という感じで、なんだか照れてしまう。

  慌てて、ウルリケの身長も気になると、付け足しておいた。


「ルヴィ様、私は5フィート7インチ(170センチ)ですよ」


 ウルリケも背が高い。上背があると強そうに見えるので、羨ましくなってしまった。

 私も耳の毛先を先端にしたら、5フィート4インチくらいはあるだろう。けれどもたいてい耳の位置は無視され、頭のてっぺんから計測するのだ。


 もうひとつ、質問する。閣下の年齢についてだ。


「僕の年齢? いくつだったかな?」


 閣下はウルリケのほうを見る。どうやら、よく把握していないらしい。


「アレクシス様のご年齢は、二十五歳ですよ」

「そう、二十五歳! ルヴィ、僕の年齢について、どう思う?」


 どう、と聞かれても困る。二十五歳くらいだと思っていたと、正直な気持ちを閣下の手のひらに書いた。


「ん? 二十五歳に見えるだって?」


 閣下がそう呟いた瞬間、ウルリケがプッと噴きだした。一方で、閣下は眉間に皺を寄せている。


「ああ、ごめんねルヴィ。君は悪くないよ。僕は昔から老けていると言われていてね。その話を思い出してしまっただけなんだ」


 閣下は心の中や実情を見抜いているような雰囲気がある。そのため、実年齢よりも上に見られるのかもしれない。そんな感想を伝えると、閣下は目を見開いていた。


「驚いたな。ルヴィはそういうふうに感じてくれたんだね」


 閣下は私の手を握り、ありがとうと言って頭を下げた。

 初めて、つかみ所のない閣下の心と触れ合えたような気がして、なんだか嬉しくなる。


「ルヴィは、やわらかい表情を見せてくれるようになったね」


 みんなのおかげだと答えると、閣下は具体的な話を聞きたがる。


「閣下やウルリケ、ヴァイス、それから使用人のみなさんのおかげ、か」


 少し拗ねたように呟く。この返答には納得いかなかったらしい。ウルリケのほうを見ると「どうやら閣下のおかげだと言ってほしかったようです」と解説してくれた。


 閣下は時折、子どもっぽい態度を見せるときもあった。そういうときは、二十五歳には見えない。

 二十歳だというアルノルト二世も、こんな一面があるのだろうか?

 第一印象は仮面を着けていて、冷たそうな人という感じだった。けれども、アルノルト二世のおかげで、私は牢屋行きを逃れたのだ。その点は、感謝しかない。

 アルノルト二世は獣人の差別をなくし、獣人を尊重してくれる人だと聞いた。彼ならば、私が獣人だと知っても、普通に接してくれたのかもしれない。

 ただそんな情報も、今は意味のないものになってしまったのだが……。


 会話が途切れたタイミングで、ウルリケが閣下に声をかける。


「そろそろご出勤されたほうがいいのでは?」

「ああ、そうだね。でも、ルヴィが初めてする仕事を見守りたくもある」

たわむれもそれくらいになさってください」

「ウルリケは手厳しいな」


 閣下は立ち上がり、身をかがめて「行ってくるね。名残惜しいけれど」なんて言ってくる。これも、ウルリケ風に言えば「お戯れ」なのだろう。

 苦笑いをしつつ手を振ると、閣下は美しい微笑みを振りまきながら出勤していった。


「ルヴィ様、嵐は去りました」


 ウルリケのそんな言葉に、思わず頷いてしまった。

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