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隣国に輿入れした王女付きモフモフ侍女ですが、本当の王女は私なんです〜立場と声を奪われましたが、命の危機に晒されているので傍観します〜  作者: 江本マシメサ
第二章 離宮での暮らし

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獣人王女エルヴィールは、呪術医とメイドに再会する

 その後、閣下は仕事があるというので、王城に出かけた。ヴァイスと一緒に見送る。

 午後から呪術医がやってきた。一緒にいたメイドも引き連れている。


「どうもどうも~、先日ぶりです! あ、顔色、かな~りよくなっていますね! よかったです」


 勢いよく話しかけてくるので、仰け反ってしまう。ヴァイスもびっくりしたのか『ジュー!!』と威嚇していた。


「あ、幻獣! 可愛い。初めて見ましたー」


 ヴァイスに向かって伸ばした指先を、慌てて掴む。喋れない私の代わりにウルリケが「この幻獣は主人であるルヴィ様以外には獰猛なんです」と説明してくれた。


「無駄話は終わったか?」


 険しい表情を浮かべつつぼやく呪術医の言葉に、メイドは「酷いです、先生!」と抗議の声を上げていた。


「あ、そういえば、私達名乗っていませんでしたね。私は先生の助手兼、しがないメイドのアリーセ・ペーツェルと申します。こちらの群れからはぐれたダークエルフは、呪術医であるカラス先生です」


 私についてはウルリケが紹介してくれた。


「こちらはファストゥの王家の生まれで、ルヴィ様とお呼びしております」

「ファストゥ出身の獣人だと? よくその年まで生きていたな。あの国の獣人は、奴隷以下の扱いを受けていると聞いたぞ」

「先生!」


 発言し終えたあとで、メイドのアリーセが呪術医の口を塞いだ。


「あはは! え、えーっと、お互いに紹介し合ったところで、検査といたしましょうか!」


 アリーセは黒革の鞄から検査道具を取り出す。長方形のケースに収められていたのは、細長い針だった。見慣れぬ道具を前に、不安に駆られる。


「こちらは魔導針と申しまして、血管にぶっさしたあと、魔力の流れを確認するものなんです」


 血管に刺すと聞いて、ゾッとしてしまう。その恐怖がヴァイスに伝わってしまったのか、アリーセに向かって『ジュウ、ジューー!!』と威嚇をし始めた。

 検査の邪魔になってはいけないと、ヴァイスを革袋に詰めてウルリケに預ける。

 なぜかはわからないが、ヴァイスは革袋の中に入れると落ち着くようだ。


「魔力の多くは、血管に溶け込んでいるというのは知っているな? 呪いというのは、受けると魔力の流れに異常をきたす。それを、この針を使って調べるのだ」


 ちなみに、私が意識を失っている間も、この針を刺して呪いについて検査していたらしい。


「痛みも、違和感も、検査の跡も残らない。だから怖がるな」


 そうは言っても、かなり長い針だ。先端を向けられると、恐ろしくなる。


「これ、針に見えるのですが、正確に言うと魔力を固めて鋭くさせたものなんです。わかりやすく言えば、空気を細長くしたようなものですね」


 つまり、実体がない物だと言いたいのか。よくわからないが、恐ろしいので目を閉じる。


「始めるぞ」


 こくりと頷いた瞬間、額をトン! と指先で突かれたように感じた。そこに針を打ったのかもしれない。


「……ふむ」


 アリーセが私の肩を支え、小さな声で「検査は終わりました」と囁く。

 たしかに痛みも、違和感もなかった。


「先生、いかがでしたか?」

「驚くほど異常なしだ。呪いではない、幻術や強制魔法の可能性も考えて調べてみたが、魔法の痕跡はなかった」

「はあ、そうでしたか」


 やはり、事故のショックで喋ることができなくなってしまったのか。

 物心がついた頃から、お喋りではなかった。けれども、いざ喋れないとなると不便を感じる。

 筆談ができる閣下や、読唇術を身に付けていたウルリケが傍にいて本当によかった。


「しばらく療養して、それでも喋れないようであれば、医者にかかったほうがいいかもしれん」

「ですねえ」


 何かあったら来るようにと、呪術医は転移を可能とする魔法巻物を手渡す。これは直接彼の家に繋がっているものらしい。転移の魔法巻物は高価で稀少だと聞いていたが、その辺はさすがエルフと言えばいいのか。


 ありがとう、と伝えると、わかってくれたのかアリーセは微笑み、呪術医は「別に大したことはしていない」と言葉を返してくれた。

 ここでようやく、アリーセが言っていた「先生は悪い人じゃない」の意味がわかったのだった。


 ◇◇◇


 日が暮れると、閣下が戻ってきた。夕食の時間を共に過ごし、食後も紅茶を囲んでしばし話す。


 呪術医とアリーセがやってきた話と、のびのび過ごしていたヴァイスについて伝えると、閣下は目を細めながら優しく言葉を返してくれた。


「ああ、そうだ。ドレスを仕立てなければいけないね。もう少し元気になったら、仕立て職人を家に呼ぼうか」


 その発言を聞いてギョッとする。今日だけでも、大量の服や靴、帽子などが運びこまれていた。これ以上、何を作るというのか。

 私がうろたえているのにウルリケは気づいてくれたようだ。


「閣下、ルヴィ様がお困りのようです」

「なぜ?」

「服ばかり大量に贈られても、困るかと」

「ネックレスやイヤリングのほうがよかったってこと?」

「違います!」


 勝手に押しつけずに本人から必要な物はないか直接聞いてくださいと、ウルリケは伝えてくれる。

 閣下は「そうか。言われてみればそうだね」と言い、輝く笑みを浮かべながら私に手を差し伸べる。

 欲しい物を書けと言いたいのだろう。

 たぶん、ここで何か望まないと、閣下は引かないだろう。

 ひとつ、欲しいものがあったので、閣下の手のひらに書いた。


「エプロン? ルヴィ、君は、エプロンがほしいのかい?」


 こくりと頷く。これから幻獣のために働きたいので、閣下から貰ったドレスが汚れないようにエプロンをかけたいのだ。


「なるほど、エプロンか。わかった。すぐに用意しよう」


 ごくごく普通のメイドが使っているような、離宮で使われているエプロンで頼みますと重ねてお願いしておいた。

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