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隣国に輿入れした王女付きモフモフ侍女ですが、本当の王女は私なんです〜立場と声を奪われましたが、命の危機に晒されているので傍観します〜  作者: 江本マシメサ
第二章 離宮での暮らし

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獣人王女エルヴィールは、アレクシス閣下と朝食を食べる

 閣下と朝食と聞いて驚いてしまった。忙しいだろうから、次に会えるのはずっと先だと思っていたのだ。

 閣下は毎日離宮に帰ってくるのかとウルリケに質問すると、そうだと頷く。


「幻獣の保護を始めてから、毎日いらっしゃっているようです。それまでは、月に一度、いらっしゃるか、いらっしゃらないか、という感じでしたが」


 幻獣の保護を始めたのはちょうど半年前。幻獣の取り引きを裏社会で行う者を取り締まっているようだが、雑草のように刈っても刈っても撲滅ぼくめつできないのが現状だという。


「貴族のペットとして、幻獣を飼うのが流行っているようで……」


 基本的に、幻獣が心を許し、契約関係になるのならばなんら問題はないとされていた。

 しかしながら、そこに目を付けた業者が契約していない幻獣を捕獲し、貴族に販売しているのだという。


「幻獣の契約には、いくつか種類があります」


 まず、ひとつ目は名付け。幻獣に命名し、幻獣が受け入れたら契約は完了する。互いの了承を得てから関係を結ぶ、平和的な方法だ。


 ふたつ目は、血の契約。魔力を含んだ血と引き換えに契約を持ちかけるというもの。契約するか、否かは幻獣が決める。契約した場合、対価として魔力を与えなければならない。


 みっつ目は、魔法で幻獣の意思を縛る強制的なもの。奴隷契約に等しく、幻獣は自由を奪われるらしい。

 幻獣を取り引きしている業者は、強制的に契約させる魔法巻物も一緒に販売しているようだ。


「業者は次々と拘束されているのですが、魔法巻物を作る魔法使いはいまだに見つかっていない状況でして。その者が、もしかしたら商人達をそそのかしているのではないかと、閣下は思っているようです」


 ちなみに、閣下は幻獣が苦手らしい。なんでも幼少期に、森に出かけたときにジュリスに噛まれたことがあったようだ。


「幻獣を苦手だ、苦手だと言いながらも、毎日幻獣の様子を見に行きますし、具合が悪そうにしていたら誰よりも心配なさるようで――と、お喋りしている場合ではありませんね。食堂へご案内します」


 ウルリケのあとに続き、大理石の廊下を進んでいく。


「ルヴィ様、お寒くないですか?」


 大丈夫だと頷く。私が雪深い地域を故郷とする山猫獣人だからだろうか。寒さにはめっぽう強い。

 真冬にメイドが暖炉の薪を入れ忘れることもあったのだが、その時も毛布一枚で耐えられるのだ。


「パウリーネ様は、ここはいつも寒い、死ぬほど寒いっておっしゃっていて……」


 名前を口にしてから、ウルリケはハッとなる。立ち止まり、気まずげな表情で私を振り返った。


「あ、あの、パウリーネ様というのは、その、アレクシス様の婚約者です。もしかしたら、ここでお会いすることもあるかもしれません。その、パウリーネ様は幻獣を愛されているようですので」


 パウリーネ・フォン・ゲッテルブルク――公爵家の次女で、明るく溌剌とした人物らしい。閣下とのご関係は良好とは言えないようだが、政略結婚だからこんなものだと開き直っているという。


 私もそれくらい強かったら、ルビーなんかに付け入る隙など与えなかったのかもしれない。まだ会ったことはないが、パウリーネ嬢の強さが羨ましくなった。


 食堂に辿り着くと、すでに閣下の姿はあった。


「おはよう、ルヴィ」


 閣下は持ち前の美貌を、朝からこれでもかと言わんばかりに輝かせていた。

 大地をさんさんと照らす太陽よりも眩しいと思ってしまった。


 執事の男性が引いた席は、閣下のすぐ近く。てっきり下位席に座るものだと思っていたのに、上位席に座ってもいいらしい。

 通常、公的でない食事の席でここに座るのは、屋敷の主人の妻である。

 私が喋ることができないので、交流を図りやすいように配慮してくれたのかもしれない。

 恐れ多いと思いながら、上位席に腰をかけた。


「昨晩は、ゆっくり眠れたかい?」


 大きく頷く。すると閣下は「そうか。よかった」と言葉を返した。


「喋れないのはもどかしいな。あとで、ゆっくり話そう」


 指先で筆談しながら、話すつもりなのか。そこまでしなくても、私の言葉はウルリケが読唇できる。そのことについて、ウルリケを通じて閣下に伝えてみた。


「閣下、ルヴィ様のお言葉は、私が読唇術で通訳できます」

「お前、そんなことができたのか?」

「ええ。昔訓練を受けたのを、すっかり忘れていましたが」


 閣下は読唇術を使えないのか? そう問いかけたが、習得していないらしい。


「閣下、私は五時間ほどで習得しましたが、一度講習を受けてみてはいかがでしょうか?」

「そんな暇があるわけないだろう」

「そうでしたね」


 ひとまず、私との会話はしばらく筆談で行うようだ。

 なんて話を聞いているうちに、朝食の用意が始まった。

 丁寧に銀のカトラリーが並べられ、真珠のような照りを持つ美しい磁器の皿も置かれる。


「ルヴィ、ファストゥとツークフォーゲルでは朝食の文化が異なるようだね?」


 それに関しては、一度本で読んだことがある。

 カルテスエッセン――冷たい朝食。

 ツークフォーゲルでは火を使わない、冷たい朝食を取るようだ。


「閣下、ルヴィ様はツークフォーゲルの朝食についてご存じだったようです」

「へえ、よく知っていたね。これまでずっと、双方の国は交流がなかったのに」


 ツークフォーゲルに嫁ぐために、文化や歴史、語学についていろいろ学んだのだ。

 ただ、冷たい朝食が文化だ、という点はいまいち理解できなかったのだが……。


「ファストゥは、温かいスープにカフェオレ、チョコレートクロワッサン、半熟卵に、カリカリに焼いたベーコンがお決まりなようだね?」


 その言葉に小首を傾げる。

 私がいつも食べていたのは、パンと一杯のミルクのみだ。ウルリケに伝えると、驚きの表情を浮かべていた。


「国王の娘が、たったそれだけしか召し上がっていなかったのですか!?」


 閣下もウルリケから話を聞き、思いっきり顔をしかめている。


「だからそんなにも、やせ細っているのか。実年齢よりも、見た目がずいぶんと幼いとは思っていたが」


 たしかに、身長の伸びは十代前半で止まっていたように思える。女性的な部分だって、ルビーに比べると子どもっぽいという陰口は耳にしていた。

 顔立ちは似ているという話だったが、ルビーのほうが圧倒的に美人だ。彼女について物申したいことはいろいろあるものの、美への努力とそれに伴う美しさについては認めていた。


「あの、ルヴィ様、昼や夜は何を召し上がっていらしたのですか?」


 昼食はだいたい、忘れられることが多かった。食事がある日は、しなびた野菜と細かく刻まれたベーコンを挟んだパン、それから一杯の紅茶のみ。

 夕食はスープとパン。たまに、ソテーされた魚や肉が出るくらいである。

 これが私のいつもの食事であった。


「ひ、酷い……!」

「ファストゥは獣人だけでなく、ルヴィまでも迫害していたとは」


 閣下は眉間に皺を寄せ、「うちで保護できて、よかった」と口にしていた。

 ウルリケは瞳を潤ませながら、「たくさん食事を取れるようにしましょうね」なんて言ってくれる。

 私は本当に、いい人達に拾ってもらったようだ。

 まずは恩返しというよりも、ごくごく普通の日常生活が送れるようになって、彼らに心配をかけさせないようにしなくてはならないだろう。


 朝食は昨晩同様、オートミール粥を用意してくれたようだ。

 今日は細かく刻んで煮込んだ野菜も入っている。閣下も同じ物を食べるようだ。


「オートミール粥か。懐かしいな。熱を出したときに、よく食べていたよ」

「閣下は成人してから、健康になりましたものね」

「そうだね。獣人達と外で遊ぶようになったのも、よかったのかもしれない」


 閣下もアルノルト二世同様、幼少期から獣人達と共に育ったらしい。そんな話を聞きながら、おいしい朝食を味わった。 

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