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獣人王女エルヴィールは、幻獣について知る

「ルヴィ様は幻獣をご存じですか?」


 質問に答える前に、様はいらないと訴える。けれどもウルリケは首を傾げるばかりであった。おそらく、様付けを止めるつもりはないのだろう。

 まあ、いい。このやりとりは時間の無駄となるに違いない。ひとまず止めるように訴えるのは諦めた。


 幻獣については、本で読んだ程度だ。警戒心が強く、人間の前にはめったに姿を現さないと書かれていた。


 私が知っているのは、ドラゴンやグリフォン、ピポグリフォン、ユニコーンにバイコーン、サラマンダーにケツァルコアトルなどなど、有名なものばかりだ。


 ファストゥで幻獣が目撃されたのは百年ほど前。このような状況のため、幻獣は物語に登場する架空の生き物だと思っている人も多いらしい。


 ただ、ツークフォーゲルではごくごく身近な生き物で、森には純白の毛皮を持つジュリスというリスが多く生息しているらしい。


 ジュリスという幻獣については初めて聞いたと伝えると、ウルリケが教えてくれた。


「ジュリスは〝ジュ!〟という鳴き声の、賢いリスですよ。芸を教え込んだら、短時間で習得します」


 離宮でも、多くのジュリスを保護しているらしい。ただ、大半は心を許していないようで、今も警戒されているという。


「五年前、アルノルト二世が即位してすぐに、獣人の売買及び差別的な言動を禁じる法律ができました。その結果、幻獣に注目が集まってしまったのです」


 差別を主張できる獣人とは違い、幻獣は人の言葉を喋ることはできない。そのため、都合がいいように利用されているのだという。


 それにしても驚いた。獣人への差別を禁じたのはもうずっと前だと思っていた。けれどもそれはアルノルト二世が即位と同時に始めたものだったらしい。


 話の途中だったものの、獣人への差別禁止について気になったので、ウルリケに詳しい話を聞いてみる。


「アルノルト二世が呪われた魔眼持ちであることは、ご存じでしょうか?」


 頷くと、ウルリケは途端に悲しそうな表情を浮かべる。


「陛下と目が合っただけで亡くなってしまう、というのは嘘なんです。けれども、周囲の者達は勝手に決めつけ、陛下を恐れていました」


 そのきっかけは、使用人がアルノルト二世を世話している間に亡くなった事件だったらしい。


「それは魔眼とは関係ない、心臓の発作でした」


 しかしながら、人々は信用せずに魔眼のせいだと訴える。

 魔眼を恐れるあまり、アルノルト二世の使用人は次々と辞めていった。


「母は陛下のお傍にいたのですが、当時、弟を懐妊してしまい、産休を取らなければいけなくなりまして……」


 アルノルト二世はひとりぼっちになったという。

 そんな彼に寄り添ったのは、獣人だった。

 魔眼の呪いで死んでもいい者をと言って、わざわざ獣人を寄越したのだという。


「正直、双方に酷いとしか言いようがない行為でしたが、それでも、陛下は獣人達の存在に救われたのです」


 アルノルト二世は獣人に深い感謝と敬意を示し、即位後は獣人に対する差別を禁じた。


「獣人への差別を働いた者は拘束され、百年の禁固刑に加えて、全財産の没収とされています」


 厳しい刑罰が処されるため、皆、獣人への差別をなくしたようだ。


「獣人の生活を助けた者には、補助金がでるんです。獣人とそれに関わる者達に手厚い保障を与えるので、獣人びいきだと訴える者もいましたが――いつの間にか姿を消していましたね」


 ウルリケは笑顔で語っていたものの、裏で処分されていたに違いない。


「即位当時は、いろいろと不満も出ていたようですが、獣人の手を借りて動き始めた社会は、どこもかしこも上手くいくばかりで、国の治安もよくなったそうですよ」


 現在、騎士隊には獣人のみで編成された部隊もあるという。そこは少数精鋭で、アルノルト二世の期待以上の活躍も見せているらしい。


 ファストゥでは獣人が街を歩くと、石や罵声が飛んでくることがあると聞いていた。しかしながら、ツークフォーゲルではそんなことは起きないのだろう。


「だから安心して、ルヴィ様もお過ごしください」


 ちなみにアルノルト二世に仕えていた獣人達は、今は重臣になっているようだ。

 彼らは「人生、何が起こるかわからないな」と語っているらしい。


「話が逸れてしまいました。幻獣について、お話ししますね」


 この離宮にいるのは、乱獲されて取り引きされようとしていた幻獣らしい。そのため人を恨み、警戒する個体ばかりだという。


「食事を与えても、ほとんど食べない個体や、吐いてしまう個体もいて……。痛々しいですね」


 閣下はアルノルト二世の命令で、幻獣保護に努めているらしい。

 もしかしたら私も、幻獣と同じような境遇にいると思われているのかもしれない。現に、食欲がなくてここに来てから何も食べていないし。


 閣下に保護された者同士、なんだか幻獣と仲良くなれそうな気がした。


「現在、離宮では幻獣の心と体のケアに努め、回復したら森に放つ活動をしています」


 元気になったら、幻獣を見せてくれるとウルリケは約束してくれる。

 思いがけず、離宮での楽しみができてしまった。

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