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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第二章 魔王対決編
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86話 沼地ノ戦イ3


(茜、左から首二つ。右から首一つ)


(分かってる!)


 リヒトはいつの間にか煙のように消えてしまっていた。


 僕はウルフ形態になり、"同調"を使って茜に注意を促す。頬のあたりから猫のような髭が横に伸び、顔つきが狼っぽくなった。

 間をおかず、ヒュドラの首が鞭のようにしなり茜を襲う。茜はそれを予測していたかのように躱す。すると、さらに首が増え、囲まれてしまう。


(シモンは、火魔法で援護。あ、風魔法で空中に足場作れる?)


(今なら…出来た!任せろ!)


 シモンは右手から火魔法で火の玉を放ち、左手から風魔法で茜の補助を器用にこなす。茜は空中に作られた即席の足場を蹴り、一回転して後方に着地。窮地を脱出。


 前衛に茜、中衛は僕、後衛にシモンのフォーメーション。なお、ホークの役割は遊撃だ。"同調"を使って、僕が指示を出し、同時に"指揮者"と勇者の能力を併用することで各個人の能力を底上げしている。


(首が邪魔で、近づけない!アサヒ何とかして!)


(分かってる!)


 これまでの攻防で分かったことがある。

 攻撃には真ん中にある首は参加していない。それどころか茜が迫った際、周囲の首達が守るような動きを見せていた。もしかして…。


(シモン、真ん中の首の頭上あたりを狙って、風魔法を打ってくれないか?威力は弱くていい)


(?? …そういうことか。了解)


 今のやり取りで僕の意図が分かったの?シモン、凄すぎないか?


ーー風魔法『ウィンドアロー』


 不可視の風の矢。流動的に動く首達の隙間を縫って、真ん中首目掛けて命中するかと思えた。が、大袈裟な動きで回避される。何もしなくてもヒュドラには当たらない軌道だったにもかかわらず、だ。


「間違いない」


 疑念は確信に変わる。

 真ん中の首にリヒトはいる。どこかまでは分からないが、全体を見渡すために案外頭上にいたりして。

 僕は"服従の首輪"の性能はそこまで高くない、と予想していた。理由は洞窟内を巡回していた見回りの村人達が、あまりにも稚拙だったからだ。いくら戦闘力の低い村人とはいえ、体を張って足止めしたり、逃げて助けを呼んだり、選択肢はいくつかあったはずだ。しかし、僕らを発見した途端、声を上げるの一辺倒。違和感を感じずにはいられない。恐らく事前に与えられた簡単な命令しかこなせないのだろう。まるでプログラムを実行するコンピュータのように。


 首輪をつけたヒュドラは、この目まぐるしく変わる状況にどこまで対応できるのか疑問に思っていた。しかし、ヒュドラは見事に対応してみせた。それが答えだ。近くで逐次、命令を与えているとしか思えない。そこで半ば当てずっぽうで、怪しい真ん中のヒュドラに的をしぼり、魔法を放った次第だ。


「茜!真ん中だッ!」


(なんで”同調”使わないの?リヒトにバレちゃうよ)


 茜の疑問は至極当然だ。だが、これには狙いがある。敵が未だ姿を現していない以上、精神的に揺さぶりをかけてミスを誘発する。


(リヒトを動揺させるためだ!それより、真ん中の首に集中すると見せかけて、周りの首を狩っていくぞ!)


(なーるほどね!さすが、アサヒッ!了解!)


(ホーク!真ん中首を牽制、隙があれば攻撃を加えてくれ!)


(ピィ!!)


(シモンは茜の援護。だが、いけそうな時は風魔法で首を掻っ切れ!)


(おう!)


 シモンが自信を持って返事をする。今までのゆるゆるなキャラから変わってきてる気がする。


「いっくよー。発現(リベレーション)ーービースト」


 茜がヒュドラに迫る。

 他の首が物量を持ってその行手を阻む。茜は地面ギリギリまで重心を落とし、攻撃を紙一重で避ける。速さを殺さずそのまま一番近い首に、体重を乗せた必殺の爪撃。


「ゲギャアアア」


(一つ!)


 地面に巨大な塊が落ちる。

 すぐさま反転。後方に後ろ回し蹴りを放つ。骨を砕く感触が足に伝わる。


「グギャアオオ」


(二つ!)


『風の(ウィンドカッター)』『火の(ファイヤーボール)


「ギャアアス」「ゲギャギャギャ」


 茜の左右にいたヒュドラの首にシモンから魔法が飛ぶ。右は首から上を切り離す。左は頭が燃えのたうち回っているところを茜が止めをさした。


(三つ、四つ!)


「ピイィィィィ」


 上空から急降下したホークにより、一刀両断。ホークの羽は魔力を通すことで、硬さの性質を変えられるらしい。鋭い刃にすることも、硬い鎧のようにすることも出来る。攻守共に隙がない使い勝手のいい能力だ。敵として遭遇したら、非常に厄介な相手になるのは間違いない。それがペットとしてるのだから、どこで手懐けたやら…。茜に聞いても、物心ついた時から居たから知らないみたいだし。守さんなのか、どこまでも規格外な人だ。


(これで、五つ!)


(あと真ん中の首を含めても、四つだ。気を抜かずにいこう)


((了解!))



 僅かな違和感。

 真ん中首を守る三つの首達は僕達を攻撃する気配がない。近づけば攻撃する素振りは見せるが、あくまで迎撃だ。何か見落としていることがあるのか…?


(アサヒ、どうしたの? ボーッとしないで!始めるよ?)


(ああ、ごめん。このまま決めてしまおう)


 心に引っ掛かりを覚えつつも、状況的には有利なのは間違いない。このまま流れに乗るべきだ。


 茜、シモン、ホークの連携により真ん中首を守る三本の首を難なく倒す。


「お前で最後だッ!」


 茜が高らかに宣言する。


ーーフフフ。何も疑問に思わなかったのかね?単細胞め。これだから、浅慮な人間は嫌いなのだ。


 突然、リヒトが姿を現した。思った通り、真ん中首の頭上にいた。でもどうしてこのタイミングで?慎重な彼の性格からして、姿を現すのは勝利を確信した時しか…。


「ーー!! 茜!離れろ!」


 同調を使う余裕もなく思わず叫んでいた。


「フフフ、もう遅い。彼はまだ見どころがあるな」


「何を…グッ、ハッ!なんだこれは…」


 茜が膝をつく。


(ホーク!茜を乗せて僕のところまで運んできて!)


「ピイィィィィ」


 ホークは茜を翼の上に乗せて、低空で滑空する。無事回収できた。仰向けに寝せると、顔色が悪い。脈はめちゃくちゃだし、呼吸もおかしい。急にどうしたんだ。


「ヒュドラの毒…?でも、どうして?」


 シモンは自信なさげに呟く。


 毒…。もしかして…?


 茜の爪をよく観察すると、僅かにヒュドラの体液が付着していた。チンピラ盗賊達を一瞬のうちに人外にしてしまった凶悪な毒が頭をよぎる。


「茜!聞こえるか?聞こえたら、同調で答えろ!」


(うる、さいね。聞こえ、てるよ)


(ああ、よかった。よく聞いてくれ。毒を持つ魔物に変化出来るか?)


(出来るけど、こんな状態じゃあ、成功するか、分からない)


(いいから、やってくれ!このままじゃあすぐに死んでしまう)


「リ、発現(リベレーション)ーーラミア」


 洞窟内で見た蛇のような姿に変わった。ラミアは僕の感想だったけど、気に入って呼び方を変えたみたいだ。


 毒を持って毒を制す、という言葉がある。もし僕の見立てが正しければ、少なからず毒への耐性はあると思ったんだけど、どうだろうか。


(あれ?ちょっと楽になった…?体がまだ重いけど、これなら何とか動ける!)


 体を起こし、リヒトを睨みつける。


「ほう、まだ動けるか。評価を上方修正しなければな。想定の範囲内だがね」


「アンタは絶対、ぶっとばす。アサヒと二人で!」


 ふらつく体でリヒトを指差す茜。僕も参戦することが決まった。


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