84話 沼地ノ戦イ1
不定期更新になりますが、再開します。
行きたいたりばったりで、出たとこ勝負の展開になるかもです。
「…白衣?」
「む?君はまさか私と同郷か?これは驚いた。アイツ以外にもまだ居たとは…」
しまった。つい口が滑った。しかし、白衣の男は思考の海に潜っていったようだ。眼球が目まぐるしく動く。
「もしかして、君もか? いや、顔立ちは似ているが、纏う雰囲気がこの世界の人間だ。君は、チグハグだな」
興味が茜に移ったようで、全身を舐め回すように観察する。そして、最後に言ってはいけない言葉を口にする。
「あ?今なんて言った?」
「…まずい」
シモンはそう呟くとちらりと入口を一瞥した。退路の確認か?
「それはアタシのお父さんを侮辱しているのか?お父さんが暮らしたこの世界をあたしは大好きだ。アンタも私を除け者にするの?」
茜は目を大きく開いて、今にも飛びかかりそうだ。
「凄まじい魔力のうねりだ。まるで猛獣だな」
嵐と呼ぶべき魔力の奔流を目の前にしても白衣の男は極めて冷静だった。
「茜!落ち着いて!この男から色々聞きたいことがある!」
「アタシは家族を馬鹿したヤツは殺すって決めてるんだ。そこをどきな」
既に臨戦態勢をとっている茜と白衣の男の間に震える足で割って入る。何これ、すごく怖い。助けを求めるようにシモンに視線を送るが、シモンは目を合わせようとはせず下を向くばかりだ。心なしかさっきより入口に近づいている気がする。ちゃっかり自分だけ逃げ出す算段を立てているのだろう、抜け目のない男だ。
「君がそこまで怒る理由は分からないが、私に聞きたいことがあるなら答えてあげよう。お茶でも飲みながらね」
誰も油断はしていなかった。どう表現すればいいのか分からないけど、きっと一番近い感想は『いつの間にかそこに居た』だ。
「なっ!?」
茜は驚愕の表情で勢いよく振り向く。そこには、優雅にテーブルでお茶をすする男の姿があった。
「茜!撤退だ!こいつは得体が知れない」
シモンは声を張り上げた。僕と茜が固まる中でシモンだけが、この状況を受け止めていた。
「どこへ行くのかね?まだ話の途中なのに」
神出鬼没。
今度は入口のドアに背中を預けるようにして腕を組んでいる。誰にも知覚されることなく、この一瞬で移動したのか?ありえない。ただし、このありえない一連の出来事は逆に僕達を冷静にさせた。この世界には魔法、タレントがある。この男の能力なのだろうと予測を立てた。
「聞きたいことがある割に黙ったままじゃないか。では、私から自己紹介するとしよう。
私は『影澤 理人』。前の世界では、大学で研究員をしていた。何の因果か知らないが、『幻術士』の烙印を刻まれた時は愕然としたものだ。科学の頂きを目指していた私がどうして手品士のような力を授かったのだと自問自答を繰り返していたが、使ってみるとこれが中々に具合がいい。例えば、こんなことや…」
リヒトと名乗る白衣の男は一瞬、掌で顔を覆うと、次の瞬間、見知った顔がそこにあった。何度も見た。そう、そこには僕の顔があった。
「アサヒ!?」
「こんなこともできる」
次に顔を覆うと、今度はシモンの顔になった。
「げ!俺の顔だ」
シモンは顔をしかめる。
「面白いだろう? この世界は可能性の塊だ。ありえないなんて、あり得ない。想像力と努力で、何でもできる素晴らしい世界だ」
リヒトは一方的に話し終えると、さて、と仕切り直す。
「次は、君たちの番だ。同じ日本人なら、礼儀は大事だよね?」
視線が僕に集まる。仕方ないか。
「僕は、神山 朝日。一応、『勇者』ってことになってる。ずっと弟を探してるんだ」
「え、そうなの? 初めて聞いた」
茜は驚いた表情。
あれ、言ってなかったっけ? そう、僕は日本にいた頃からずっと行方不明になった双子の弟を探している。警察に捜索願を出してから一年以上も経った。誰もが諦めて、慰めの言葉をくれるけど僕は落ち込んでなんかいない。だって、あの弟が簡単に死ぬとは思えないから。
僕と弟がまだ十歳くらいの小学生だった頃、旅行先のキャンプ場で家族とはぐれて迷子になったことがある。周りは木々に囲まれた森の中、日は暮れ少し肌寒くなっていた。僕はお兄ちゃんなのに泣いてばかりいたが、弟は暫く黙っていたと思ったら、急に歩き始めた。仕方なく後を着いて行ったら、川に出て、その川沿いを下ったら無事にキャンプ場まで戻ってきたんだ。それくらい逆境に強い弟なんだよ。
「そうなんだよ。親はもう亡くなったから、唯一の家族なんだ」
「そう…あたしと同じね」
よかった、茜の気持ちが少し収まったみたいだ。
「勇者…? 実に興味深い。ちょうど研究成果のデータが欲しかったところだ。外に出たまえ。 報酬は…」
言葉を切ると、先ほどまでの空気は一変する。尋常ではない殺気が漏れ出す。
「君たちの命、だ。ハハハ」
そう言い残すと、リヒトの姿は消えた。
「「なっ!?」」
「どこまで人をおちょくれば気が済むんだ?許さない」
「茜、待って。あの男、リヒトの得体が知れない。どうせ入口は一つしかないんだ。ゆっくり作戦を立ててからここを出よう」
普段はやる気のないシモンが頼りになる。茜もシモンには大人しく従う。
「うーん、そうだね。シモンは間違ったことないからな。そうする」
「リヒトのタレントは『幻術士』って言ってたけど、幻術系の能力なら何かしらタネがあるはずだ。それに研究成果ってのも気になるね」
シモンはずっと考えていたみたいだ。逃げる算段を立てていると思ってたけど、謝ろう。
「まぁ、一目見てどうにもならなそうなら、逃げの一手だね」
「逃げるのか!?」
茜は不服そうだ。短い付き合いだけど茜の性格からして、正面から立ち向かいたいタイプだと思う。
「予想だけど、あの首輪。リヒトが大きく関与していると見て間違いない。あれを付けられたら、恐らくこちらの意思とは関係なく意のままに操られてしまうと思う。ただし、付けるには何か条件みたいなものがあるはずだよ。今俺たちがピンピンしているからね」
なるほど、一理ある。無条件に操れるのなら、リヒトの能力を使って、不意打ちであの首輪をつければいいだけだからね。
「茜は視覚以外の知覚手段を持つ魔物には変化できる?例えば、嗅覚の優れた犬とか超音波の反響で認識するコウモリみたいな」
「難しいことは分からないけど、ウルフ系ならいるよ」
「後は、村で留守番しているホークを呼べるかな?」
「出来るけど、なんで?」
「鷹は人よりも何倍も目がいいって聞いたことがあるんだ。確か、紫外線を見れるんだっけ? だから、何か分かるかもって思ったんだ」
「ふーん、よく分からないけど分かった」
茜は大きく息を吸い込むと、力一杯指笛を吹いた。
ーーピイイイィィィィィィ
洞窟の中で吹いて遠くにいるホークに聞こえるのか疑問だけど、茜は信じて疑わない様子。信用するとしよう。
その後もあーでもない、こーでもないと議論を重ね、気がつけば数時間が経過していた。
「外はもう夜だし、明日にする?」
突然、シモンから非常識な提案。
「そうしようか。ここは不気味だけど、雨風凌げるだけマシだし」
茜、どんだけたくましい子なんだ。
かの有名な佐々木小次郎と宮本武蔵の決闘において、心理的に有利に立つために、あえて予定の時間に遅れていったという説もあるくらいだし、それもありかな。
「これだけ時間が経っているのに、向こうから攻めてこないってのは、恐らくこの洞窟内では直接的な攻撃手段がないのかもしれない。という訳で、僕も明日で賛成。今日はゆっくり体を休めよう」
こうして洞窟で一晩、明かした。
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