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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第二章 魔王対決編
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83話 潜入


「ただいまー」


 チンピラ五人組が逃げ帰ったその日の深夜、シモンはいつもの緩い感じで帰ってきた。


「場所は分かったよ。ただ少しやっかいな場所にあるんだ」


「どこなの?」


 シモンは神妙な面持ちといった具合ではなく、軽い感じで答えた。気怠そうに髪をいじっている。


「湿地帯アルゴリスの中央部。そこの岩場にある洞窟がアジトだ。ちょうど怪物を見た噂があった辺りだね」


 フラグが立ってしまった。

 普通の人ならそんな噂、で一蹴する。でも僕は勇者だ。それまでの旅で必ずと言っていいほどフラグを回収してきた自信がある。

 今回も怪物との戦いは避けられない、と見てまず間違いはないだろう。


 人質救出に、怪物との戦い、と二方面での作戦だ。忙しくなりそうだ。

 準備だけは怠らないようにしよう。


「怪物!! 出てきてくれないかな〜?戦いたいな〜」


「戦いたくない! でも茜の期待は裏切らないと思うよ、悲しいけど」


「アサヒといると次々に楽しいことが起きるから飽きないね!」


 無邪気に笑う茜。

 彼女はこの世界が肌に合ってるのかもしれない。平穏な日々を繰り返す日本での生活は耐えられないだろう。


「とりあえず作戦会議を開こう」


 それから二日間にわたってあーでもない、こーでもないを言い合って、作戦を立てた。

 チンピラを追い返してから特に反応はないが、あまり悠長なことは言ってられない。いつ攻めてきてもおかしくはないのだ。


 完璧にはほど遠いけど、形は見えてきた。後はその場で、その都度対応していくしかない。臨機応変、当意即妙(とういそくみりょう)だ。








 出発の朝。


「それじゃあ、ちょっと行ってくるよ」

「行ってきます!」

「「頑張ってな!!子供達を頼んだよ!」」

「ピー!!ピィ…」


 ホークは村にお留守番。シモンの話では、盗賊のアジトは洞窟だ。閉鎖的な空間でホークは満足に動けないかもしれないからね。ホークは寂しそうに別れの鳴き声を上げている。

 シモンは率先して先頭を歩く。道のりは頭に入っているようだ。足取りに迷いがない。


「シモンは何でも出来るんだよ」


 なぜか茜が誇らしげに胸を張っている。


「自慢できるほどじゃない。何でも出来るけど、何にも出来ないよ」


「それはどういう…」


「シッ! アルゴリスに入る。

 ここからは怪物や盗賊に出会すかもしれない。取り決め通り、声を出さずにサインで合図するよ」


 親指を立てて了解のサインを送る。



 霧が出てきた。

 アジトに近づくにつれて、霧がだんだんと濃くなっていく。

 なるほど。隠れ家にはもってこいだ。


 霧の中を目印もなく歩いていると方向感覚が無くなっていくみたいだ。しかも、湿地に足をとられてかなり歩きにくい。シモンが歩いた足跡をなぞるように歩くと、だいぶマシになった。


 シモンの背中を見て後をついていく。シモンはどうやってるんだろう?追跡に秀でたタレントを持ってるのかな。

 帰ったら後で聞いてみよう。




 休憩を挟みながら、半日ほど歩いた。ふとシモンの足が止まる。


 こちらを振り向き、奥にうっすらと見える岩場を指差している。あそこがアジトか。最後に小休憩を取ったら突入だ。


 声を出さずに黙々と携帯食を腹に入れる。携帯食は、穀物をボンドのようなもので固めてある。持ち運びしやすいように正方形だ。三人でモソモソとかじる。


 一足先に食べ終えたシモンが半身を乗り出して洞窟の中を覗く。


 二本指で進行方向を指す。これは”進め”の合図。手に持っていた携帯食を急いで口に放り込む。茜は既に食べ終わっていた。


 シモンの指示に従って奥へと進むと、曲がり角で、掌を突き出した。これは”止まれ”。

 一瞬のうちに素早く覗くと、先の通路に人影が見えた。巡回の盗賊だろうか?やけに厳重だな。


 シモンが目配せすると、茜は頷いた。

 一瞬、茜の魔素が膨れ上がったかと思えば、スルスルと音もなく進み始めた。文字通り、茜の両足は蛇のそれになっていた。上半身は人の体を持ち、下半身は蛇。まるで、神話に登場するラミアという怪物の姿そのものだった。


「ーー!!」


 僕が呆気にとられていると、茜はあっという間に見張りの後ろに回り込み、静かに締め落としてしまった。脱力した体を茜に預けるように倒れこむ。流れるように、怖いくらい鮮やかな手口だった。



 茜が手招きして、僕とシモンを呼んでいる。なにやら動揺しているみたいだ。


「これは…!!」


 巡回の警備は女性だった。それは、盗賊業を生業(なりわい)としてる風ではなく、一般的な女性。それも村人と言われた方がしっくりくる、そんな雰囲気だった。


 ただ一つだけ。女性には不釣り合いな禍々しい首輪をつけていた。首輪の中央には、漆黒の魔石が嵌められ、禍々しい雰囲気はその魔石から漂っているように思えた。


「と、取れない」


 女性から首輪を外そうとしても、びくともしない。特別な外し方があるのかもしれない。目が覚めて仲間を呼ばれないように手足を縛り、その場を後にする。目的はリーダーを倒して、人質を解放することだ。ここで貴重な時間を使ってはいけない。


 それから何度か見張りを倒した。やはり全員が首輪をしていた。


「この首輪が怪しい」


 何事かと思えば、眉間にシワを寄せ、難しい顔をして茜はそう推理する。


「さすが茜、鋭いね」


「ふふん」


 シモンはすかさず茜を褒める。誰がどう見ても首輪に秘密があると考えるのが、自然な流れなのだが、そんな事はおくびにも出さない。



 暫く進むと、実験室のような部屋にたどり着いた。生々しい血痕の後がある。ここで数々の人体実験が行われてきたのだろう。人間の体の部分的な標本が並んでいる。おぞましい。人の(ごう)はここまでやるのか。


「何をしている?誰の許可で入っているのだ?」


 不意に後ろから声をかけられ、振り向くと白衣の男が現れた。あまりにも悲惨な研究に気を取られて、不覚にも気がつかなかった。


 読んでいただきありがとうございます。

 久しぶりの投稿で恐縮なのですが、一旦この小説を凍結します。


 10/15から別の小説を書き始めました。今後はそちらを書いていきます。タイトルは「ダンジョンから愛をこめて」です。並行で進めるかは、まだ未定です。将来的に全体を書き直ししたい気持ちもあります…。


 グダグタで申し訳ないのです。よろしければ新しく書き始めた小説をお楽しみください。

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