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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第二章 魔王対決編
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81話 茜ノ能力


「ねーアサヒ、あたし達はどこに向かってるの?」


 僕達は街道を歩いていた。僕と茜が前を歩いて、後ろからシモンがついてくる。ホークは空を飛んだり、茜の肩に止まったりと自由だ。


「僕に考えがある。

 魔法ー特に土魔法が使える仲間が欲しい。僕達は前衛ばかりだからね。

 ローズさんに聞いたんだ。ヤマトから北に進んだところに、土魔法使いの村があるって」


「ヤマトの北ってことは、アルゴリスを通るな…」


 シモンが会話に加わってきた。


「「アルゴリス?」」


 僕と茜の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。


「湿地帯の名前だよ。前にローズさんから教えてもらったの忘れたの?茜」


「えーどうだったかなー! そう言われてみれば、そんな気が…やっぱり思い出せない!シモンに任せた!」


「はいはい。湿地帯アルゴリスには、底なし沼とかの危険もあるけど、それよりももっと恐ろしい怪物が住んでるんだ」


「怪物なんて、あたしに任せなさい!」


「ふふっ、茜が変身したら怪獣大決戦だね」


「なんだって?」


 冗談を言ったつもりだったのに、シモンはあちゃーって顔をして頭を抱えている。


「ごめんなさい。何でもないです」


 素直に謝るのが一番。守さんの日記にも書いてあった。まさかこんなに早く役に立つとは。


「ただここ数年の目撃例はないから、もうどこかへ住処を変えたって噂もある。用心に越したことはないけど」


 これはフラグか。いやいや、そんな頻繁にトラブルに巻き込まれてたまるか。


「シモンの言う通りだ。入念に準備をしていこう。そのアルゴリスの近くに補給できる集落はないの?」


「そこそこ大きい村があったと思う。名前は忘れちゃったけど」


「よし!そこに向かおう!」


 目的地は決まった。

 と、その前に。


「これから魔物との戦闘があるだろうから、先にパーティを組もう」


『僕のパーティに入ってくれない?』


「何を今さら、いいよ」

「ん?いいよ」


「僕の能力を使う儀式みたいなものだよ。戦いになったら分かると思う。色々な力が強化されているはずだよ」


「相変わらず勇者の能力は破格だな〜」


 相変わらずなのはシモンの方だ。呑気なものだ。一方で、茜は目を閉じて集中していた。


「本当だ…。体内の魔素量が増えてる。しかも扱い易くなっている。

 これなら今まで魔素が足りなくて出来なかった新しい組み合わせができるかも…。

 早く実践で試してみたい!」


 凄いのは茜だ。

 魔素の操作だけで強化を実感できるなんて。

 シモンも黙って集中している。何も言わないところを見るに、上手くいかなかったんだろう。



「早く戦いたい! 次に魔物が出たら、あたしが倒すからね!」


「分かったよ!だから落ち着いて!」


 その先の道中は、もう茜無双だった。


「前方にゴブリン発見!二体!」


 僕がリーダーっぽく大声を出す。


「任せて!」

「ゲギャッ」


 短い悲鳴を上げて一撃で沈むゴブリン。


「今度は左方に、ワイルドウルフと…なんだあれ? トラみたいな魔物!二体!」


「あたしに任せなさい!」

「グルルルーギャッ!」


 二体同時に倒れた。速そうな魔物だったのに、茜のスピードに全くついていけない。


「あ、魔物「あたしに!」」


「あ、「あたし!!」」


 僕とシモンはやることがない。ただ後ろで傍観していた。

 もう戦闘は茜一人でいいんじゃないかと思えたほどだ。



 それにしても魔物が多い気がする。ヤマト付近ではこんな頻繁に遭遇しなかった。警備隊の働きで魔物が駆逐されたのか、それとも別な理由があるのか。


 そう言ってるそばからまた魔物だ。今度も複数いる。


「茜!また魔物だ。狼みたいな魔物の群れが見える。

 しかも一匹だけ二回りは大きい個体がいるよ!ボスかな?」


「うーん、いい感じじゃん! ちょっと試したいことがあるだよね!」


 茜が深呼吸を繰り返す。集中してるみたいだ。


発現(リベレーション)ーービースト!」


 身震いすると、足の爪先から徐々に変身していく。間近で見ると面白いな。


 今回は明らかに前回と違う。

 前に見た変身は、四肢や体の部位に魔物の一部を転写したような姿だった。あくまでも体のベースは人だ。


 今は、新種の魔物といった方が近いかもしれない。人型ではあるけど、全身が体毛で覆われ、肌は見えない。獣人とは違う、より獣に寄った犬のような顔つきに。さらに、尻尾まで生えている。


「出来た!! 勇者の、アサヒの力はすごいね!ちょっと行ってくる」


「「気をつけて〜」」


 静止状態から一気に加速すると、あっという間にその背中は小さくなっていった。

 僕とシモンはハンカチ片手にお見送りだ。



 狼の群れのボスは、小高い丘の上から茜を見下ろしていた。


「あんた強そうだから、あたしの実験台にしてあげるよ」


 茜が不敵に笑う。


「グルルル、ウオオオォォォン!!」


 茜の宣戦布告に対して、犬歯を剥き出しにして応えた。

 すると、群れが一つの生き物のように動き出した。


「ふふっ、思ったより楽しめそう!」


 どちらが怪物か分からなくなってきた。

各個体がうねりを作りながら、茜を飲み込もうと突進してきた。

 突如として、茜を見失う。オオカミたちとは、速さの次元が違う。

 獲物を見失った狼達は動揺。どこを目指していいか、分からないみたいだ。

 停滞。群れは足を止めてしまった。


「止まるのは良くないね〜。ハッ!」


 群れの横っ面に茜は現れた。

 手を当てて当たりをつけると腰を深く落とし、正拳突きのように拳を突き出した。


「オスッ!」


 凄まじい衝撃が群れを襲う。


 ボスはここで悟った。こう見えても死線は何度も乗り越えてきた。群れのボスになるために毎日同胞と戦いに明け暮れた。自分よりも格上の個体と何度もやりあった。その度に勝ち残り、今の地位まで登りつめた。驕りがなかったとは言わない。どんな相手でも逃げる方法はいくらでもあると思っていた。

 目の前の赤き悪魔に出会うまでは。


 群れの確認を行う。

 一撃。

 たった一撃で半数は行動不能に陥った。このまま固まっていては、的でしかない。


「ウォン!」


 短い合図と共に群れは散開する。

 決断してからは早い。常に危険と隣り合わせだ。決断、即実行は当たり前だ。


「へぇ、いい判断だね」


 僕は群れのボスの判断に思わず声が漏れた。遠くから見ると、全体が見渡せる。互いが互いをフォローできる距離を保っている。練度も高い。

 この群れならば、この辺りに現れる魔物であれば大抵は対応できるだろう。

 不運なのは、茜に出会ってしまったこと。すぐに逃走の一手を取らなかったことだ。


 群れ全体が青白い光に包まれると、少し速さが増したような気がする。茜が一体ずつ確実に数を減らしていくにつれ、光は強まっていく。


「茜! 取り巻きを倒すと、残った群れが強化されるぞ!」


「分かってる!その方が楽しそうだからやってるの!」


 頼もしさと同時に危うさを感じた。今はいい。格上には通用しないやり方だ。しかも追い詰められた弱者こそ予期しない一撃を放つこともある。


「油断するな! これは命のやり取りなんだぞ!」


「はいはい、分かってるよ。 もうアサヒもローズさんみたいなこと言うんだから」


 群れの数が残り数体まで減ったところで、それは起きた。

 余程追い詰められて、自我が崩壊したのか。それとも考えたくはないが、理性を保ったままの行動か。


 共食い。


 ボスが群れの個体を次々と喰らい出した。食らう度に光は増し、体つきも一回り二回りとドンドン大きくなった。肥大化した体は速さも増している。逃げ遅れた群れの個体はボスの糧となっていった。


 恐らく元々持っていた能力ではないだろつ。死の淵に立たされることで発現した能力だ。魔物の生存本能が為せる技なのだろう。


 茜も黙って見ていた訳ではない。

 個体を倒していたが、ボスが群れを操り、逃げ道を塞ぐように誘導していたため思うほど減らすことが出来なかった。


 仲間の命を食らった狼は、茜を見下ろすまでに巨大化していた。

 その濁った目で見つめる。


「あたしが、楽にしてあげる」


「ヴヴゥゥ、ヴォン!!」


 それが戦闘の合図だった。

 両者が同時に動き出す。


 鋭い爪の応酬。

 ボス狼は噛みつき、尻尾なぎ払いと多彩な攻撃を仕掛ける。それを茜は余裕を持って避ける。


 茜が体勢を低く地面を這うように、走り出す。ボス狼は懐に入られないように必死に迎撃するが、それらをすべて掻い潜った。


「はああああぁぁ!」


 腹の下に潜り込むと、気合いと共に連撃を叩き込んだ。鈍い音がここまで聞こえてきそうだ。一撃一撃が重い。それを急所にたた込まれた。

 目の前の光景は当然の結果だった。



「グフッ、グルル、グフッ」


 口から断続的に血を吐き出す。

 そんな弱った狼を茜は見つめていた。彼女の中で何か思うところがあったのかもしれない。


 茜はしゃがみ込むと、足首に巻いていたアクセサリーは外した。


「アサヒ達はそこに居て!暫くあたしに近づかないでね」


「おーい!どうしたんだ!?」


「アサヒ、茜の言う通りにして。久しぶりに見るな」


 茜に駆け寄ろうとすると、シモンに止められた。


 魔素が茜を中心に渦巻いている。

 いや、逆だ。良く見ると、茜に向かって魔素が集まってきている。

 いったい何が始まるんだ。



「そんなに強くなかったけど、あんたの想いは伝わった。力を貰うよ。あたしの中で生き続けて」


「グルルル、クゥン」


 魔素の本流。荒々しく吹き荒れるその中心には、茜とボス狼がいる。

 一気に膨らんだ次の瞬間、台風が過ぎた晴天の空のようにすっかりなくなってしまった。

 そこに残されたのは、茜と最初に見た大きさに縮んだボス狼の亡骸だった。


「さてさて、どんな能力(ちから)かなー?

 ふむふむ、”指揮者”と”同調”か。

 うーん、あたし向きじゃないな。消しちゃおうかな」


 茜のところまで駆け寄ると、何やら悩んでいる様子だった。


「どうしたの?」


「さっきのボス狼から能力を吸収したんだけど、あんまり役に立たなそうなんだよね。溜めておける数にも限りはあるから、消そうか迷ってるの。でも、さっきかっこいいこと言っちゃったからな〜」


 頭から煙が出そうな勢いだ。


「吸収!?

 すごいな…、それでどんな能力なの?」


「んーと、”指揮者”は、発動中にその人からの指示に従うとちょっと強くなる。

 ”同調”は特定の人と波長を合わせて意思疎通をする。ある程度、離れていてもできるみたい。

 あんまり強くないよね?」


 これは完全に僕向きの能力だ。パーティメンバーを強化する僕の能力とのシナジー効果もある。茜の感覚だから、どのくらい強化されるかは分からないけど、それでも”同調”だけでもかなり強い。言葉を使わずに離れた相手と意思疎通出来ることの素晴らしさ。

 単独で戦ってばかりの茜には、いまいちこの強さがピンとこないんだろう。相手を倒す力をだけが、強さではない。


「茜! これは絶対確保して! 僕にとってはかなり強い能力だよ!」


「え、そうなの!? 今消すところだった…、アサヒがそこまで言うならとっておくよ」


 茜の能力の一端が分かった。

 魔物の特徴を自身に反映させるのと、倒した相手の能力の一部を取り込む、この二つが主な能力なんだろう。

 改めて思ったけど、強すぎる。勇者級だ。本人に自覚はないみたいだかど、王都へ行けば軍に引っ張りだこになるのは間違いない。


 シモンは付き添い的な立場だから戦力としてはカウントせずに、茜しか誘えなかったとしても、それでもお釣りが来るくらい大金星だ。


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