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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
8/91

07話 移住

 異世界生活 16日目開始。


 夕方に辺境の村に到着した。

 この村に受け入れてもらえるかな、少し不安だ。転校生が初めて教室に入る気分だ。



 村の中に入り、辺りを見渡す。

 薄暗くなってきたが、まだ村全体が見える。

 防壁のような立派なものなく、動物避けの柵のようなもので村の周りを囲んでいる。

 カザンは村の中央にある広場まで行くと、高台に設置されている鐘を鳴らした。


 カン、カン、カン


 すると、続々と村人達が集まってきた。五十人程度だろうか。村というには規模が大きい。


「「「カザン村長!!」」」


 村人達はカザンに駆け寄りそう言うと、安堵の表情を浮かべた。

 安心感からか泣き出す女性もいた。カザン、罪な男だ。


 ちょっと待て、今、村長って言ったか?!


「村長はやめろ。 いつもみたいにカザンと呼んでくれよ。 心配かけてすまない、みんなよく集まってくれた!」


 カザンが声を張り上げると、村人達は一斉に静まり返った。皆が真剣な表情だ。


「俺が無事だったのは、そこにいる守に助けられたからだ! こいつには小さい赤子がいる。

 俺からの頼みだ、この村の仲間に加えてやってくれないだろうか?」


「「もちろんだ! 頭上げてくれ、カザンさん!」」


「ありがとな、みんな! 守、なんか話せ!」


 え、こんなあっさり決まっていいの?

 どんだけ人望あるんだ、この男は。

 村人達からはありがとう、ありがとうと、口々にお礼を言われる始末。手を合わせて拝んでいる人までいる。

 からの、いきなりの無茶ぶり。営業で鍛えたトーク力を披露してやろう。


「只今、ご紹介に預かりました大和 守(やまと まもる)と申します。この子は(あかね)。生まれて二カ月目のかわいい女の子です。 そしてこいつは、ウルフ。大事な相棒です。 日本からこの世界に来て、二週間くらいの不束者ですが、何卒よろしくお願いします!」


 決まった。

 ちょっとありきたりすぎた?硬すぎたかな?


 静寂、反応がない。

 滑ったか。

 一発ギャグでもやった方がよかったか?


「お前さん、召喚者なのかい?」


 妙齢の中年女性から話しかけれる。

 カザンと同じ歳くらいだろうか、美人の面影がある。この時は分からなかったが、後から聞くと、アンナさんという名前だそうだ。


「…はい、たぶんそうなんだと思います。この世界に呼ばれてからは、暫く森の中で生活してました」


 村人達は驚きの声でざわついている。あの森で…と絶句している人は少なくない。


「みんな聞いたか? こいつはあの"魔の森"で、二週間近く過ごしていたんだ。強さはこの俺が保証する。

 そして、こいつは『狩人候補』として、見込みがある」


「「おおー!!」」


 こうして、俺達家族は村人達から大歓迎を受けて、村の仲間として受け入れられることとなった。

 まんまとカザンに嵌められた訳だ。

 狩人を引退したと言ってたしなぁ、やれたぜ。



 集会を解散した後、カザンの家に招かれた。

 先ほどの女性、アンナさんはカザンの奥さんらしい。このリア充め。

 カザンとアンナさん二人から、改めてお礼を言われた。


「さっきはすまなかったな、前もって伝えてなくて。お前には驚かされっぱなしだったから、たまにはこっちから驚かせたくてな」


 カザンは、悪戯小僧のような顔でそう言うと、すかさずアンナさんに後頭部を勢いよく引っ叩かれた。


「アンタは昔から、そういうところなんだよ!」


 軽快な音が響いた。

 もっと言ってやって下さい、アンナさん。


「もういいよ。 驚いたけど、世話になることには変わらないし。仕事も貰えそうでちょうど良かったよ」


「お前のそういうところ好きだぜ。それより、色々と渡すものがある」


 カザンはそう言うと、立ち上がり家の外に出るよう促した。

 村の外れまで連れてこられた先には、少し小高い丘の上に一軒のこじんまりとした家が建っていた。

 あまり大きくはないが、二人と一匹が暮らすには充分だろう。見た目はログハウスのような、木の暖かみがある。いい家だ。

 中に入ってみると、所々埃を被っているが、家具も揃っている。掃除をすれば、すぐに住めるだろう。


「この家をお前にやる。今ここは誰も住んでいないから、好きに使うと良い。細かいことは、アンナに聞け」


「昔は息子夫婦が住んでいたんだけどねぇ。もう帰ってくることもないし。自由にしておくれ」


 アンナさんは、どこか遠くを見るように言う。カザンが労わるようにアンナさんの肩にそっと手を置く。


 詳しくは聞かないでおこう。

 誰にでも思い出したくない辛い過去はあるものだ。俺だって彩香のことを根掘り葉掘り聞かれたくはない。

 時間が必要なんだ。


 「それからこれだ。

 俺が前に使ってた物だが、手入れすれば、まだ使えるはずだ。」


 テーブルの上に、ドンと置かれたそれは、狩人装備一式のようだ。

 まず最初に目を引くのは大きな弓。それからカザンが持っているようなナタ武器。最後は動物の皮でできたような防具一式だ。


「こんなに…何から何までありがとう」


 人の優しさに触れ、涙腺が決壊しそうになる。


「今日はもう遅いから、うちに泊まってきな。

 明日になったら、『マリア』を紹介するからね。 あんたが今、一番必要なものだよ」


 アンナさんは優しい母親のような雰囲気がある。カザンは頼りになる父親だ。物心つく前に他界してしまったため、俺に両親は居ないが、居たらきっとこんな感じなんだろうな。

 この夫婦に生まれた子供は幸せだったことだろう…。

 カザン宅に戻り、豪勢な夕食を食べ、その日は就寝した。茜も初めての場所に戸惑っていたせいか大人しかった。

 アンナさんが言ってた必要なものって、なんだろう。





 翌朝、約束通りアンナさんの案内で、マリア宅へ向かう。茜も一緒だ。

 マリアさんの家は貰った丘の家から、ほど近いところにあった。

 扉をノックすると、男の子の赤ちゃんを抱いた女性が出迎えたくれた。


「あら、アンナさん、こんにちは。昨日は集会に行けなくてごめんさいね。鐘の音に驚いて、この子がグズっちゃって。 隣の方はどなたかしら?」


 そこには、聖母がいた。


 金髪で肌は白く、長い指先は白魚のように美しい。

 子を抱きながら微笑む姿は、まさに聖母のようだ。


「聖母様…」


 しまった、思わず声に出た。


「ふふふ、面白い人ね」


 ケラケラと笑う姿もまた美しい。


「馬鹿なこと言ってないで。この人は守。昨日から村の一員に加わったんだよ」


 ペコリと軽く頭を下げる。


「それで、マリア、ちょっとお願いがあるんだよ。 この子に乳を分けてやってくれないか? こいつはこう見えて、うちの人が認める狩人候補なんだ。 奥さんを亡くしてねぇ」


 なんですと!?この聖母から母乳をいただけるので!?

 粉ミルクも残量が心許なくなってきたし、ぜひとも、お願いしたい。


「狩人候補…」


 そう呟くと、物思いにふけるマリアさん。その姿はまるで一枚の絵画のようだ。

 ダメ押しに、土下座の準備を始めたところで。


「ごめんなさい、ボーっとしてしまって。

 もちろん良いですよ。 お乳以外にも困ったことがあれば、何でも言ってくださいね。

 私も独り身なので、力仕事があればお願いしますね、狩人候補さん」


 そう言って、ウィンクしながら快く引き受けてくれたマリアさん。

 俺は心と体で、渾身のガッツポーズをした。

 ふと、不機嫌そうな彩夏の顔が脳裏をよぎる。


 いや、違うんだ。

 違わないけど、これはミルクのためであって。

 えーと、ごめんなさい。


 何となく怒られた気がしたので、心の中で謝っておいた。




異世界生活 17日目終了

村で受け入れてくれてもらえることに。

カザンに嵌められ、狩人候補になった。

聖母に出会った、母乳ゲット。

それから彩夏、ごめんなさい。


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