78話 誘引
道中、シモンくんを質問攻めにしてみた。
「この町はすごいね。機能的というか、合理的というか」
「そうでしょ〜?この町は守さんとお母さんが色々考えて作ったんだよ!
守さんが死んじゃってからは、お母さんが頑張ってここまできたけど、本当に大変そうだった。俺も手伝ったけど、全然役にたたかなかったよ…」
少年は自慢げに話し始めたが、段々と尻すぼみになってしまった。
「そ、そうだ。マモル村はここから近いの?」
「結構近いよ。大人の足なら二日くらいかな。他の村から見てちょうど真ん中にあるからね」
慌てて話を変えてみたところ、興味深い話が聞けた。
「他にも村があるんだ?」
「そうだよ。ヤマトを除いて全部で四つの村に囲まれていて、その中心にヤマトがあるんだ。
小麦が取れたり、魔石や鉱石、造酒が盛んだったり、村ごとに特徴があるんだ。これから行くマモル村は狩りが行われていて魔物肉や魔石が特産だよ。珍しい魔物肉って、本当に美味しいんだ!食べたことある?」
「王都で一度だけ食べたよ。凄く美味しかった」
面白い町の作りだ。衛生村である四つの村が得意な産業に特化し、中央のヤマトでそれを集積して売る。実に理にかなったやり方だ。
今気づいたけど、この街道、凄く歩きやすい。明らかに舗装されている。
ヤマトまでの道のりは街道であっても悪路であった。そんな道を歩けば実際の距離は短くとも、多くの時間がかかってしまう。
ヤマトと周辺の村は、この舗装された街道のおかげで、円滑に物流を回しているのだろう。『道』に目を付けるあたり、これも守さんの入れ知恵なんだろうな。
そんな話をしながら進んでいると、あっという間に目的のマモル村へ到着した。
村の外観は、外敵から守るための防衛設備がしっかりと整っている。村というよりは前線基地と呼んだ方がしっくりくる。
『魔の森』にほど近いこの村は、頻繁に魔物が現れるため、戦える人が多く住んでいるらしい。
シモンの説明を聞いていると、前から中年くらいの男性が歩いてきた。
「お〜、シモンか!よく来たな。お客さんかい?」
村の門を潜ると、気の良さそうな村人から声をかけられた。
「おっちゃん、久しぶり!この人達は勇者とそのお付きなんだぜ?
ちょっと茜に用があってさ。茜は『狩り』?」
「な、なんと!?勇者様御一行でしたか!あ、あまり粗相のないようにな。
ああ、茜ちゃん達は狩りに行ってるから、戻るのは夕方だろうな」
「げ!そしたら、茜の家で勝手に休んでるよ。
もし夕方に茜と会ったら、家に上がってるよって伝えといて!」
「わかったよ。
それでは勇者様、何もない村ですがごゆるりと楽しんでいってくだせえ。では俺はこれで…」
そそくさと踵を返して、引き上げていった。なんだか腫れ物として扱われているようで気がひける。
※
村はずれに小さな家が建っていた。何人もは住めそうにないけど、二人くらいならちょうどいい大きさだろう。
そこにシモンが遠慮せずに入っていった。
「おじゃましま〜す! あれ、ニーナ姉もいないのか…。じゃあ俺は茜が帰ってくるまで昼寝するから、後はよろしくです」
シモンは奥の部屋へと行ってしまった。まるで自分の家みたいだな。それだけ何度も通っているってことだろう。
「じゃあ、私は珍しい魔物肉を求めて散歩してきます」
「…カタリナを一人にすると、怖いので一緒についていきます」
カタリナとミハエルは村の中を散策するそうだ。僕も混ぜて欲しいけど、茜ちゃんが帰ってきた時に肝心の僕が居ないのはまずい。
二人を送り出した時の僕は、羨ましそうな顔をしていたと思う。
あぁ、暇だ。
家の中を見渡すと、生活感がある使い込まれた道具の他に、真っ黒い異質な鎧が飾られていた。
鎧と一緒にノートが飾られている。日本で一般的に広く売られているキャン○スノートだ。何気なく手にとって開いてみた。
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異世界日記 1日目
なんか知らん世界に転移したみたい。
イケメンにはなれなかった。
娘ちゃんはまじ天使、ウルフはもふもふ。
明日は探索じゃあああ!
日記ってこんな感じだっけ?
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日記だ。しかも守さんがこの世界に転移してからのことが書いてある。僕とは違い、自力で生活を立て直したんだ。まだ触りしか読んでないけど、大変な苦労をしたんだろうな。
「ダメだ、人の日記を読むなんてマナー違反だ。でも、気になる。
ちょっとだけなら…」
こうして僕は何気なく開いた日記に没頭し、気づけば夕方になっていた。日記に書き殴られていた守さんの心の声は、会ったことがないにもかかわらず親しい友人のように感じた。
この日記から感じた守さんの人となりは、数々の英雄的偉業から連想する完璧超人ではなく、人間臭くて行き当たりばったり。だけど、どこか憎めない、広い器を持っている。そんな印象だった。
ふと、あるページで手が止まる。
そのページを何度も読み返した。
「なんてことだ…」
今後の方針に影響を与えるくらい衝撃的な内容だった。
少し整理する時間が欲しい。
そう思った矢先。
玄関の扉が開いた。




