77話 来訪
ローズは玄関の扉をノックする。
女性から教えてもらった家に着いた。
「ローズです。勇者一行をお連れしました。折り行って、ご相談があります」
「はーい。あら、ローズちゃん!それにみんなも! 狭くて申し訳ないけど、皆さん入って。お茶にしましょう」
町長の玄関を開けてくれたのは、先ほど案内してくれた優しそうな女性だった。町長の奥さんってオチはないよね?
「お久しぶりです、町長」
「前みたいに、マリアさんって呼んでくれていいのよ?ローズちゃんは頭が硬いんだから!」
「いえ、そう言うわけには…」
あのローズがタジタジだ。やっぱりこの人がこの町のトップなんだ。
マントスやヴォルガが大人しい。出されたお菓子とお茶に夢中だ。それに、カタリナも。
「あら、そちらの方たちが勇者様? さっき話しかけられたときは驚いてしまってごめんなさいね。
その黒髪が、昔を思い出してしまって…」
マリアは、記憶を辿っているかのように宙を見つめていた。
そういえばこちらの世界で黒髪の人に出会ったことはなかった。結構珍しいのかもしれない。ってことは、守さんも黒髪だったのかな。
「先ほどは急に話しかけて驚かせてしまい、すみませんでした。
僕達がヤマトに来た目的は、魔王を一緒に倒す仲間を見つけるためなんです」
「魔王、討伐ですか…。
昔ならまだしも今では、皆さん大事な役割を任されていますからね。
個人的にお願いして合意すれば、町長としては問題ありませんよ。最近は安定していますから」
町長から許可がおりた。
僕は立ち上がり、声を張り上げる。
「どなたか魔王討伐のために、同行してもらえませんか!?」
僕はテーブルに着いているマントス、ヴォルガ、ローズを見渡してそう言った。
しばしの沈黙。
そして、苦虫を潰したような顔で全員から断られた。
「正直、魔王は憎い。今すぐにでも一緒に魔王の奴をぶっ飛ばしてやりたい。
だがなぁ…」
マントスはヴォルガと目を見合わせる。ヴォルガは小さくて頷いていた。
次の瞬間、勢いよく玄関の扉が開かれた。
「父ちゃーん、母ちゃーん!どこ行ってたんだよー!」
慌ただしく四歳くらいの男の子が入ってきた。
「モロガ!! ドナウおじさんと遊んでなさいって言ったでしょ!」
「イデッ! だって、おじさんすぐ疲れちゃってつまらないんだよぉ」
ヴォルガから拳骨と共に雷が落ちると、モロガは口をとがせて、いじけてしまった。
「これが理由だ。今なら守があんなに必死になって、町の発展にこだわっていたかが分かるぜ。子供の、茜のためだったんだな。
俺もモロガのためなら、何だってやる。俺がこんな気持ちになるなんて、親っては不思議なんだなぁ…」
子供がいたのか。
ヴォルガとマントスの二人がいてくれたら心強かったけど、それなら強くは言えないな。ローズはどうだろう。
「私は、守さんと約束しました。町のために尽くす、と。
守さんの仇である魔王は憎い。ですが、それ以上にこの町は大切なんです。私が事前に脅威を察知しないと、みんなが危険にさらされてしまう…。
なので、私は、お断りします」
ローズは真摯に、真面目に答えてくれた。不器用な人だなと思ったけど、この実直さは好感が持てる。
「そうですか…残念です」
さて、どうしようか。振り出しに戻ってしまった。強者の噂を聞いて、地道に誘っていくか。一度、王都に戻って誰かに相談してみるのもいいかもしれない。
頭を悩ましていると、マリアさんからある提案を受けた。
「たぶん、気分を悪くするかもしれないんだけど…」
マリアさんはそう前置きをして続けた。
「守さんの一人娘の茜ちゃんを誘ってみてはくれないかしら? あの子は今、過去に囚われているわ。そろそろ前に進む時期だと思うの。
あの子はマモル村にいる。村へは息子のシモンが案内するわ。茜ちゃんは気難しい年頃だけど、シモンなら昔から一緒に育ってきたら心を許すと思うの。どうかしら…?」
「え!?俺? 茜の扱いなら、俺が一番だと思うけど…、疲れそうだなぁ…」
テーブルにもつかず、部屋の隅で無関係を貫いてきた少年。マリアさんの子供だったんだ。なんだか効率を求める現代っ子みたいな印象を受ける。
そんな少年、シモンの案内でマモル村の茜に会いにいくことになった。




