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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第二章 魔王対決編
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71話 邂逅


 殴られたお腹に手を当て、回復魔法を施しながら立ち上がる。レイテに比べれば未熟だけど、やらないよりはマシだ。


「ふぅ、少しは痛みが和らいだ」


「ほう、あの攻撃を受けてまだ立ち上がるか!やはり勇者はそうでなくてはな!」


 ハルピュイアは嬉しそうだ。

 一気に距離を詰める。壊れた盾は捨てた。直剣を両手で握りしめる。

 ハルピュイアの攻撃。

 速い。剣の腹で受けたら、折られる。

 角度をつけて受け流す。受け流す、受け流す。今だ。

 突きを急所に繰り出す。突きは外れても体勢が崩れにくく、隙が少ないからだ。

 くっ、防がれた。視線で狙いがバレていたかも。反省、体全体を見るように修正。

 徐々に当たるようになってきた。ただし、決め手に欠ける。こちらの切り札は一度きり、チャンスを待つんだ。

 

 細かくステップを踏む。

 踏み込みは鋭く、思い切りよく。

 戻しは素早く、次の動作に移れるように。


 攻撃の応酬、それは研鑽され高みに登る感覚。

 ハルピュイアの体が一瞬泳いだ。

 怪我の影響か、それとも罠か。いずれにしても乗るしかない。勝利はリスクの先にある。

 迷いを捨て、一気に踏み込む。


「信じていたぞ。お主は見逃さないと。



 風魔法『風の十字架(ダウンバースト)』」



 それは陽動だった。

 突風が頭上から叩きつけられ、地面に張り付けにされる。

 ハルピュイアが拳を振りかぶる。来る。



身体強化(フィジカルブースト)!!」


 ブチブチと筋肉が切れる音がする。無理やりに強化された体から悲鳴が上がる。


「いけええええ!!」


 一閃。

 上段から剣を振り抜いた。


 正面から受けたハルピュイアは、一呼吸、遅れて倒れる。




「グフッ…、見事」



 戦いに、勝った。


 だけど、もう限界。

 ハルピュイアと並んで倒れる。

 大の字に寝そべる。ダメだ、全然動けない。

 ああ、空がきれいだ。洞窟の中なのに、どういう原理なのだろう。

 もう目も開けてられないや。




ーー風魔法『祝福の歌(ブリージングソング)


 僕に、そんな声だけが聞こえた。

 心地よい音色が響き渡る。体が動く、そればかりか体調がいい。

 目を開けると、そこには完全に回復したハルピュイアを筆頭に、ハーピィ逹が左右に並び扉まで道を作っていた。

 ハーピィ逹の美しい歌声、ハルピュイアの力強い声が混ざり合い調和している。いつまでも聴いていたくなる。


「見事だった。お主らの覚悟、しかと見せてもらった。昔を思い出して楽しかったぞ」


 なんでも大昔、勇者パーティに補助役として同行し、魔王を討伐したらしい。

 人間以外の魔物が魔王を討伐した歴史は習っていない。まだまだこの世界には、僕の知らないことがたくさんあるんだなぁと、この時は特に気にしてなかった。

 後で、もっと考察しておけばと後悔したものだ。


 レイテ、カタリナ、ミハエルも全快だ。あれだけの強さを持ちながら、補助役とは恐ろしい。


 カタリナ、ミハエルに手伝ってもらい、重々しい扉を開いた。


 そこには、見渡す限りの草原が広がっていた。風が気持ちいい。洞窟の中の空間とは到底思えない。

 一軒の小屋がポツンと建っていた。その小屋以外は何も見当たらない。


「あそこに行けってことなのかな?」


「たぶん…他に何もないですし」


 レイテも初めて来たらしい。最奥にこんな空間が広がっているなんて誰も想像しない。


 三回、ノックした。

 何も反応がない。


 ドアノブに手をかけようとすると、勝手にドアが開いた。

 恐る恐る中を除くと、木の椅子に腰掛けた一人の男がいた。髪は緑。白い布のような服を着た、色白の男だ。

 すぐそこに居るのに存在感が希薄のように思えば、圧迫感というか、オーラが只者ではないと分かる。手に汗がにじむ。


「よく来たな!歓迎するぞ!まぁ、座れ」


 男が手をかざすと、人数分の椅子が現れた。魔法か、原理は分からない。促されるままに大人しく従う。レイテを見ると、神妙な顔で頷いていた。恐らくこの男がゼフィール様なのだろう。


「お前が今代の勇者か!

 まだまだ未熟、されど良いもの持ってるな。最近、俺への献上品が無くてストレスが溜まってたんだよ。だから、ちょっと遊んでやろうと思ってたけどよ、面白いものが見れたから勘弁してやる」


 ゼフィール様はニカっと気持ちよく笑った。もし満足していなかったら戦わなければいけなかったのかと思うと、ゾッとする。それだけの雰囲気がある。


「おお、そうだ。さっき巫女から、久しぶりに魔石やら酒やらを貰ったからよ。これ、やるよ」


 黄緑色で、透明な美しい宝石だ。魔石かな?ずっと見ていたい気持ちに駆られる。


「こ、これは!?ゼフィール様の魔石では?!ありがとうございます!

 あ、勇者様!慣れるまで魔石を長時間見つめてはいけませんよ」


 レイテが興奮して、大声でお礼を言った。


「お前さんには、こっちだ」


 こちらは緑白色の宝石だ。先ほどレイテに贈った宝石と異なり、白く濁っている。


「これはお前の成長に伴い変化する。どうだ、楽しみだろ?」


 ゼフィール様はイタズラっぽい顔をしてこちらを覗き込んできた。


「あ、ありがとうございます。綺麗な宝石になるよう精進します!」


 満足そうに頷いている。無礼は無かったみたいでよかった。


「あ、それと、女!お前もよかったぞ!

 隣のお前はいまいちだったな」


 ゼフィール様はカタリナを指差して賞賛した。ミハエルは逆に評価されなかったけれど、僕に言わせれば縁の下の力持ち的な役割を担ってくれていた。表には現れにくいが、居なくては困る人材だ。


「女には、これをやろう。地味なお前にはこれがお似合いだ」


 カタリナは靴を、ミハエルは眼鏡をそれぞれ貰った。


「この靴、凄い!軽い!まるで体が軽くなったみたいだ」


「この眼鏡…何かあるのでしょうか?

 まてよ、こうすると…意識すると、遠くが見える!凄いですよ、これは!」


「どうだ、気に入ったか?」


「「ありがとうございます!!」」


 二人とも興奮しながら、勢いよくお礼を言った。


「この先、他の神に会ったらよろしく伝えといてくれ!じゃあまたな!」


 一歩的に別れを切り出すと、再度手をかざした。

 すると、次の瞬間、僕達は草原に立っていた。ついさっきまでいた小屋は跡形もなく消え去っていた。


 まるで狐に摘まれた気持ちのまま、その場を後に、帰路についた。手の中の宝石が夢ではないことを物語っていた。


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