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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第二章 魔王対決編
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70話 死闘


「か、風魔法『風の刃(ウィンドカッター)』」


 レイテが動揺している。

 目の前に繰り広げられているのは、瞬きすら許されない高速戦闘だ。

 ハルピュイアは空中を縦横無尽に飛び回りながら避ける。曲芸飛行もいいところだ。


「風魔法『風の弾丸(ウィンドバレット)』!」


 地上から空中にいるハルピュイアに風の弾丸を打ち込むが、高速で移動する対象に対して小さな弾は当たらない。拳銃もそうだが、基本的には近距離での運用が力を発揮する。


「フハハ!遅い、遅いぞ!今度はこちらだ!そら!


 風魔法『竜巻(トルネード)』」


 小型の竜巻が現れた。


「きゃああああ!」「ぐ!」


 小型と言えど、自然災害に分類されるそれは、後衛に控えていたレイテとミハエルに甚大な被害をもたらした。

 レイテは竜巻に巻き上げられ、回転しながら空中に放り出された。レイテの護衛のために近くにいたミハエルも一緒だ。

 ミハエルはレイテを抱えて着地、地面を転がり衝撃を逃がす。しかし、体にかかる負担は大きかった。二人分の体重がかかったミハエルは足を痛めてしまった。レイテも全身を打ってまともに動けない。


「回復されたら面倒なのでな」


 やられた。

 戦線を維持すための回復役、生命線を絶たれた。


 頭上を取られた状態で戦っては不利な状況が続く。どうにか地上戦に持ち込めれば。

 その時、カタリナと目があった。私に任せろということらしい。


 今度は、僕が発射台だ。

 カタリナから何か呟く声が聞こえた。


「…私の能力はしがない身体強化だった。ただ体が丈夫に、力が強くなるだけ。それでも私は愚直に磨き続けた。気がつけば学校では一番に、張り合う相手も少なくなった…。


 今、私は楽しいぞ!


 身体強化(フィジカルブースト)!!」


 カタリナはさらに前傾姿勢になり、急加速する。そのまま僕を踏み台に、ハルピュイア目掛けて一気に空へ飛び出した。


「はぁああああ!!」


 全体重を乗せた一閃。


 しかし、直線的な攻撃は読みやすい。難なくハルピュイアの爪に阻まれた。


「ぬ!?」


 思いがけない威力に、空中でバランスを崩す。その一瞬を皆逃すほど、カタリナはお人好しではなかった。

 ハルピュイアとカタリナの視線が交差した。そして、立場は逆転する。

 頭上を取ったカタリナは一回転した勢いを乗せ、全力で切り掛かった。

 急所を狙えば防がれていただろう。

 およそ体から離れた剣筋にハルピュイアは反応出来なかった。


 勝ち取ったのは、片翼。


 カタリナの狙いは、初めから翼だった。

 片翼を失ったハルピュイアは満足そうなカタリナの口元を見た。声は出ていないが確かにそう聞こえた。



(わ、た、し、の、か、ち)



 …認めよう。

 この者達は強者であると。


 認めよう。

 この瞬間、勝負の、駆け引きに負けたと。


 認めよう。

 我が主人、ゼフィール様と謁見する資格があると。ただし、私を倒せたらだがな。



 片翼になり、不格好な飛び方になった。飛行を維持できず少しずつ高度が下がっているのに、さっきより圧が増したのは気のせいではない。

 自由落下を続けるカタリナは格好の的だ。

 ハルピュイアは風の魔法を放つ。

 不用意に近づかないのは、手痛いしっぺ返しを警戒してのことだろう。カタリナは守りを固め、地面に着地するまで耐えるしかない。


羽の矢(フェザーウィンド)!!」


 地面(ゴール)が目前に迫ってきたところで、ハルピュイアは残された片翼を犠牲に攻撃を放った。

 どうしてもカタリナを潰したかったようだ。いくら頑丈な身体を持っていても空中では、なすすべがない。羽の矢は、カタリナに全て命中し、地面に激突。


 よかった、息はあった。


 全身から羽が生えているようだ。根本からは血が流れている。早急にレイテの治療が必要だ。

 回復魔法の感覚は攻撃魔法とは違う。僕はまだコツを掴んでいない。軽い怪我ならまだしも大怪我は治療できない。


 地面に降り立ったハルピュイアを改めて見た。

 自慢の翼は片腕ごと失った。残りの片翼でさえも羽は全て抜け落ちた。そこには隻腕のハーピィが満身創痍で立っていた。

 しかし、感じる圧力は増している。動けない。早くカタリナを治療しないといけないんだ。


「そこを退いてもらうよ」

「やってみたまえ」


 それが戦闘の合図だった。


 腕がない方の脇腹から剣で切り掛かった。隻腕で弾かれた。羽で覆われている間は分からなかったが、薄らとウロコで覆われている。このウロコが剣を弾くほど、硬質化しているのだ。


 何度も剣戟を交わす。隻腕のはずが、戦況は拮抗していた。両腕が揃っていたら、初めから本気だったらと考えると恐ろしい。


 僕は距離を置くためにバックステップを踏んだ。


「風魔法『風の(ウィンド)…』」

「させぬ!!」


 隻腕が伸びて僕の腹を掠めた。集中力が途切れ、魔法は不発に終わる。

 発動に溜めを要す魔法は近距離戦闘に向いてないのかな。


 剣で決着をつける。


 僕はこの短期間で習得したすべてを使い、ハルピュイアに挑む。大振りの攻撃がきた。今だ。

 頭上を隻腕が通りすぎる。(ふところ)に潜り込んだ。

 ふと、目が合う。しまった、誘い込まれた。


「風魔法『風の十字架(ダウンバースト)』」


 頭上から地面に押しつけられる突風が吹いた。

 動けない。


 ハルピュイアが大きく振りかぶった。

 まずい、逃げなきゃ。

 ダメだ、動けない。

 視界がスローモーションになる。

 歯を食いしばれ。


「グフッ!!」


 地面を跳ねながら吹き飛ぶ。ただの一撃で瀕死の重傷だ。粘土のようにひしゃげた盾を横に置いた。攻撃の寸前で、盾を差し込めた。これが無ければ、無事では済まなかっただろう。



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